よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

暗黙知を活用した進化、いかがですか

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組織改革の重要なテーマとして、可視化がよく、取り上げられます。我々は、目に見えない知識(暗黙知)は、なかなか早期に習得できないし、また変えることはできません。もちろん、目に見えても変えることが難しいものもありますが、見えなければ、その変更はさらに困難になります。

 

さて、落語界で噺を覚えるためには、教科書や台本を使うのではなく、そのネタを持っている師匠に弟子入りし、師匠や先輩から口伝えで継承してもらう必要があります。

 

入門してから前座見習い、前座、二つ目、そして一人前の真打となるまで13年から16年と、大変な年月を要します。

 

伝統を重んじる芸能と、より複雑で常に進化している医療を比較することに意味があるかどうかは別として、医療においては迅速に医療の質を高めるために、ながい年月を待つことはできません。どのような職種のスタッフでも早期にスキルを身に付けなければならないのです。

 

病院職員のほとんどは資格を持ったプロですが、病院のやり方の習得や試験を経ただけでは行えないことへの対応が必要で、そのためには、目に見えない知識や経験(暗黙知)を目に見えるようにして(形式知)、伝えていく必要があります。

 

優れたスタッフの仕事のやり方のうちできるだけ多くをノウハウとしてマニュアルに落とし込みます。もちろんチェックシート化することも有効です(ただ、チェックシートではノウハウの部分、つまり、上手いやり方やコツが伝わりにくいため、ナレッジマネジメントのツールとしてはマニュアルが一番です)。

 

研鑽を行っており経験を積んだ職員は、多くの知識を持っています。

 

彼らの知識を可視化することにより、自分が経験により、あるいはマニュアルやチェックシートなどのツールがないときと比較して各段に早く能力を高めることができるのです。ツールを使うことでAさんからBさん、といった一人称ではなく多くの職員が可視化されたノウハウを使うことができます。

 

ノウハウを媒体として、こんなことをするとこうなるという疑似体験を行えます。実際に経験したことと疑似体験は全く同じではありませんが、明らかにそうではないときと比較し知識を深め、事にうまく対応出来ることにつながります。

 

手順、留意点(ノウハウ)、必要な知識・能力、接遇といった具合にマニュアルの項目を区分し、整理しながら(構造化されたマニュアルと呼んでいます)可視化を進めることが、使うものの理解をより深めます。医療の質を早期に高めるために、使いづらい従来の手順書としてのマニュアルではなく、ノウハウ書としてのマニュアルやノウハウにより作成されたチェックシートを活用しなければなりません。

 

もちろん、写真やビデオにより学習を行うことや、eラーニングを使うことも効果的です。

ただし、その場合でも単なる手順だけのマニュアルや、手順、留意点、必要な知識や能力が記載されているとしても、それらが整理されず雑然書かれたマニュアルではなく、前述したように、構造化されたマニュアルが必要です。

 

まずは手順のみを覚える、次にノウハウを習得、さらに必応な知識や能力を身に着け、そのうえで、ここでいう接遇(痛みを与えない、羞恥心を与えない、恐怖心を与えない、納得してもらう、不便を与えない、不快な思いを与えない、不利益を与えない)をキーワードに活動することが期待されています。

 

さらに一度作成したら改訂しない固定的なマニュアルではなく、業務改善提案制度とリンクさせ、常に新しい創造や工夫を織り込めるようなマニュアルを作成し、運用することでマニュアルがナレッジマネジメントの基礎として機能します。

 

暗黙知を形式知に、個人知を組織知に昇華させる活動により初めて個人や組織の成長が得られます。これは、目に見えないもの(暗黙知)を目に見える(形式知)ようにする。また、一人ひとりのノウハウ(個人知)をマニュアル化し、それを皆が学習することで組織のノウハウ(組織知)とすることをいっています。

 

誰かが作ったマニュアルをみて業務を行う(運用)なかで、改善点を発見し、それをマニュアルに載せれば(改訂)することで、さらに新しいノウハウ(個人知2)が組織のノウハウ(組織知2)になる、という流れで個人や組織のナレッジが進化する=成長するんですね。

 

10年以上前オーストラリアのメルボルンで病院見学をした時、マニュアルを見せてもらうと一番下に時系列でたくさんのサインが書かれていました。マニュアルが改訂され活用されている証です。そのあとのミーティングで海外の急性期病院では保険制度の違いから日本よりも格段に在院日数が短く、がんセンターでは3日で退院すると日本人の看護師Nさんが話してくれました。

 

短期間で退院する患者のケアが迅速かつ適切に行われるためには、皆が高いレベルでの看護をしなければならずマニュアルの進化が欠かせないのだと理解できました。

 

また、爾後、北京で循環器を得意とする北京大学附属病院を訪問したときには、女性の准教授が、看護師は毎週マニュアルの試験を受けるので大変です、と話してくれました。どの国もマニュアルを使った教育(活用)に力を入れていることが分かります。

 

医療に限らず、どの業種においても地道な改善の積み重ねが必要です。

 

物事を全て目に見えるようにして標準化し、業務を習得し易くするとともに、そのうえでより良いものに進化させること、マニュアルや業務改善制度を活用し、常に新しいものに変えていくことが今求められていると考えています。

組織を支える、すごい3つの規程

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 物事を円滑に進めるためのはルールが必要です。

 

暗黙のルールもありますが、明示的なルールがあれば、誰でも基本に立ち戻れます。

 

今日は、仕事をする上でベースとなるルールについての話です。

 

組織が小さいときにはあまり気にはなりませんが、ある程度の規模になったときには、これらがないと、あちらこちらで混乱が起こります。

 

これは俺の仕事ではないですよね、とか、えー、私に責任あるんですか?また、これって誰かに許可必要でしたっけ?のようなことが常に起こるし、君って、こんなこともできないの?とかいうことが常態になるからです。

 

ルールがあり、周知されていれば、組織がうまく回る可能性はかなり高くなりますよね。

 

ということで、何処かで必ず役に立つ職務分掌、職務権限、職務基準の3つの規程、ルールを簡単に説明するので、お付き合いください。

 

まず、職務分掌は各部署毎の業務(≒仕事)の担当を示す規程であり、権限規程はそれぞれの業務の権限をきてする規程です。

 

職務分掌により各部署の役割が明確になるとともに、権限規程によりそれらへの権限と責任が明らかになります。

 

そして職務基準は、職種や職能等級制度における資格ごとに、各業務を課業レベルに分解し、どの資格者がどのレベルまで当該課業を実行できなければならないと決める基準です。以下説明します。

 

1.職務分掌

職務の分担が明確でないと、その仕事は自分のものではないというケースが出てきて仕事ができなくなる事態になります。

 

職務分掌が網羅的かつ明確であれば、Aという仕事はA部署の、BはB部署の仕事であると決まり、それぞれの部署が連携しながらある業務ができるようになります。

 

但し、緊急時にAという仕事が発生したときに、A部署のメンバーがいないとある業務は停滞します。

 

いつでも何かあったときに対応できるように、どの部署でもできるようにしておく必要のある仕事ももありますね。

 

なお、ある部署のなかで担当が決まっているので、他の担当者の仕事はしない、職務分掌にないし、ということのないよう、コミュニケーションを取りながら業務を円滑に廻せるようにしておくことも大切です。

 

2.権限規程

権限は、起案、審査、承認、(実施)、報告の4つで行使されます。

 

起案はこれをしたらどうでしょうという提案をすることです。

また、審査はそれが業務に必要であるのか、予算内であるのか等をチェックすること、また、承認は実行していいという決裁を行うことをいいます。

そして報告は、決裁の結果実行されたことが当初の決裁通りであったことの報告を受ける権限をいいます。

 

これらがルール化されていないと、責任が明らかになりません。なお、権限は実行責任を伴います。やるからには責任とってね、ということですね。

 

3.職務基準

 職種別資格別に職務や課業を明らかにした規程です。職務(仕事)は、いくつかの課業に分かれます。

 

課業とは一人ひとりに与えられた仕事の単位をいいます。

 

例えば発注業務であれば、発注すべきものの確認、発注承認、発注ソフトの立ち上げ及び発注入力、発注後チェックといった仕事に区分されら、といった具合です。

 

場合によれば相見積りの入手、検討、値引き交渉といった仕事も追加されることもあります。

 

これらを活用することで、Aという仕事はA部署のどの資格者が(予算の範囲で)どのように仕事を進めていけばよいのかが明らかになります。

 

逆に言えば、この資格の人はこの仕事ができなかればならないですよ、という基準になります。通常、ある課業について、支援すればできる、独りでできる、完全にできる、教えることができるに区分しています。

 

評価や教育のためにも、職務基準が無いと管理が難しくなろことは間違いありません。

 

君だったら、規程上完全にできるレベルじや無いとダメだよね、と言った評価を行い、不足するところを教育の対象とするのです。

 

如何でしたか?かなり端折って話しましたが、ここでいう3つのルール、規程や基準が、業務を適切に行うために不可欠です。

 

実務においては、これらすべてを整備しなくても業務は回ることが多く見受けられます。

 

自然に出来上がったルールのなかで組織が運営され、役職による上下関係があれば、それで事足れりというケースです。

 

しかし、冒頭説明したように、権限規程がないことにより、組織内における責任が不明確になり、事が進まないことがあったり、権限なく事が進んでしまい、問題が発生することがあります。

 

組織が一定規模になったときには、生産性を担保する基本中の基本であるこの3つのルールを整備し、ムダのない運営が行われると良いですね。

 

意外とやってないマーケティングってどんなこと?

 

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 5、6年前のフィリピンのマニラで、弾丸三日間6病院視察ツアーをしたときのこと。

 中心から少し離れた場所にある国立心臓血管センターを、ノーアポで訪問しました。

 

 フィリピン特有の厳しいセキュリティで、ガードマンが入り口に立ちはだかっています。なかなか中に入れてもらえませんでしたが、マネージャーまで呼んでもらい、辿々しい英語で「この病院の評判を聞いて日本から遥々きたので、案内して欲しい」と懇願し、やっと見学の許可を得ました。

 

 じゃ見るだけですよ、いきなりなんだから、みたいな感じで院内に入ると、外来の壁に組織図が掲示してありました。

 

 なんと、そこに予算実績管理部とマーケティング部がありました。日本では見たことがない部署です。

 

 もちろん、一般の企業でも敢えてこの機能を単独でミッションにする企業は多くはないと思います。全社は経理、後者は企画か、営業企画にその機能があるからです。

 

 ということで、いかにこの2つの機能をこの病院が大切にしているのかが分かりました。

 

 大事だと、私も思いますが、日本の病院は自分の病院のことで精いっぱいで、市場調査(マーケティング)を継続的に行い、その結果を活動に活かしているところは少ないという印象です。

 

 DPCという制度により医療を行う病院は、地域における自院の治療内容や患者数その他の情報を入手することで自院のポジションを把握することはできます。

 しかし、じゃあどうするのか、といったところにつながらない病院も多くあります。診療情報データだけでは行動がとれません。

 

 医療は医師に依存する方が多く、ここが弱い、ここが強いといった結果を得て、行動に移すことが難し業種であると、言う事かもしれません。

 

 市場調査を行い、経営に活かす。今日のテーマです。

 

 病院の市場調査をどのように行なえばよいのでしょうか。

まず、市場調査の目的は、以下の2つです。

 

1.院外の現状把握

  自院の内外における現状の認識をしなければなりません。何をするにしても現状を明確に整理しなければ次に進めないからです。

 

 院内の現状については、日常得られる情報や、アンケートや面談によるヒヤリング、データ分析、部署毎にテーマを決めて問題抽出をしてもらうことで足ります。

 しかし院外については市場調査を行う必要があります。

 

2.戦略立案

  内外の現状の分析を完了したうえで、どのような「戦いに勝つための計画」を立案していくのかに関わる事項です。

 

 市場調査を行わなければ、適切な計画を立てることができません。

 

 市場調査項目は、(ⅰ)昼及び夜に自院のターゲットとなる患者が、どの地域に、どれだけ存在するか(ⅱ)近隣にはどのような医療機関があるか(ⅲ)自院で患者を呼べる機能はどのようなものがあるか(ⅳ)自院の競合となる医療機関はどのような動きをしているか、等となります。

 

 

 市場調査は、(ⅰ)ネット情報(ⅱ)自院レセコン情報(ⅲ)訪問(ⅳ)アンケート(ⅴ)面談

 といった手法により行います(外注もできますが高いですよ)。

 

 内閣府や専門情報チャネルにより、地域人口動態や疾病動向、競合の情報が得られます(ネット情報)。

 

 さらに自院のレセコンデータから、住所地、年齢、来院頻度等自院に来院している患者情報を把握できます(自院レセコン情報)。

 

 また競合病院への訪問を行い、駐車場の混み具合や、待合室の状況を定点観測したうえで、曜日、時間帯別、医師別診療科別の来院状況を把握することができます(訪問)。

 

 そして入院外来患者にアンケートを行い、当院の問題や日常的に通院している医療機関の情報を得られます(アンケート)。

 

 もちろん、他の病院の事務長に、公的な会において情報を得ることや、協力関係にある他病院事務長との間で、情報交換により有益な事実を知ることもできます(面談)。

 

 これらを行った結果、外部からみた自院、他院や地域情報を全体的に掌握し、課題や問題、そして自院の強みや弱みを分析します。

 

 上記の手法は初歩の初歩ではあり、当たり前のことです。

 しかし、個々には実行しているつもりても、体系的に行っていない病院が多いのではないでしょうか。

 

 自院でさらに必要な事項を追加したうえで、市場調査を実施し課題発見、解決策検討、行動誘導により、目的を達成します。

 

 市場調査を継続的に行い、厳しい環境下での増患対策を行うことが有効です。

 

 内部体制を整備し、患者や地域から評価される病院をつくり、きたるべきアフターコロナの時代、飛躍できるよう備えることが期待されます。

 

コミュニケーション、大事ですね

 

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 組織においては、コミュニケーション(ヒトの間で行われる感情や思考の伝達)がとても大切です。コミュニケーションが仕事の軸になるからです。

 

 コミュニケーションが活発に行われる組織では、1+1以上の成果を挙げることができます。

 

少なくとも、

1.連携により円滑に事が進む

2.ある業務を相互に補完し合える

3.何かあったときに支援し合える

4.他者から啓発される、学べる機会を持てる

5.一人ではないという意識が自分を鼓舞する

と言った効果が考えられます。

 

 振り子が逆に振れると大変なことになります。

 じゃまする、協力できない、助け合えない、けなし合う、排除するなどの行為は明らかに生産性を阻害します。

 

 ヒトが重要な資源である医療機関では、明らかにコミュニケーションの良し悪しで、成果が大きく異なります。

 

 職員が、たった数人しかいない診療所でも、コミュニケーションがうまくいかず、職場がギクシャクし、生産性が落ちてしまうことがあります。人間関係が悪くなると物事が進まないのは明らかです。

 

 院内コミュニケーションをどのようにとればよいのかを考えてみる必要があります。

 

 なくてはならない事項は次のものです。

1.組織のビジョンが明確である

2.具体的な実行スケジュールが決定されている

3.各職員の役割が明確である

4.組織トップが常にものごとに執着し、うまくいくよう気配りをしている

5.職員一人ひとりの業務が、計画通りに進んでいるのかがチェックされている

6.うまくいかない理由があれば、組織全体でそれを支援し、修正している

7.成果をあげる職員を評価する

8、成果をあげていない職員を教育する

9.何よりも職員が相互に信頼し合っている

 これらが一つでも欠けると、本来のコミュニケーションを円滑に行うことが難しくなります(なお、ここでのコミュニケーションは社会的活動を前提としており、単に仲が良いということだけを対象としているのではありません)。

 

 仕組みがなくても、コミュニケーションができている組織は、特定の職員がリーダーとして高い意識をもち、コミュニケーションをとれるよう行動し、結果を出しています。

 ほんの数人が業務を円滑に行うため、まとまることで、組織が成果をあげているのです。

 

 しかし、リーダー頼りのマネジメントは長続きしません。リーダーシップをとっている者が異動したり退職すれば、コミュニケーションは悪くなる可能性があるからです。

 仕組みがなければなりません。

 

 中期経営計画立案、目標管理制度やBSC(バランストスコアカード)による年度目標の管理、指標管理や管理会計による現状の可視化、さらには業務マニュアルの運用や業務改善提案、教育システム、評価制度が整備されていることで目的を達成します。

 

 完全でなくてもよいのですが、小さい組織であったとしても、上記を整備していこうという方向や具体的な指示が必要です。

 

 徐々に、共通の目標が自院や各部署のコミュニケーションを活発化し、職員の覚醒を促すからです。

 

 なお、職員間の関係性を改善するために、組織で一体となった行動がとれるよう、地域イベントやボランティア、そしてときには飲み会などを行うことも有効です。

 

 私は、飲み会でのコミュニケーションは無駄と思っていて、自分は好きではありませんでしたが、メリハリの効いた機会に食事をすることは必要かな、と思っています。

 

 コロナの時代、緊急事態宣言の前でしたが、会計事務所の所内で10人程度の食事会をしました。一切話をするのを禁止にしたので、ちょっと豪華な食事を黙々と皆が食べているだけで、奇妙な光景ではありました(終わってからは、マスクをしたうえで話をしてましたよ)。

 

 しかし、皆満足した顔をしていたので、一緒にイベントをする事は明確な理由があればそれぞれの気持ちに一体感を生むと、改めて気付いた時間でした。

 

 ただ、基本は組織内の仕組みづくりが徹底して行われなければなりません。

 

 この部分を忘れることなく、院内コミュニケーションを活性化し、各職員や各部署の機能が最大限発揮できるよう、リーダーの日々の活動が望まれます。

 

 我が身に置き換えると難しい事ですが、あるべき形にできるだけ早くしていきたいと、私は小さな決意をしています。

 

繁栄する診療所、10の戦略とは

 

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 外来診療を生業とする一般診療所が毎年、微増しています。傾向は、有床診療所(ベッド19床以下の診療所)の廃止を超えて、無床の診療所の新規開業が多くあったことを意味しています。

 ただ、医療の必要な高齢者がこれから増加していくとしても、彼らは在宅での医療を受ける機会も多くなり、皆高齢者が通院するものでもありません。

 

 なので、開業が盛んになれば既存の診療所と間での競争が激しくなることは必至です。

 

 さらに、今回のようなコロナ騒動があればなおさらですが、コロナ中、来院を控える傾向があるのは言うまでもなく、コロナ後も日本経済回復の遅れから、家族の所得が減少したり予想される医療費の自己負担が増加することで、受療回数(患者が来院する回数=日本は医療機関にかかる回数が世界一です)低減も予想されます。

 

 このような環境下において診療所が繁栄し続けるためには、比較優位性をもつ活動をしなければなりません。

 

 以下のポイントに留意して診療所運営を行う必要があります。

 

1.朝早くか、夜遅くまでの診療を行うなど、他の診療所の診察していない時間に診療する。また土日や祭日にも診療日を設定する

 

2.連携を強化することや、新しい治療や診療科を設置することで新患を増患する

 

3.地域住民のため診療所固有の健康倶楽部を組成し、会報を発行。役立つ情報開示で地域住民の健康管理とともに来院促進を行う

 

4.日常的に診療所において休日や夜間、あるいは昼間の時間を利用して、セミナーを開催し病気の不安をできるだけなくす

 

5.HPやパンフ、チラシ等の媒体や営業活動によりプロモーションを行い、自院を地域により浸透させる

 

6.訪問看護ステーションやケアマネと組んで、外来だけではなく、やはり在宅にも興味をもつ

 

7.事業計画と年間目標を明確にして目標から現在の行動を決定する

 

8.経費を無駄にせず計画的な資産形成を行うなど現金を増やすことで次に備える

 

9.マニュアルやチェックシートにより仕事の手順やノウハウの整理をしっかり行う

 

10.ビジョンをしっかり定めたうえで、一定の基準(マニュアルや職務基準)による職員の公平公正な評価と継続的な職員の教育を行う

ということがそれらです。

 

 これらをひとつひとつ積み重ねることで必ず診療所は活性化し、ながく地域で繁栄する診療活動を行うことができるようになります。

 

 まとめると、明確な外部戦略や内部戦略としての内部統制整備、職員教育による質の担保が必要ということです。

 

 マーケティングの5P、すなわち場所、価格、製品、販促、非凡なものについて検討し、他診療所に負けないもの、地域住民から信用、信頼、安心される診療所をつくりあげていくことが繁栄の要諦(ポイント)ということになります。

  

 書き終わって眺めてみると、繁栄する〇〇の戦略とすれば、ここに書かれている多くのことは診療所以外のあらゆる業種にも該当するな、とつくづく思います。

 

 少子高齢化、未曽有の出来事、米中関係悪化、ブクレジットを含めた欧州問題、世界的景気低迷など心配事は絶えませんが、上記をアレンジし、何かを変えることに、私も果敢に挑戦していきたいと考えています。

組織のなかで、紫の牛を見つけよう!

 

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マーケティングの5Pの観点から自院を分析し、その結果を戦略に活かしている病院は意外と多くはありません。

 

 もちろん、自然に近いことをしている病院はあるとしても、継続的に敢えて5Pの切り口から自院を分析してみることが必要です。

 

 5Pとは、place(場所)、price(価格)、product(製品)promotion(販促)といったマーケティングの4Pと、purplecow(紫の牛)のPを加えたものをいいます。

 

 Purplecowは、絶対なる非凡さということです。辺り一面に緑の絨毯が広がる牧場のところどころに茶色のジャージー牛が牧草を食んでいます。

 

 初めは、生きている牛を間近に見て、「ワオ、牛だー、マジでかい!」と心のなかで叫んでしまうかもしれません。でも、見慣れてくると、なんてことはない、見分けがつかない単なる牛じゃんと気付いてしまいます。

 

 そのなとき、もし紫の牛がいたらどうでしょう、超目立つ。「なんだー」「おーい」といったときのPurplecowです。牧場に来ると何時も目立っちゃう奴ですよね。

 

 ということで、このキーワードで、継続的に自院を分析し問題を発見するし、競合病院をベンチマークし、良いところを真似る、といったことから改革を進めていきます。

 では、これから5Pの説明をします。

 

(1)場所

 病院を建設してしまえば、場所は既に決まっています。なので、従来の考えでは、立地が悪ければダメ、取り返しはつかない、ということになります。

 

 ある地方都市で、街中から山の上に移転したある市立病院について、「なんであんなところにいったんだろう、あれでは患者はいかないですよ」とタクシーの運転手さんが漏らしていたことを思い出します。

 

 しかし、「待つ医療から出向く医療」(待っていても患者は来ない。こたらから患者のところに行こう、という医療)を標榜すれば、また、地域住民の健康で豊かな生活を守るというコンセプトで地域医療を行なうと決めた病院は、自院の活動範囲を広げ、地域に広く医療を展開します。

 今ある病院は拠点の一つでしかありません。

 

 地域に出向いての疾病予防活動や、在宅医療や看護、サテライト(他に開設したクリニック)の運営がそれらです。

 

 患者が来院するのを待つという箱物医療は一部の急性期機能を持った病院以外、既に時代遅れです。

 

 国の政策(病院病床削減、病院から地域へ)を体現する必要があり、「場所」をフレキシブルに考えれば、間違いなく自院の機能を活かすことができます。

 

(2)価格

 日本の医療の場合、一部の自由診療を除き、価格はどの地域のどの病院でどんな医療を受けても同一です。国民皆保険制度で守られているからです。

 

 しかし、医療の質が高く結果として早期治療が完了することで、患者や家族が負担する医療費全体は大きく影響を受けます。

 

 また、ジェネリック(後発品)を使うことや、無駄な検査をしないといったことは価格引き下げ要因とはなりますし、例え、治療を行うときに、他の病院と比して多くの検査や処置が行われても、医療の質が高く、再入院の必要が少ないと評判の病院は、生涯医療費が低く、価格を抑えているということができます。 

 

 なお、新患が多い病院は単価が高くなる傾向があります。そのような病院はブランド診療科があったり、病院自体への訴求力が高いので、患者は多少検査が多く、自己負担を多くしても、それを凌駕する、信頼や安心のために当該病院を選び続けます。

 

 医療の価格は実は病院の医療の質により異なる可能性がある、ことがわかります。

 他の医療機関と価格競争力をもつためには、仕組みの見直しと、技術技能向上により医療の質を上げる、ということも一つの方法です。

 

(3)製品

 病院にとって製品は医療サービスです。医療サービスは病院のなかで提供される役務提供すべてを言います。(2)でも説明したように医療の質が高い、ということが最も重要なポイントです。

 

 医療の質が高く、そして合理的に提供できる病院は地域から尊敬され慕われ、ながく地域医療を推進することが可能となる病院です。

 

(4)販促

 プロモーションはとても大切です。できもしないことを喧伝することはナンセンスですが、実態を十分に説明していない病院がいかに多いことか、と思います。

 

 優れた点を常に開示し、自院がプライドをもって治療ができる状況をつくりあげているかを検証してみることが有益です。

 

 また、プロモーションは口コミでの展開もありますが(実はこれが一番で、よい病院は広告しなくでも患者は万来します。でも、それだけだと網羅的ではないので話を続けます)さらに積極的にあらゆる媒体やセミナーを活用し、これを行う必要があると考えています。

 

 患者を多く集める、質の高い著名な病院は、院内セミナーを毎日のように開催していますが、自院が地域医療に貢献したいという思いが、そのままプロモーションになっている事例です。

 

 とはいうものの、デジタルマーケティングも含め、日本の病院はもっと自院を知ってもらう対応をしてもよいと考えます。

 それが地域住民が健康で豊かに暮らすために不可欠であると、自信をもつのであれば、是非、実行してもらいたいものです。

 

(5)絶対なる非凡さ

 最後のPです。絶対なる非凡さです。自院のこれがすごい、誰にも真似はできないといった絶対的な優れた点をいくつもった病院であるのかについて、調査し、自院はpurplecowをどれだけ持っているのか。

 

 比較優位性こそが、これからの地域で信頼され、訴求される病院であるのかを明確にしておく必要があります。

 

 もちろん、意図的にどのようにPurplecowをつくり、増やしていくのかは病院トップの戦略であり、常に考え実行しなければならないアイテムだと理解しています。

 

 「それってPurplecow?」とか、「君のPurplecowって何?」のようなやりとりがある病院になれるといいですね。

 

 今日な話はどんな業種でも同じです。まとめると

1.打って出る

2.コスト戦略の明確化

3.仕事の質を上げ合理的な仕組みづく

4.相手を想い、自分たちが必要なことを伝える

5.誰にも絶対に負けないものをつくる

ということでしょうか。

 

 コロナの今だからこそ、臥薪嘗胆、捲土重来の思いをもち、新たな気持ちで5Pをベースにマネジメントを行っていく必要がありそうです。

 

「皆んな、仲良くしようよ」の力が生産性を上げる

 

 

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 どの業種でも言えますが、病院には、さまざまな機能や役割をもった部署があります。

 

 それぞれの部署が協力し合い、連携したうえで医療が提供されています。

 

 しかし、一方でそれらの部署は縦割りで管理されていることで、セクショナリズムや自己利益優先という考え方をもっています。

 

 そのため多くの病院では部署間の連携(部署毎の人の連携)がうまくいかず、調整を繰り返さなければならないという意味で、蛇行しながらことが進むため、非効率や無駄が発生しています。

 

 これを部署間コンフリクト(衝突)といいます。

 部署間コンフリクトの解決を行い業務の生産性を向上させなければなりません。

 

 部署間のコンフリクトなは、さまざまな原因があり、それぞれの部署では対応できないことが多いことが通常です。

 

 結果、部署間の関係がこじれると益々意思疎通がうまくできず、さらに業務が円滑に進まなくなることがあります。

 

 コンフリクトの解決は、部署ごとではなく病院として行う必要がある所以(ゆえん)です。各部署を横串にできる病院トップと各部署の幹部が話し合い、問題を解決することがもっとも有効です。

 

 コンフリクトの発生する原因を分析すると、

1.嫌い、気に食わない、(相手が)仕事ができない奴だ、こちらが損だ、とか、面倒とか、とても感情的でシンプルな、話し合いをすれば解決することの話し合いができていない

 

2.話し合いをしても、なかなか解決策が生まれない

 

3.解決策が生まれてもルール化できないため解決できない

 

4.ルールが現場のルールというよりも病院全体の制度に起因するものであれり、制度改革が必要となる

 

といったものに類型化されます。

 

 これらを病院としてどうするのか考えることでコンフリクトを解決します。

 

 まず、病院トップや各責任者は、病院全体にどのようなコンフリクトがあるのかを探し山積みにしたうえで、

1.コンフリクトを整理して、優先順位を決定する

 

2.優先順位に応じて、毎月のテーマを決定する

 

3.一つひとつについて事前に課題を整理し議論する

 

4.毎回必ず一定の方向を示し、次回にその進捗状況を把握して必要があれば、さらに対応のための指示を出す

 

5.必要に応じてルールをつくり制度を改定して問題解決を行う

といった対応を行います。

 

 部署間コンフリクトを解決することで、関連部署の関係は改善し、現場の生産性は飛躍的に改善します。

 

 ある病院では、外来処置室で検査科ばかりが採決を行い、看護が手伝ってくれない、という理由から外来看護と検査科の仲が悪くなり、いがみ合っていました。

 

 院長に介入をお願いし、検査スタッフの増員を図ったところ、あっという間に仲が良くなったという事例があります。

 

 また、看護師が医師に連絡を取りたいとき、医局事務に医師の所在を管理してもらうよう依頼していましたが、忙しいと断られていたので、看護師は自分たちで医師を探して用を足していました。

 

 院長から医局事務員に日報をつけるよう指示を出したところ、アイドルタイムがたくさん見つかり医師の居場所を常に管理するよう指示され、問題が解決されました。

 

 つまらない話に聞こえるかもしれませんが、現場はこんな事が沢山あり生産性を落としているのです。

 

 該当部署だけで問題解決をしようとするのではなく、必ず院長を交えた病院幹部間で議論し、どうすれば解決できるのかを検討し、組織間調整を行うと、見違えるように組織のコミュニケーションが行えるようになります。

 

 ただ、本質的には、職員本人にとって受け容れられる組織目標を明確にすることと、協力して目標達成することに職員が必死になれる環境やリーダーシップが有効です。

 

 他人ではなく自分が変わろうと能動的に動く職員で溢れる組織は強靭で、負けません。

 

 職員一人ひとりが、前に進もうという意識を以って感情や軋轢を超えお互いに協力すれば、よい結果が生まれて合理的な組織活動が行えるようになると信じています。

 

 これって、どの業種にも該当することですが、仲良くすれば生産性が上がる、ということに他なりませんよね。