よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

仕事に対する心構え

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心構えとは、「物事に対処する心の準備や覚悟」をいいます。人の価値観は多様で、人生のなかで仕事をメーンに考えている人も、手段として捉えている人もいます。仕事が好きな人も、嫌いな人もいるでしょう。

 

結果、仕事に懸命な人も、懸命でない人もいます。こうして定義を決めて、分析すれば何百通りの比較ができるかもしれないほど仕事に対する人の意識を評価して位置づけることは困難です。

 

パレート法則によれば、組織のなかで多くの仕事(80%)をしている人は職員の20%に過ぎず、あとの80%は与えられた20%仕事を行っているだけで、そのうち20%は、与えられた仕事ですらうまくこなせていない可能性も高いといわれています。

 

職員に仕事に対する心構えを説き、何とか組織の進む方向に歩調を合わせ、全ての人に力を貸してもらうということは難しいのかもしれません。

 

しかし、そうはいっても組織全員に何かをしてもらい組織が成立しているとしたら、どのような仕事への価値観をもっていたとしても、全ての人に成果を挙げてもらわなければなりません。

 

『一人ひとりを評価し、どのような価値観をもち、病院で何をしたいのかを聴取する。組織の求める目標と本人のやりたい事をすり合わせ、本人の役割を検討し、その役割を依頼(付与)して受容(約束)してもらい、役割が果たせるように組織が支援する』という、コミットメント(約束)サイクルを廻すことが必要です。

 

一人ひとりの職員に光を当て、肌理の細かい指導を行えばパレート法則を崩すことも可能ではないかと私は密かに考えています。

 

少し話がそれましたが、上記コミットメントサイクルを廻しながら、仕事に対する心構えを説く必要があります。とりわけ重要なポイントは、「役割を依頼して受容してもらう」部分です。

 

「君はこういうことがしたいんだよね。こういうところ期待している。なのでこの仕事を是非やって欲しい。信頼に応えて欲しい」という面談時のやりとりを通じ、

「このことは当院として何としてでも達成しなければならない。宜しくお願いします」と依頼。

 

ここで部下に心の準備をしてもらい、本人に、受容れることを覚悟と捉えてもらうのです。

 

もちろん人により意識の濃淡はありますが、『仕事に対する病院側の姿勢や具体的な目標、そしてその役割を果たしてもらうために君が必要だ』というスト―リーは(職員から面談者が信頼されていれば)職員一人ひとりに何等かの気づきと小さい心の準備、そして、ほんの少しの覚悟を醸成することができると考えています(ただ、実際にはやる気のない、やりたいことのない職員も多数いて、この段階のマネジメントに到達しない組織があるのも事実で、その場合は別のアプローチも必要です。他の記事で説明しますね)。

 

コミットメントサイクルを廻し続けることで成果を挙げて成功する者が多く生まれ、達成感を経て、仕事に対する心構えや覚悟がそれぞれに根付くと期待しています。

 

もし、今よりよい成果を挙げたいと願うリーダーであれば、ここでいうコミットメントサイクルを自院で廻すことをお勧めします。

 

日本人とサムティベート病院

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サムティベート病院 日本医療センター

 アジア各国の病院設備は日本の病院と遜色ない病院が多く、とりわけフィリピンではファンドや病院管理会社の保有する病院、また、タイやマレーシア、シンガポールでは民間の株式会社病院が、高いレベルの医療で、他国の重篤な患者の受け入れを行い、国レベルではなく地域レベで成果をあげています。

 

 それぞれの病院の医師は米国やヨーロッパ、オーストラリアそして一部は日本に留学して医療を学び、自国に戻り鍛錬を重ねて優れた技術を身に着けています。

 

 タイでは優秀な医師に高い報酬を出して、民間病院が医師を採用し続けた結果、公的病院から医師がいなくなったという話を聴きました。

 

 その後公的病院も報酬を上げて医師を確保したという落ちがありますが、彼らは設備を整備し、優秀な医師を集め、アセアン各国(東南アジア諸国連合)や中東から患者を集めるという戦略をもって病院を運営しています。

  

 タイで最も大きい、株式上場をしているバンコク病院グループのホームページには、「バンコク・ドゥシット・メディカル・サービス(BDMS)はタイ最大の医療ネットワークを展開しており、医療ケアソリューション提供者のリーダーとして活躍しています。

 

  今日、BDMSは6つの大手病院グループ(バンコク病院、サミティベート病院、BNH病院、パヤタイ病院、パウロ記念病院、ロイヤル病院)を所有・運営しており、パタヤやプーケット、サムイなどのタイの人気のリゾート地や近隣国のカンボジアに30の病院を展開しています」と記載されています。

 

 以前このブログでも紹介しましたが、ミャンマーのパルミ病院や、ヴィクトリアホスピタル等、業務提携やコンサルティングを行なっている病院も多数あります。

  

 同グループのバンコク市内にあるサムティベイト病院で友人と一緒に診察を受けたことがあります(外国人の私でも診察券はあっというまに発行されました)。

 

 美しいホテルのような内装と、飲食店街をもち、フロアーのコーナーを支配するジャパンデスクをベースとし、多くの外国人を受け入れる体制をつくりあげています。

 

  実際に友人が皮膚科を受診してみて、目に着く課題はいくつかありましたが、日本と比較しても、一定の質をもった病院であることに感心しました。

 

 ただ、今では前述した優秀な医師により多くのオペが行われており、医療の質が侮れない領域に入ってきています。日本がアジアの医療に興味をもたない間、アジアの国々は、努力して質の高い医療をもって活動を展開しています。

 

 この病院では、年間12万人以上の日本人が診療を受けた実績があると、当時(数年前)のジャパンデスクマネジャーのMさんが答えてくれました。

 ただ、日本人の患者は多いけれども、お金を落とすのはミャンマーの富裕層やアラブ首長国連合である。日本人は何かあれば日本に帰り手術を受ける、と話を聞き、妙に納得したことを思い出します。

 

 ところが、最近の記事を見ていると、2019年6月に大阪の高槻病院、神戸の佐野病院と連携して、内科、外科、小児科だけでなく日本人に罹患の多い消化器科を診療科としたASEAN初のサミティベート日本人医療センター(入院30室)を開設したと報道されています。

 

 直近では年間14万人の日本人患者や200人の出産があったということで、多くの日本人が働く(邦人8万人弱[2019年末])タイならではと感心しています。

 

 翻って日本の医療を考えます。

  もちろん、国内の医療事情も大変な状況になっている今、それどころではないという状況ではあります。

  しかし、日本の医療のこれからを考えるとき、少子高齢化が加速度的に進むなか、急性期病院を少なくしていこうという政策がある日本の医療をどのように守っていくのかを考えなければなりません。

 

 海外との連携を通じた国内における医療活動や、肌理の細かさで評価の高い日本の医療を以て、サムティベートでも日本の病院が応援しているように、アジアの医療をけん引するための活動をさらに行っていくことも、選択肢の一つであると、私は考えています。

アジアと日本の医療

 

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日本は国民階保険制度のなかで医療を提供し、多くの病院を抱える一大医療立国になりました。だからといって日本だけが優れた医療を提供しているわけではありません。

 

アジア各国の医療を見ていると、その思いをとても強くします。日本の医師や大学教授とともに北京の複数の病院を訪問し、ミーティングをした経験からすれば、医療水準は日本にほぼ追いつき、まだ日本が優れた領域もあるものの診療科によっては日本を超える状況にあります。

 

また、実際に現地を訪れた経験から、シンガポールは言うに及ばず、マレーシアやインドネシア、タイ、フィリピンの病院も、医療水準が日本より劣るという印象はありません。

 

「日本人は大きな勘違いをしている。アジアの国の医療は驚くほどレベルが高い」とクアラルンプールで診療をする日本のE医師から数年前に聞いた話はとても印象的でした(最近では大学病院のT教授から日本の優位なのは内視鏡。そのほかは海外の技術が高いと言われました)。

 

日本には大きな医療市場があったために、海外、とりわけアジアとの交流を積極的に行ってこなかった過去があります。語学の問題や日本の医師免許が直接使える国が少ないこともその理由です。

  

何れにしても、少なくとも自分達はアジアで1番と考えている間に、少子高齢化が進み1人当たりGDPは世界20位以下になり、医療制度改革が遅れ、さまざまな面でアジア各国に追い越されています。

  

アジア各国のターゲットは中国であり、タイやシンガポール、マレーシア、インドネシアなど医療が比較的進んでいるASEANの病院内勉強会などでベンチマーク指標に日本がでてこないことに驚きます。日本を見ていません。

 

彼らは欧米で学び、多くの患者を前に奮闘しスキルを身に着けている段階を越え、高いレベルで他国からの患者を治療できるシステムや技術をもった病院に変貌しています。

 

医療格差はありますが、JCI(Joint Commission International=医療標準審査)の認証を受けた病院も数多くあり、JCIがすべてではないものの、高い医療管理の(JCIは、絶対的な医療のレベルを担保するものではありません)レベルが伺えます。

 

ちなみに日本でJCI認証を受けているのは順天堂大学病院、国際医療福祉大学三田病院、赤十字足利病院、聖路加病院(順不同)等30機関です。アジアの状況は中国85、タイ61、インドネシア30、マレーシア16、台湾13、韓国12、ベトナム5(2020年5月現在)となっており、日本は健闘しています。

 

ただ、診療現場における対応や前述した言語の問題は根深く残っており、多くの日本の病院は、決して世界標準ではありません。日本だけで医療が成り立ってきたことの帰結なのでしょう。

 

すべての医療の質がアジア各国に比して絶対的に優れているとは言えないのです。

 

もちろん私は日本の医療の方が、全体として高い質の医療を提供していると確信してはいるし、全体としては国民皆保険制度や国民の行動により、平均的な医療にはかなりの優位性があるのは事実です。

 

ただ、イノベーションにより海外に目に物見せる医療を提供する環境を作れる余地はまだまだあると考えています。

 

事実、ASEANでの日本との医療のコラボについてのニーズが、引きも切らないことを、私は知っています。一般の方々との会話のなかでの印象ではありますが、ベトナムやミャンマー、カンボジアやラオスはその際たるものです

 

今はコロナでどの国も大変な状況に置かれ、ただちにインバウンド復活というわけにはいきませんが、国内での課題解決や、アウトバウンドの活用も含め、多くの公的・民間病院が活動を始めている海外との関係を強化しながら、これからの日本の医療をどのように変革させるのか、早急な取組みが必要です。

 

これからどのような時代になるか・雑感

 

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 これからどのような時代になるかを予想することはとても大切なことだと思います。 

 コロナを契機に自分なりに、多くの人がそのことを考えていると思います。

 

 どうなるのか、ということを予想するためには、まず、現状の分析が必要です。何が起こったのかを反芻することにより、その延長線上をみることが効果的です。

 

 まず、経済が止まるとすごいことが起こる、ということを間近にみて、大企業ですらそのながれに逆らうことはできないという経験は大きかったと思います。業種によっては、有事のときの組織運営において何をしても抗えないこともある、という事実は想像すらできなかったことです。

 

 コロナがレアケースではなく、これからも同様の闘いが生まれるとすれば、今回大きな痛手を被った業種においては、既存事業における修正や新規参入への抵抗、就職動機の変容が起こると考えています。

 

 もちろん、コロナの記憶が途切れる時代の到来を望んでいるので、対応の仕組みができるまでの事ではあると思いますが、しばらくは皆がリスクを共有するなかで、消費行動を抑制するし、海外との行き来も不活性な時期が続き、経済の縮小が生まれるのは自明の理です。

 

 国の財政逼迫も更に加速し、出口が見えません。オリンピックの開催も危惧される中、今年や来年は日本の「かってない最悪な状態を見なければならない」可能性もあります。

 

 今後、それぞれの業種において自分達の事業をどのように継続していくのか、価値創造のポイントを捜し、仕組み化する必要があります。臥薪嘗胆の日々がしばらく続くでしょう。

 

一方、国レベルで、共通の目標があると皆が一体となれることや、人は助け合って生きなければならないことが見えたのはよい体験でした。皆が同じ意識で行動し、一定の成果を挙げることに喜べることは、国民の心底に刻みつけられたと考えています。。

 

このことから、どのような組織においても、仕事をしていくときに課題に立ち向かう一体感や、相手を思いやる一定の態度をとることについての意識醸成が行われ、マネジメントが行い易くなった事実があると思います。

 

今後、共有できるビジョンを立て、(どのくらいか予想できないなかでの一時的な)限定された活動を最大限活用し、成果を挙げる活動が生まれ、コロナを経て各企業は強くなると考えています。

 

 助け合いというキーワードからは、ヤフオク、メルカル等フリマの規模ではなく、助け合いのためのクラウドファンディングの有効活用やNPOを通じた事業、地域毎の地消されなかった食材の販売など、既に萌芽は見えますが、この領域からもさらに新しい事業が生まれることでしょう。

 

 そして、医療の大切さが身に染みて分ったこと、自分の健康は自分で守らなければならないこと、不健康はやばいといことが分かった国民の多くは、自己管理を徹底し、健康を志向することになります。

 

 体力を維持するためには、を身体動かさなければならないこと、しかし単にジムに行くのではなく、自分で工夫しながら健康をつくろうという意識が高揚することは間違いありません。飲食や運動、サプリメントや健康になるための機会創出が活発になります。

 

 働き方については、生産性や他の効用の議論を度外視すれば、仕事は出社しなくてもできること、逆に移動しないことでの生産性は向上すること、ただ、コミュニケーションをとるためには、会ってリアルに話さないとよい人間関係はできない可能性もあることが分りました。

 

 仕事のやり方において、誰もが気付いたように、明らかにIT活用が有益で、何をするにしてもその流れをあらゆる場面で創り上げていくことになります。 チームワークの重要性も見直され、相互関係をつくるための場も設定されます。

 オフィスはスモールオフィス化やレンタル化、プライベートオフィス、コミュニティ型ワークスペースへの志向が高まります。

 

 どこでも仕事ができるという実感は、今まで以上に主体性を喚起し、個人の能力の向上やそのための環境整備が促されるようになります。

 オフライン環境見直しや、Udemyやオンラインセミナー/オンデマンドセミナーなど自己研鑽や教育のシステム構築がより一層有益な事業領域になることは明白です。

 

 自分が力をつけなければ生き残れないという厳しい事実に、どれだけの人が気付き、行動を起こせるかどうかが日本の行方に大きく影響するでしょう。

 

 なお、企業内部でも評価制度や教育体系整備、到達点を明確にした能力開発の仕組みが必要になることはいうまでもありません。

 

 また、今まで必要だと思っていた購買活動や、飲食、遊興の時間が実はコントロールできることが分かり、欲望に任せた行動が自制させるでしょう。また、いまさらながらにECelectronic commerce)の利便性が実感できました。

 

 私も今回多くのサービスを利用しましたが、価格志向でないかぎり、リアルな店舗よりも手際よく欲しいものが手に入ることが分かりました(Uber Eatsは未経験ですが)。

 

 多くの人の実感もそうしたものだと思います。

 

 ただ、Amazonでサチレーション機器をオーダーし、マスクが届いたケースを経験し、中国とのディールは注意が必要ということも分かりました。審美眼を持つことも大切なこと、改めて感じています。

 

 世界に目を向けると、コロナの対応が国民性や政治、医療制度の問題を浮き彫りにしたことも新しい発見でした。

 

 結果的にはさもありなんという、もともと持っていた印象とあまり変わるものではありませんが、それでも特定の国や国民を概念的に再確認したという思いがあります。

 

 だからそれがどうなのかという視点からすれば、そこから各国のこれからを予測することはできませんので、何ということはありませんが、これを契機に欧米やアジアとの日本の関係を深く考えていくきっかけになった気がしています。

 

併せて考えると、今回の事件を契機に、香港 への引き締めを強化する「香港国家安全法」制定など、覇権を強化する国があります。

 

彼らは世界の混乱に乗じ機敏に行動しており、結果として他国に不穏な動きが生まれ、国際経済の停滞や衰退を惹起するのは、誰の目にも明らかです。

 

日本の尖閣諸島への侵略も心配ですが、とりわけ、香港が大好きで、休眠しているものの(捲土重来を狙う)法人をもっている身としては、香港の行く末を考えると気が休まらない日々を送っています。

 

また、ASEANにも執着があります。

 

投資しているホーチミンの小児クリニックがコロナにより、日本のクリニックと同じように大きな打撃を受けたことを悲しく思っていますが、中国の影響が大きい一帯一路に組み込まれたラオスやカンボジア、そしてミャンマーといた地域がどのように変化していくのかについても、自分達がこれから海外において、どのようなチャンスがあるのかを少し考える機会になりました。

 

 こうしてみると、どんな時代になるかというテーマで書いた文章には目新しいことはないし、まだまだ視点が表層的で洞察力がないことに気付きます。

 

 しかし、ここでダラダラ書きなぐった印象をきっかけとして、これからの自分や組織運営をどのように変容させていくのかの第一歩として捉え、さらに観察を重ね、これからの時代を予想し続けて、生き方や仕事の糧にしていきたいと考えています。

 

 いつかは皆が考えつかないことに対して、気付き、行動に移せることを夢見て。

 

 

 

業績評価を見直そう

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 報酬に関する評価には大きく2つのものがあります。

 ひとつは賞与支給のため、業績を評価するための業績評価、そして昇給昇格昇進の基礎となる人事考課です。

 前者は予め設定した組織目標や個人目標が達成できたかどうかを基礎として評価するものであり、また後者は仕事に対する姿勢や態度を評価する情意考課、本人に求められる仕事に対する能力を保有するかどうかを評価する能力考課、そして年二回行われる賞与のための業績評価2回の集計を評価する業績考課により構成されています。

 

 今回は業績評価をどのように行っていくのかを説明します。

 業績評価の対象となる業績は、組織が設定した目標を達成できたかどうかにより決定されます。原則として目標管理制度が導入されていることが前提となります。

 

 経営方針から組織全体の目標、各部署の目標、そして個人の目標が設定され、半期に一度達成できているかどうかを評価し、賞与支給の基礎とします。

 

 目標管理制度を導入していない、導入しているが部署別にのみ利用している、個人レベルまで目標を落とし込み年間の活動の柱の一つとしている、などさまざまな状況があります。

 

 一般的には個人レベルまで目標を設定し評価することができていない組織や、目標を定量化(数値化)できないていないことが多く、本当の意味で業績評価を行っている組織は少数派ではないでしょうか。

 

 目標管理制度の代わりにバランストスコアカードを導入している病院もあります。

 

 バランストスコアカードは、財務の視点と非財務の視点に区分して目標を設定し、後者をさらに顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点と分け、多様な目標達成を行います。

 

 現状、目標管理が導入できない、導入できるが意味のないと考える多くの病院では、賞与の査定に業績評価の代わりに、人事考課でいう情意考課を行っている病院があります。

 

    被評価者のやる気や仕事の姿勢や態度全により上司が部下の評価を行い、賞与に差をつけるといった方法が採用されています。

 

 意味がまったくないわけではありませんが、情意考課を業績評価に使うのは危険です。

 

 頑張っている風の人が仕事ができていなかったり、そうではない人が実績を挙げていることが把握できないからです。

 

 主観的になりがちな評価では適正な判断ができません。好き嫌い、印象、タイミング、自分や他人との比較、性差、よくわからいために中心化しがちなど、様々な問題が提起されています。

 

 客観的な評価が必要です。

 

 物事は、ほぼ全て定量化できます。%、個数、件数、時間、人数、回数、金額、枚数等々がそれらです。

 

 どのような職種においても現状を是とせず定量目標を設定、役割化して活動することは可能です。

 

 いずれにしても評価制度の課題は、公平公正な評価を行い、組織に必要な人材像を示し、そこに向って努力する職員をつくれるかどうかにあります。

 

 できるだけ多くの意味のある(これ大事です)指標があり、到達点や役割の設定が行われていることが有効です。  

 

 処遇に差をつけることだけではなく、本人の課題を鮮明にすることが、評価の大きなテーマということを理解すれば、手間をかけても一人ひとりをよく見るための評価基準が用意される必要があるのです。

 

 なお、評価する側も評価が多様となることで、大きく成長できます。人を育てることの喜びを人生の生きる糧にできることは、人として価値のあることです。

 

 機会提供は組織が行っていくものであり、部下育成を優れたリーダーだけの個人的な楽しみにしてはなりません。

 

 個人別の評価の結果、本人の教育課題を発見するためにも業績評価を正しく行うことが必要です。マネジメントサイドは、業績評価本来のあり方を学習しなければなりません。

 

有休取得率の向上と人材育成

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 自動化された工場では大半の成果を機械が担いますが、病院では、すべての機能を果たす重要な資源は人です。人を大切にしない組織は成果を継続してあげることはできません。 

 

 さて、医療機関では恒常的に看護師が不足しているために、いつでも組織を退職することができます。

 

 もう10数年前のことです。古い話ですが、基本的な課題はいまも変わらないので、ご紹介します。

 私が関与した病院で有休取得率が90%であるにも関わらず、退職者が続出していました。不思議に思って調査してみると、ある病棟の看護師さんだけが突出して退職していることが分かりました。

 

 その病棟で有給休暇をとれるのは4年目以降の看護師だけで、それ未満は有給をとれない、異常なことに、個人別にみれば有休取得率は0に近い看護師さんが多数存在していました。

 病院が有休取得率を個人別に見出したのはそのときからです。

 もちろん、その病棟の責任者である師長の指導も正しく行われていなかったことも判明しました。看護部長は、当然に師長を移動させ、新しい師長を責任者にしたうえで、病棟の運営を任せました。退職者は減少し、病棟運営が円滑に行われるようになったと思いきや、又事件は起こります。

 

 私が院内で教育の一環として70人程度に院内セミナーを行ったあと、数人の若い看護師が私のところに来て「もうこの病院から学ぶことはないので、辞めようと思います」と話しました。

 

 教育システムがなく、また大半の医師は看護師に何かを指導することもせず、若い看護師からすれば、いつも何かが足りない状況に置かれているとのことでした。成長できない組織にはいたくない。限られた時間を有効に使うためには活度の高い病院に移りたいという本音です(これが事実かどうかはここでは、議論しません)。

 

 看護部でいえば、一般的には、少なくとも新人のプリセプティング、卒後研修、ラダー、職務基準やマニュアルを基礎とした教育カルテによる職場内教育や集合教育が行われる必要があります。

 

 そして何よりも必要なことは、組織幹部が人を育てよう、人材育成をしながら病院の地域貢献を図ろうという意識をもつことです。病院幹部に、そうした精神性がない病院には人は定着しません。

 

 病院の機能を考え、どのような人材が必要なのか検討したうえで、それを満たす職員を多数養成する。厳しい医療環境を迎え、そうした対応を行うことが病院幹部に求められています。

 なお、教育は、「教育」という定義の中の教育だけではないことも事実です。教育しますよ、と言って行うことだけではなく、リーダーの仕事の仕方、背中の見せ方、仲間との協力から生み出される成果、患者や家族から投げかけられる言葉、職員の日々の行動そのものが教育になり得ます。

 

 よい文化をつくり、優れた風土のなかで皆が嬉々として社会貢献できる組織づくりこそが、マネジメントの基本であると再確認できる事例でした。

 

 

キャッシュフローマネジメントを行う

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シンガポール・ガーデンズバイザベイ・クラウド・フォレスト


 キャッシュフローとは、現金の流れです。

 営業から生まれる利益を源泉としたキャッシュフローを営業キャッシュフローといいます。営業活動により、いくらキャッシュを残したかを測定します。

 

 これに投融資をするための投資キャッシュフロー、資金の貸し借り(出入り)を行うための財務キャッシュフローがあり、3つのキャッシュフローを以て一定期間の現金がどのように増減したのかを明らかにするとともに、現金を適切に管理することをキャッシュフローマネジメントと言っています。

 

 キャッシュフローマネジメントでは、3つの現金増減の源泉を管理し、営業キャッシュフローの範囲で投資をしよう、借入金をできるだけ返そうという政策をとることや、稼いだキャッシュにプラスして不足する資金は借入をしても、未来のために投資をして利益を確保していこう、といった政策をとることを管理することになります。

 

 さて、「会計は意見であり、現金は事実である」という言葉があります。

これは、利益がでていても現金があるとは限らないし、利益がでていても、現金があることがある、という意味です。

 

 例えば。医療収益が計上され利益がでても、保険部分の医業未収金が2ヶ月後に回収されなければ現金は増えません。また、何かしらの費用を計上して利益が減少しても未払金を支払わなければ現金は減りません。

 

 在庫を増やし期末在庫が大きくなると、売上原価は小さくなり、利益は増えますが、在庫の分は現金が減ります。減価償却費は費用として計上されますが、有形固定資産を取得したときに現金を支払っているので減価償却費を計上するときには、支出を伴いません。貸倒れ当金なども費用と現金が同時に動かない事例です。

 

 ということで、会計処理により利益は異なることはあるが、現金はどのような処理をしても残高は影響を受けない。だから、現金をよく管理していきましょう、ということを言っているのです。

 

 最近、医療機関はCOVID-19により大きな影響を受けています。診療所や病院の外来は患者が減り、入院のための連携にも障害が出ており、医療機関の収益は落ちています。とりわけ民間医療機関は、どこまで続くかわからない状況のもと、とても厳しい医療環境を迎えているのです。

 

 さまざまな予測を考慮して損益を予想し、それに合せてキャッシュフローの減少を推定すること。そして減少したキャッシュの不足分を得るための患者視点の現業活性化、患者にメリットのある新規事業をどの行うかの戦略立案を行い、また一時的な資金調達をも含め、バランスのとれたキャッシュを確保するといった、将来予測に軸足を置いた、シミュレーションも含めたキャッシュフローマネジメントを行わなければなりません。

 

 景気が悪化して税収が減り、日本の財政が益々ひっ迫すると容易に予測できるなか、診療報酬が抑制されることは明らかです。これからの時代を迎え撃つために、キャッシュフローマネジメントを行い、合理的に行動していく必要があります。