よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

十把ひと絡げの教育からの脱却

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 教育には職場内教育、集合教育、そして自己啓発の3つの柱があります(そんなの当たり前でしょう、というところから今日のテーマは始まります)。

 

 これらは、バラバラに行われるのではなく、職場内教育(OJT)→集合教育)(off-JT)→自己啓発(SD)といった体系的な、ながれのなかで行われることが適当です。

 

 もっとも重視されなければならないOJT(オンザジョブトレーニング)のあと、習熟できないスキルがあれば、off‐JT(オフジョブトレーニング)でそれを習得する機会をもつ。さらにSD(セルフデベロップメント)で、その内容を補完するという構造です。

 

 この順序を遵守したときの教育が最も成果を挙げやすくなります。

 

 ここでのキーワードは、「十把ひと絡げ(さまざまなものを大雑把にひとまとめにして扱うこと)」ではなく、「一人ひとりに光を当てた教育」です。

 

「いやいやうちは、きちっと一人ひとりに光を当てた教育をしているよ」というかもしれません。

 しかし、上長が自らの問題意識だけを基準として、部下に都度教育を行うことを「光を当てた教育」というのであれば、それは正確ではありません。

 

1.到達点が標準化されていない

2.現状の課題抽出が網羅的ではない、

3.上長の能力のレベル合わせが行われていない、

4.部下(本人)がやる気になるための組織的な仕掛けがない

 

等の状況があるからです。

 結果として、十把ひとからげに近い状態だと考えています。

 

 上記到達点のために、組織として教育を行うためには、「この職種においては、入職いつまでに、あるいは等級により、どの業務(課業)について、どこまで習熟しなければならないのか」を決めた職務基準をつくります(目標管理を元にした指導について、この記事では埒外としています)。

 

 職務基準により、ここまでやってねと、到達点となる標準をつくります。

 些細な職務基準により仕事のレベル(到達点)を決定した後、個人の仕事のレベル

(現状)との比較を行います。できていないことを把握し、個人別の課題を抽出し教育の対象とします。

 

 いつまでに、どこまで到達しなければならないのかという到達点と現状を比較し、そこで発見した課題をクリヤーしてもらうために教育が行われるのです。到達点−現状=ギャップ(課題)ですね。

 

 評価者の印象だけで評価をし、OJTを行う組織もありますが、明らかに客観性に欠けます。上長=評価者の経験や知見、能力はバラバラで得意領域も異なるからです。

 

 どの上長に付くのかにより教育の方法や内容が異なり、部下に均等な機会を提供することができません。当該部署の課業を職務基準に網羅的に記載し、一つひとつの課業、もしくはひとくくりにした業務をマニュアル化し評価の基準とすることが適当です。

 

 そして、発見された課題を解決するためにOJTを行います。

 

 OJTは、上長が都度部下の行動を修正するだけではなく、個々の課題を教育カルテ(教育カルテについては次回の記事で説明しますね)に書き出し、上長と部下が相互に課題を認識しつつ問題解決できるよう活動すると、なおよいと思います。

 

 そして、職場内で課題化された事項の習得を容易にするため、また、職場内で解決できない課題を解決するためにoff-JTを受講します。

 

 off-JTは年間教育カリキュラムの設定により組織内で行なわれる教育だけではなく、その時々に必要性を認識した外部研修を受けることにより成り立ちます。

 

 それでもまだ経験や知識を得ることができないのであれば、自らあらゆる手段を使い学習を行うといったSDの領域に駒を進めます。

 

 既に理解できるように、まずは、どこまで到達しなければならないという到達点と、そして現状の分析、課題の設定がなければ教育は成立しません。課題の設定は、原則的に職務基準等の組織の標準があってこそ行えるものです。

 

 ただ、職務基準に記載されていない事項を対象としはい、というわけではありません。

 職務基準やここにいうマニュアルの作成が間に合わないことや、敢えて職務基準に載せないものもあるからです。

 時代の要請、病院のニーズ、そしてどのような時代にあっても組織において、各職種に求められる経験や知識を含めて「到達点」が決定されるからです。

 

「現状」は、到達点を定義するために作成された職務基準、マニュアルさらに、場合によればチェックシート、追加的に上長の知見を活用し各個人別に評価して把握されます。

 

 さて、現状と到達点のギャップが課題化され教育の対象となることは説明しましたが、いつまでにそのギャップを埋めるのかを個々の課題ごとに検討し、期日を決めて教育を行う必要があります。

 

 期日を決めない教育は実効性に欠けます。いつまでにできないことを習得します。習得できるよう支援するよ、という関係のなかでの期日管理が必要です。

 

 なお、上長は、部下の信頼を得て、教育の意味や本人の教育を受ける意識の醸成を行いつつ、教育、育成を行い成果をあげることが使命であるということを忘れず、人材育成を行うことになります。

 

 部下をやる気にさせる上長の人間力づくりが行われることで実効性のある教育体系ができると考えています(人が力を発揮する環境づくりや、教育する側(中間管理職)の教育も必要となる所以です)。

 

 上記、教育プロセスにおいて、組織としてできる限りの対応を行い、成果を高めるよう努力しなければなりません。組織のビジョンや、本人のやりたいことを反映した具体的な組織目標が設定されていることで、教育を受ける意識向上が図れるからです。

 

 組織はそれらの整備を行う必要があります。

 

 厳しい環境を迎えた今、時代に合致した道具や教育体系を用意し、仕事の仕組み見直しと個人の能力向上による生産性向上を行えない組織は残れない可能性があります。

 

 多くの組織で「一人ひとりに光を当てた教育」を忘れず、組織の特徴に合った教育の手法を検討し、体系整備が行われることを期待しています。

 

(補足)

 実務的には、職務基準に記載された課業[一人ひとりになすべきものとして割り当てられた仕事]を常に改訂されナレッジ化されたマニュアルに展開し、マニュアルを評価の基準として活用します。

 

 マニュアルの手順や留意点、必要な能力等に合致した業務が行えるかをチェックし、判断されることが多いです。マニュアルって古!というかもしれませんが、基礎のないところに応用や創造はありません。定型業務はRPA[ロボティック・プロセス・オートメーション]にとって変わられる中、ヒトのクリエイティビティやナレッジがとても大事な時代になりました。

 

 あらゆる現場で継続的に行われるカイゼン(イノベーション)により、書き換えられる個人の創造性を集積したマニュアルは古くて新しい教育のツールなのです。