よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

絶え間なくやり取りをしながら行う意思決定(CIM)とは

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トップマネジメントは、常に経営意思決定を行わなければなりません。

一般的な経営意思決定の方法には、

 ①トップダウン方式

 ②ミドルアップ方式

 ③ボトムアップ方式

があります。

しかし、これらは特定の階層が一方的に意思決定を行い、組織を動かす方法です。

 

厳しい時代にはトップダウンによる意思決定が最適である、とか中間管理職の情報をもって意思決定の軸を決めていこう、とか、問題は現場にある、としてボトムの意見を吸い上げて意思決定を行うことが重要だ、といった考え方に基づいています。

 

ここでいうトップダウン方式においては、背景には情報の収集を意図していると考えることもできますが、実際には「経営意思決定はトップが行うべきだ」ということだけでのトップダウンメソッドが定義されています。

 

ミドルアップメソッドについても、大手コンサルティング会社によって提唱された概念で、大会社では社長はお神輿にすぎない、お神輿経営において経営意思決定を行うのは中間管理職である、といった概念を出してきていたのであり、当時においても一般的にはとてもありえない概念であるといわれていました。

 

ボトムアップが流行したときには、あたかもボトムラインが組織を経営しているような意識をもたせることによって組織を動かすことが、現場のコンセンサスを得た経営を行うことができ、ボトムからトップの間の層の仕事に対するモチベーションを高めることができるという仮説がありました。

 

しかし、それは成功せず、いまではトップダウンの反対概念としてのボトムアップという定義が残っているだけであると理解しています。

 

これらは、トップから下に、ミドルマネジメントから下に、ボトムから上に、のように、すべてベクトル(方向)が一定である経営意思決定の方式であることがわかります。

 

もちろん、トップダウンだからといって、触れたようにトップの思いだけで決めることはなく、情報収集→代替案の検討→選択というプロセスのなかで、現場からの情報を吸い上げないわけではないし、また他の方法においても、それぞれの階層が独自で組織運営のための意思決定を行うことはありません。

 

しかし、これら3つの方法は、どこからスタートするのかということだけを表現しており、真実の意思決定のありかたを明らかにしていません。

 

それはすなわち、経営意思決定をどのようなと仕組みで行えばよいのかの説明ができていないことと同義です。これでは実務に役に立つことはありませんし、場合によれば間違った経営を行う原因をつくります。

 

私は、これらの方法に対し、経営意思決定の方法としてコンスタントインターチェンジ方式=CIMを提唱しています。CIMはConstant Interchange Method(絶え間なくやり取りをしながら経営意思決定を行う方法)をいいます。

 

すなわち、トップダウンで意思決定を行うのではなく、トップマネジメントが今考えていることをいくつかあげ、それぞれの代替案を仮説として、それが正しいのかどうかについて現場に問い、さらに未知の情報を収集します。

 

情報を収集したうえでトップはさらに仮説を立て、検証のために現場に情報提供し、情報を収集します。そしてその繰り返しの後一定の結果を得て…というプロセスを繰り返すことでいくつかの代替案を検証し、最後に納得する意思をかため、自信をもって経営意思決定を行い、組織にそれを徹底し(落とし込み)ます。

 

一度に意思決定プロセスを動かすのではなく、いくつかの仮説一つ一つ(代替案)について、情報収集→評価→検討→情報収集→評価→検討というプロセスを現場の各階層と繰り返しながら、最終的に代替案を選択するという方法です。のちにトップ→ミドル→トップ、さらには、トップ→ボトム→トップのように何回でも現場との情報のやり取りを繰り返すことがCIMの肝です。

  

CIMにおいては、常にトップが中心となり、情報を集め、議論するプロセスが明確に意思決定のなかに織り込まれています。

 

従来のトップダウン方式の亜流ではなく、インターチェンジ(やり取り)することが意思決定のプロセスに含まれていることが特徴です。意思決定のためにはインターチェンジングしながら意思決定の境界線を徐々に確度の高いものとしていくことによって、意思決定の質を上げていくことを求めているのです。

 

 トップが責任をもつとしても、思いつきや感性だけでは意思決定を行うことは避けなければなりません。環境変化を察知する、競合をみる、データをみる、現場をみる、患者から話を聞く、あるいは情報を収集する、職員の仕事ぶりをみる、中間管理職と議論する、といったプロセスを経て、考えをまとなければなりません。

 

この方法では徐々に明確になるトップの考え方を説明していくことから、意思決定の事前のアナウンスメントを行うことにもつながります。

 

それだけではなく実は現場では、トップがみていること、トップから聞かれること、トップが探りを入れていることをトータルでつなぎあわせ、ミドルはミドルなりに、またボトムはボトムなりに、トップが何を考えているのかについて少しずつ理解するようになりもします。

 

これはトップが経営意思決定をするときに、それが受容される素地をつくるとともに、経営意思決定が成果をあげていくことができるよう、現場を行動させるエナジーにもなります。

 

トップマネジメントによる経営意思決定までの個々の活動は合目的的であり、常に一定の目的をもって実行されていることが徐々に組織内で理解されてくるなかで、トップが新しい意思決定を行おうとすること、そのための情報収集を行うことが組織に何か始まるぞ的なわくわく感にも似たパワーを与えるのです。

 

トップは、CIMによる経営意思決定を心がけることが必要です。

 

トップマネジメントの強い思いや的確なマネジメントが、職員を動かし組織をつくるとすれば、CIMはまさにトップがトップらしい活動をするための道具であるということができます。

 

なお、CIMは絶え間なくやり取りをしながら経営意思決定を行う方法ですが、実はCIMはトップによる経営意思決定で利用するだけではなく、どのような階層においても何かを決めるときには必要な手法です。「絶え間なくやり取りを行う」ことがどのような意思決定においても必要であり、例え短い時間で、他の階層とやり取りを行いながら情報の確度をあげて、最も優れた代替案を採用できるよう行動しなければならないのです。

 

CIMの考え方を組織に持ち込むことで、組織の力を活かすことができます。

 

この考え方を採用する多くの組織においても、CIMという概念を理解し、これをフレームワークとして使うことで、定型的に合目的的な成果を挙げられるようになります。さらに研究を重ねていきたいと思っています。

 

期末日現在の財政状態から理解するもの

 

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法人の決算書には、貸借対照表と損益計算書があります。貸借対照表は、(決算)期末日現在における財政状態を表します。また損益計算書は一年間の経営成績を表わします。

ここで、財政状態とは、資産と負債、資本の状況をいいます。

資産=負債+資本であり、負債+資本は調達を、そして資産は運用を意味しています。他人から調達した資金が負債(他人資本)、自ら調達した資金が資本(自己資本)であり、それらをもって資産のかたちで運用し、事業を行うことを表しています。

 

財政状態をみることにより、法人の規模、資金の源泉、資産、負債、資本のバランス、法人運営の巧拙を知ることができます。

法人運営の巧拙がどうであるかは、安全性をみれば判断できます。安全性は、流動比率、固定比率、長期適合比率、自己資本比率などで測定します。

まず流動比率ですが、流動比率は、流動資産が流動負債を超える率をいいます。100%以上あることが必要です。

固定比率は自己資本に占める固定資産が100%以内であること、そして長期適合比率は固定資産が自己資本と長期借入金の合計額の100%以内であることを求めています。

さらに自己資本比率は、負債と資本を足した総資本に占める自己資本の割合を示すものであり、40%以上あれば、健全であるとされています。

なお、貸借対照表における資産は、収益獲得能力があるとされていて、翌年の収益を得るための材料であることが分かります。

現金預金はどれくらいのこっているのか、医業未収入金の金額はいくらか、また、棚卸資産はどうか、有形固定資産はどのていどか、さらに他にどのような資産があるのかなどを把握し、どのようにそれらを使って医療を提供していくのか検討します。

また、負債の内容を把握し、どのような返済をしていけばよいのかについて考えてみる必要もあります。

また、ROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)があります。ROAとは、自己資本と他人資産(借入金や社債など)を含めたすべての資本を、その会社でいかに効率的に運用できているかを表す指標です。ROEは、自己資本(エクイティ)が効率的に運用できているかを知ります。 

少ない資本で多くの利益を得る事業なのかどうか、資本を効果的に活用できているかを知り自社政策の巧拙を分析します。

私たちは、損益計算書はもとより、上記、貸借対照表から得られる情報をもとに、法人の現状を理解し、どこに課題があるのかを発見することができます。

とても厳しい時代を迎えた今、財政状態から得た課題を解決することで、的確な経営を行っていかなければなりません。

 

なお、我々は人においても、自分の貸借対照表を考える事ができます。人の資産は時間であったり人間関係、能力であったりしますが、それらを最大限駆使して成果を挙げられるよう考える必要があります。時間を使い能力を高め、人間関係を構築することで何を成し遂げていくのか。

それらを定量化できれば、少し無理はありますが、自分の主観的な貸借対照表や損益計算書をつくることもできますね。自分の資産は何でどのくらいあるのか、負債はどうか。となるとネットの資本はどんな感じか。一年間の自分を経営した結果、どれだけの価値を生んだのか、など。

常に考え行動できる自分をつくることを念頭におき日々を過ごすことで計画的に達成感を得たり、行動分析を行い自分なりの課題を見つけ、解決行動を取ることもできると考えています。

 

人がやる気になり力を発揮するために

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最近、エンゲージメントがはやりです。

 

エンゲージメントとは、社員の会社に対する、愛社精神という意味で、社員一人ひとりが組織に愛着を持ち組織と一体となり共に成長し絆を深めていく関係をいいます。どうすれば組織は社員のエンゲージメントを高めていけるのかがマネジメントの重要なテーマになっています。

 

私は、組織に対する愛着は帰結であり、まずは、仕事に対する執着を引き出すマネジメントが必要だと考えています。人は自分のために仕事をします。自分が自分のやりたいことをするために組織があるのです。

 

もちろん組織とは雇用関係にあるわけで、組織の求める成果を挙げられなければ高い評価は得られません。しかし、自分がやりたいことをできずに組織から評価されたとして、個人は満足することはできません。高い評価を得られる仕事が自分のやりたいことであるのであれば、個人は組織とともに成長することができますが、いつもどこかに不満をもちながら組織から求められる関係は、双方にとりよい関係ではないと考えているのです。

 

自分のやりたいことがないので組織の求められることを行い、成果が挙がり評価されて満足できるという職員もいるとは思いますが、自分で決めたことができて達成感を得て、同じように評価されるときの満足と比較して、どちらの満足が高いかは自明の理です。

 

組織はできるだけ社員の「これをやりたい」「こうなりたい」という思いを引き出し、やりたいことが見つけられるよう努力しなければならないし、やりたいことのある社員でも、やりたいことを見つけた社員であっても、彼らの目標達成と組織目標達成が一致するようにマネジメントを行えるよう取り組みを行う必要があります。

 

少し古い理論ですが、心理学者であるフレデリック・ハーズバーグが提唱した仕事における満足と不満足を引き起こす要因に関する理論では、人には苦痛を避けようとする動物的な欲求と、心理的に成長しようとする人間的欲求という2つの欲求があり、人間的欲求で満足を感じるのは、承認を得たときや物事を達成したときと結論づけています。

 

職員が承認を得たり、達成感を感じるときがもっとも満足感を得る、すなわちやる気になるということを意味しています。

 

ただ、一方で不満足を招くのは会社の方針や管理、そして人間関係や労働条件であり、いくら満足する要因があっても、これらが整備されていなければ不満足を感じます。満足を招く要因と不満足を招く要因のバランスによりその人の組織への愛着が生まれる度合が決まると私は考えています。

 

ところで、エンゲージメントを高めるためには企業文化が重要であるといわれています。企業文化とは、企業と社員との間で共有・形成される独自の価値観や文化、規範、ルールのことを指します。企業文化が共通の指針として機能したり、チームワーク強化、そしてパフォーマンス向上につながります。

 

しかし、評価や報酬の制度をつくり、リーダーが的確な行動を行うこと、会議の運営やコミュニケーション等々日々の習慣が必要であり、これらがうまく行われず企業文化とギャップがああると、いくら良い企業文化があっても社員は定着しないとメリッサ・ダイムラーは説明しています(HBR.May 11, 2018)

 

まさに本人が達成感をもっても、それを打ち消す不満足を招く要因があれば、彼らは力を発揮できないというハズバーグの考え方と符合します。

 

組織は人が達成感を得るための仕組みと、彼らが不満足を感じない対応を行えるよう取り組みをしていかなければなりません。

 

これより先、私は達成感を軸とした現場で使えるマネジメントのフレームワークとその支援システムをつくっていきます。

 

 

 

PDCAの前にASCS(アスクス)を

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 PDCA
サイクルは言い古されていますが、とても大切な考え方です。これは、計画を立て(P)、実行し(D)、チェックして(C)、修正を行うことを繰り返し(サイクル)ながら成果をあげる考え方をいいます。しかし、どのように計画を立てるのかというところが脆弱で上手く成果を出せないことがあります。

 

例えば残業が多いので残業をなくそう、という問題があったとします。残業を発生する要因を分析せず、部署毎の残業を集計し、残業は何時間以内と決め、それを各部署で守ることを決定し、決めた時間を超えないようにしようと計画を立て活動を始めます。

しかし、残業が発生する原因が、業務の不効率にあるのか、他部署とのコンフリクト(衝突)に原因があるのか、個人のスキルに課題があるのか、そもそも人員が不足しているのか、といたことについての分析ができていなければ、ただ残業をなくそうとしても、課題解決が個人レベルの改善に依存してしまい、なかなか解決できず残業削減のための活動が徒労に終わることがあるのです。

PDCAサイクルをあるべきかたちで廻すためには、まず的確な解決策に基づく計画を立案することが必要です。

 

残業を何時間にする、現状はどうなのか、何時間減らさなければならない。その時間はなぜ発生しているのか、要因は上記のように複数想定される。

業務の不効率を発生させる原因は、何度もチェックをすることや転記が多すぎる。そもそも他部署の業務を代替していること、さらに他部署との連絡がとりづらくいつもアイドルタイムが発生すること、そして個人のスキルもバラバラで個人別の作業の時間に差があること、もっといえば時間帯により短時間パートが勤務から外れることも要因となる、と分析できたとします。

それぞれの要因別に解決策を検討し、業務見直し、他部署とのコンフリクトに責任者が介入し先方の協力を得る、時間を決めて迅速に対応依頼、マニュアル化。そして、評価を頻回に行いながら個人の教育を徹底すると決め計画化します。その結果、人員不足はクリアーしたうえで、残業をなくすための計画達成活動のためのPDCAサイクルを廻します。

 

ここに(1)今何をしなければならないのか、到達点(AttainmentA)はどこか(2)現状(StaiteS)はどのようになっているのかの分析(3)到達点と現状の間にはどのような乖離、ギャップがあるのかを正確に確認(ConfirmationC)(4)そのギャップを埋めるためには、どのような解決策(SolutionS)があるのかを検討し解決策を決定し、その一つ一つの実行を計画し、PDCAサイクルに乗せるというながれをつくること。それが早期に成果をあげられるという考え方が示されます。この行動の頭文字を取りASCSと言っています。

ショートカットにならないPをつくるためにはASCSが必要な理由がここにあります。

 

問題はもう少し複雑ですが、簡単に考え方を整理します。

到達点が不明瞭だと、組織として、何を目指して活動すればよいのか分からず、日々の直面する仕事を懸命に行うしかなくなること、また仮に到達点が明確でも、現状分析ができていなければ、解決すべき問題がどれだけあるか、そのための課題は何かが掌握できず、行動が網羅的に行われないこと、到達点や現状分析が行われて乖離の確認が行わなければ、何を解決すべきかを見いだせない。そして解決策が適切でなければ解決につながらないということを理解し、ASCSを意識し解決策を誘導しなければならない、という結論です。

PDCAサイクルを廻すときに、ASCSによるアプローチを行い、成果を挙げる活動をしていただければと考えています。

 

病院ガバナンスの成果

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 組織が目的とした成果を得るために、病院全体をコントロールすることを病院ガバナンスといいます。病院ガバナンスは、病院がもつヴィジョンや戦略を達成するため、経組織力を最大限引き出すことを目的として行われます。したがって、目的や目標のないガバナンスはありません。

 組織は、達成すべきものがあるので、より効果的かつ生産性をもって組織を動かさなければなりません。できるだけはやく目的を達成するために、ガバナンスを行うと理解をして下さい。

 病院ガバナンスを行うときには、就業規則をはじめとした権限規程や職務基準、マニュアルなどのルールや、経営会議、管理者会議などガバナンスのための会議体の組成が必要です。

 しかし、何よりも、大切なのは、この組織はいったい何を目的として存在しているのか。いつまでに、誰が、何をどのように行わなければならないのか、など目標が明確であることが必要です。目的や目標が定まっていなければ、いくらガバナンスのためのフレームワークをつくっても無意味です。

 ガバナンスのための仕組みを行ったのち、組織目標を設定し、その達成のために行動します。

 具体的には、

 (1)指示が経営会議で行われ、各部署の代表で構成されている管理者会議に提示する。管理者会議から、現場会議を通じ指示がさらに各部署に割り振られ、それぞれの適性に応じて個人の役割に落とし込まれる

(2)日々行動があり、その成果を得る。それらを管理会計により整理したのち、計画と実績の乖離が次回の営会議に報告される

(3)経営会議において、各部署目標が達成できたのかできなかったのか、できなかったのであれば、なぜできなかったのが議論され、課題解決が行われつつ、当初目的達成のための指示が管理者会議に提示される

(4)管理者会議で行動内容及び計画議論が行われ、行動につなげる

このように、経営会議、管理者会議、現場会議を経て各部署が連携しながら病院の生産活動が行われることになります。

 これがガバナンスの全体的なながれです。このながれに採用や配置、活動、評価、教育、処遇等々さまざまな仕組みが追加的に付加されることになります。とても簡単に見えますが、実は奥が深く運営に骨が折れます。各部署の活動は、まるで意思をもつアミーバ―が無秩序に動いているようで、実は組織目標に向かって成果をあげていく活動をいいます。

 試行錯誤のうえで、これらがうまく行われれば、決めたことを必ず達成するという文化や風土が生まれます。病院ガバナンスの成果です。

 仕組みが意思をもち文化や風土にまで昇華すれば、あとは自助的にそれらが進化し、病院は自信をもって、次の時代に駒を進めることができるようになります。

 病院ガバナンスができあがっているか、どこに課題があるのかをしっかり確認しておくと良いでしょう。

姿勢や態度を評価する

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ラオスヴィエンチャンにあるベトナム系の病院の放射線技師


 職員の行動が患者や家族にさまざまな影響を与えます。業務が円滑に進められるか高い質の医療を行えるかどうかは職員次第だからです。職員の姿勢や態度、そして能力が組織運営上とても大きな要素であることがわかります。まずは職員の姿勢や態度のレベルを評価し、組織の求めるレベルに到達するよう職員を教育する必要があります。

 評価を行うためには情意考課を行います。情意考課は一定の基準であり、発揮能力を評価する能力考課や、目標管理により行われる業績考課とともに人事考課の一部を構成します。情意考課では、協調性、規律性、責任性、積極性の4つのカテゴリーに属する項目で評価を行います。規律を守り、責任をもって積極的に、かつ協調性をもちながら仕事を行っているかどうかを評価するものです。

評価項目を例示列挙すると以下のようになります。

・病院理念の実践している

・言葉づかいや所作は相手の立場にたって選んでいる

・社会人として適切な挨拶ができる、期限を守れる

・仕事の仕方や仕事の提案をしている

・他人の意見を尊重している

・職場の規律を守っている

・任された仕事は責任を持って遂行している

・積極的に物事に取り組んでいる

・論理的に整合性のある意見を職場内で出している

・何事も学習し、仕事に役立たせている

・自分としてのキャリアプランを持っている

・指導は的確である、自らの権限を理解している

・病院において必要な制度がどのようなものであるか説明できる

・病院における将来ビジョンにむけた活動をしている

・業務に新しい手法を取り入れている。

 それぞれの項目を、本人、上長、そして最終の当該部署の責任者か、一定のメンバーから構成される評価委員会により、3段階で評価します。

 一般職、管理職、監督職により上記評価項目の比重は異なります。例えば「指導は的確である」という項目は、一般職には適用されませんが、監督職は一部、そして管理職は大きな比重で評価の対象になることがそれです。

 なお、評価項目を評価対象として事前に説明することで、どのような人物が求められているのかを示したのち評価するのは言うまでもありません。

 この評価は普遍的であり、医療以外でも、また海外においても十分に機能するものだと理解しています。  

管理会計を病院経営に活かす

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会計には財務会計と管理会計があります。

 

財務会計は報告のための会計をいいます。納税や銀行提出、関係監督官庁や理事会等への報告がそれらです。

 

管理会計は、文字通り意思決定に役立つ管理を行うための会計をいい、指標管理や月次会計、部署別・診療科別損益計算や疾病別原価計算、投資意思決定のための投資経済計算(特殊原価調査)等があります。

 

財務会計は病院会計準則に従い作成されますが、残念ながらそこからは多くの経営情報を得られません。

 

収益と費用、利益の発生状況や資産や負債、資本の状況を把握することはできても、毎月発生している問題を網羅的に拾うことはできないのです。 

 

そこで管理会計の登場です。管理会計から多くの経営情報を得て成果を挙げることができるからです。

 

しかし、例えば月次決算の閉めが2ヶ月後の環境で部署別・診療科損益計算を行ったとしても、経営会議で2ヶ月前の問題点を発見し、その改善策を練っているのでは修正が間に合わないことは誰でもわかります。

 

増患の指標管理でいえば、診療科別、コマ別、医師別、紹介経路別外来患者数やオーダー件数、入院経路別入院数、紹介元別紹介件数、病棟別病床稼働率や平均在院日数、オペ件数や、手術室稼働率、時間外労働、有給休暇取得率、インシデント・アクシデント種別件数等(他にも膨大にあります!)が、タイムリーに計算そして分析されなければ適切な意思決定と行動は行えません。

 

管理会計を迅速に経営に活かすためには、以下の要件が必要です。

(1)何のために管理会計を使うのか(何を解決したいのか)必要性を理解する

(2)正確かつ迅速にデータを出す体制をつくる

(3)数値を出しただけで満足せず、適切なデータ分析から意思決定を行い、必ず実行につなげる

これらができなければ、暗闇で経営を行っているのと近い状況におかれます。

 

毎日ただ懸命に仕事をする、現場で日々発生している小さな問題解決をその場で行うことで日々が終わってしまうのでは、これからの時代を乗り越えていくことはできません。

 

現状把握を行い、到達点との構造的なギャップを即座に認識し、そのギャップを埋めるための解決策を明らかにする。そしてどう行動すればよいのかを計画に落とし込み実行することが正しい病院経営だからです。

 

何をしたいのか、どこに到達したいのかを明確にしたうえで、到達点辿りつくために1年間、1ヶ月、毎週、毎日どのように行動すればよいかを決め、決めたことを実践しなければなりません。管理会計の有効な活用が望まれます。