よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

有休取得率の向上と人材育成

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 自動化された工場では大半の成果を機械が担いますが、病院では、すべての機能を果たす重要な資源は人です。人を大切にしない組織は成果を継続してあげることはできません。 

 

 さて、医療機関では恒常的に看護師が不足しているために、いつでも組織を退職することができます。

 

 もう10数年前のことです。古い話ですが、基本的な課題はいまも変わらないので、ご紹介します。

 私が関与した病院で有休取得率が90%であるにも関わらず、退職者が続出していました。不思議に思って調査してみると、ある病棟の看護師さんだけが突出して退職していることが分かりました。

 

 その病棟で有給休暇をとれるのは4年目以降の看護師だけで、それ未満は有給をとれない、異常なことに、個人別にみれば有休取得率は0に近い看護師さんが多数存在していました。

 病院が有休取得率を個人別に見出したのはそのときからです。

 もちろん、その病棟の責任者である師長の指導も正しく行われていなかったことも判明しました。看護部長は、当然に師長を移動させ、新しい師長を責任者にしたうえで、病棟の運営を任せました。退職者は減少し、病棟運営が円滑に行われるようになったと思いきや、又事件は起こります。

 

 私が院内で教育の一環として70人程度に院内セミナーを行ったあと、数人の若い看護師が私のところに来て「もうこの病院から学ぶことはないので、辞めようと思います」と話しました。

 

 教育システムがなく、また大半の医師は看護師に何かを指導することもせず、若い看護師からすれば、いつも何かが足りない状況に置かれているとのことでした。成長できない組織にはいたくない。限られた時間を有効に使うためには活度の高い病院に移りたいという本音です(これが事実かどうかはここでは、議論しません)。

 

 看護部でいえば、一般的には、少なくとも新人のプリセプティング、卒後研修、ラダー、職務基準やマニュアルを基礎とした教育カルテによる職場内教育や集合教育が行われる必要があります。

 

 そして何よりも必要なことは、組織幹部が人を育てよう、人材育成をしながら病院の地域貢献を図ろうという意識をもつことです。病院幹部に、そうした精神性がない病院には人は定着しません。

 

 病院の機能を考え、どのような人材が必要なのか検討したうえで、それを満たす職員を多数養成する。厳しい医療環境を迎え、そうした対応を行うことが病院幹部に求められています。

 なお、教育は、「教育」という定義の中の教育だけではないことも事実です。教育しますよ、と言って行うことだけではなく、リーダーの仕事の仕方、背中の見せ方、仲間との協力から生み出される成果、患者や家族から投げかけられる言葉、職員の日々の行動そのものが教育になり得ます。

 

 よい文化をつくり、優れた風土のなかで皆が嬉々として社会貢献できる組織づくりこそが、マネジメントの基本であると再確認できる事例でした。