「1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する」。労働災害における経験則の一つであるハインリッヒの法則はとても有名です。
病院でリスクマネジメントの支援を行うときに、まず考えるのがこの法則です。
私の経験から言って、病床の2倍のアクシデント(インシデントは含まない3以上)があり、そのうち300分の29がレベル3b以上、1がレベル4以上という仮説を立てて臨むと、ぴったりと数が合うことが多くあります。
400床の病院であれば400×2=800 800÷300×29=77がレベル3b 以上、そしてさらに800÷300=2.6≒2がレベル4以上という計算です。
ここで、レベルは0…未実施、1…実施したが影響なし、2…経過観察、3a…要治療(軽微)、3b…要治療(3以外)、4…後遺症、5…死亡です。
医療安全レポート(インシデント[レベル3a迄].アクシデントレポート)をの数を分母にすると、皆がすべての報告をしているかどうかにより数字が変化してしまうため、レポートを書かない(提出しない)ものも含めての、病床の2倍という仮説であると理解しています。
現場からは、オペ室でこんな事故があったが出していない、という声も聞こえるので、提出されない事故もあるのは間違いありません。
まずは、仮説の数字を基礎として、現場で報告されていない事例があるかどうかを発見する活動も必要です。
ということで、2対8の原則(パレート法則)も何にでもあてはまるように、ハインリッヒ氏が導きだした労働災害の原理はどのような業種にもいえることだと信じています。
軽微なクレームを放置している企業はハインリッヒを意識するとよいと思います。
別途の2倍というのは病院の仮説ですので、業種ごとに考えると良いですね。
小売りやサービスでは店舗数の何倍とか、従業員の何倍とかになります。統計をとり、仮説を立てると使えるかもしれません。
で、対策のためには、ここでいう倍率を減らせばよいという結論なので、アクシデント対策にも熱が入ります。
現場でいろいろな病院のレポートを見れば、予測可能なものや繰り返し発生するものが多く、それらをどれだけ抑止するのかが本来の活動となります。
事故発生後に対策を取り続けるだけがリスクマネジメントではありません。抑止が必要です。
例えば入院初期には抜管やルートの事故、(いまだに)針刺し事故が、中期になると与薬、転落が、そして後期には転倒といった具合に、患者さんが、どの入院段階にいるのかということから事故種別を推定して対処します。
もちろん、針刺し事故のように、消耗品や仕組み自体が整備され、稀にしか発生しなくなった事故もありますが、仕事のこういう場面では、こんな事故が発生するというケースを拾い、マニュアルに記載、事前学習を通じて疑似体験を積んでもうらうなど、事故を起こさない対策が有効です。
事故抑止のための仕組みづくりを進めるとともに、日々のすべての行動前に発生する可能性の高い事故が、予め複数頭に思い浮かべられるよう訓練することも重要な対策です。
ここで、教育の繰り返しや事例にあたることでしか瞬間瞬間の意識喚起ができないとすれば、日々の業務のなかで、職員への思想教育や技術教育でのオンザジョブトレーニング(OJT)を繰り返すことが必要だと考えています。
リスクマネジメントの取り扱う範囲はとても広いですが、一つひとつ、できることから事故発生を排除する取り組みを行うことが大切です。
ハインリッヒを念頭に置いて、仕事の質を高めるため、業種ごとの特性に合わせた管理を行なっていきましょう。