よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

会話による成長を促す

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人は、自分であれこれ考え、行うことを決定し行動します。しかし、自分だけで考えるのではなく、多くの他人に思いを披露し、自分の考えを整理することが大切です。披露し議論するなかで、思いもよらないことに気付かされたり、新しい情報やアイデアをもらうことができるからです。

 

意見を聴かれる側も、自分の意見を述べるときに、自分の考えを整理して伝えることの訓練や、意見を述べながら新しい発想や着想を得ることができるので、投げかけられた会話に乗ることは有益です。時間の許す範囲で、会話に参加し、自分を高めることに積極的になれる人は、能力を高められるのです。

 

 

逆にいえば、他人と会話を行うとき、原則として目的のない会話をすることは双方にとり時間のムダであり、意味を持ちません。何等かの意図をもち、またアジェンダ(提案内容=議題)があり、短時間で目的を達成することをもって会話が縦横無尽に行われることで、暗黙知が暗黙知を生むという成果を得られます。

 

組織運営上も、こうした個人知の進化が役に立たない訳はありません。なお、お互いのことを理解したり、会話に入る前の準備として、さあ、これから会話をして有効な時間を過ごそうね、という助走になる「最近どう」とか、「こんなことがあったよ」とかの挨拶の延長線上の会話は必要です。いきなりテーマに入ることも、仕事上ではよくあることですが、まずは一言二言の打ち解ける会話があると、ぎすぎすしないですね。

 

 ということで、会話を活用し価値をつくりあげていくためには、以下の条件が必要と考えています。

 

  1. 相互を信頼する
  2. 常に相手の立場に立ち考える
  3. 知識や自分の経験を踏まえ仮説を立てて意見をいう
  4. 自分なりのフレームワークをもつ
  5. 整理する
  6. 実行する方法や役割を決める
  7. 期日を決める

 

 そもそも仕事のうえで、ある人は会話の目的を達成できなそうな人には話をしません。会話をする時点で、会話の対象とする人を、ある事柄については信頼していると言えます。

 

会話が成立しない人に自分の考えを披露することもありますが、それは会話を求めるのではなく、行動を喚起して欲しいから、ということが多いようです。「こういう考えなので、これを協力してね」。「これを達成していこう」、といった具合です。

 

 なお、会話の対象とされた相手も、相手に対し会話で応えようという意思や意欲がなければ会話が成り立ちません。会話ができるというのは、この相手なら時間を割いてもよいという思いが前提にあります。これも信頼の範ちゅうに入ります。

 

となると、会話が行える主体と客体においては相互に信頼していることが前提になっている、といえます(ただ、仕事のできない上司の無駄話に付き合わなければならない事もあるので、例外はありそうですが、このテーマは奥が深いので、今回はここでの検討を捨象します)。

 

 次の相手の立場に立つ、ことは会話を行うときに必要不可欠です。相手の意見を咀嚼し、自分なりの考えを述べるためには、相手と同じ状況をイメージして、自分が相手であったらどうなんだろう、という思考がなければ適切な答えを返せる筈はありません。思いやりだけではなく想像力や日頃の好奇心がモノを言う領域です。これができないとちぐはぐした意見しか提示できず、会話を継続する障害になります。

 

 さらに、自分の経験から意見を言わず、何をベースに意見をいうのか、ということになります。相手の立場に立ち、自分だったらこうする、こう考える、こんな行動をとるだろうという思いは経験(や知識)からしか生まれません。なので、この条件も自明の理かもしれません。

 

 仕事をしていくうえで、さまざまな経験を積む、知識を得ることがいかに大切なのか。常に合目的的に行動し積極的に経験を積もう、知識を身に着けよう、感性を磨こうと努力しなければ、会話の相手に選ばれないということを思い知らされます。「相手にとって本当に必要とされる自分なのか」を常に考え研鑽すべきです。

 

 そして自分なりの仮説やフレームワークをもつことです。仮説は、「あることを合理的に説明するために仮に立てる説」であり、フレームワークは何かに対峙したときの「考え方の順序や整理の方法」をいっています。自分なりの枠組みをもっていれば、それに合わせて仮説を立て会話を進め、やり取りを行うことができます。

 

 思いつくままにフレームワークを列挙すると、到達点は何か、現状はどうか、ギャップは何か、どのように解決するのか、それはどのように計画すればよいのか(ASCS)とかKGI→KFS→PD→KPIといった手順により、どのように課題をブレイクダウンするのかというアプローチ、Why、How、Whatという順番で考え、またロジックツリーで整理をすることもあるでしょう。漏れなくダブりなく(MECE=Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)といった考えもありキリがありませんが、自分のフレームワークをいくつか使い、問題の所在や考えをまとめていくことは有効です。

 

そして整理です。今日のアジェンダのためには3つのことが必要。それはこれとこれとこれ。その理由はこう。それぞれ、詳細を示し、こんな行動に落とし込めるよね。といった対応です。最後に、「いつまでに誰にこうしてもらうと成果があがるね」、というところまでいくと実効性が担保され会話が終ります。

 

会話の目的を常に主体、客体が理解し、会話から相互に何かを得ようとするのであれば、時間は10分でも、5分でも論理的で合理的な会話ができると考えています。

 

 ところで、ネットで「分散された場所での仕事(会話)を進めていくなかで、テレワークを成功させるためには何が必要か」という議論に対しこんなコメントがありました。「ポイントは人間同士のコミュニケーションにあるようだ。Googleのような優秀な人材が集うテクノロジー企業においても、対面もしくはそれに近い形で、良好な人間関係を意図して作って行かなくては円滑に仕事を進める事ができない」(出典:ジョイキャリア)

 

会話を円滑に行うためには、上記で示した条件は当然身に着けることを前提として、結局は「良好な人間関係をつくる」という条件が一番大切なのかもしれません。

 

リーダーは率先して良好な人間関係をつくり、常に会話により自分を高められるよう、まずは、仕事ができ、かつ人間力があり、相手から求められる社会人になれるよう範を示し、上記でいう会話を通じ成長できるよう職員を指導していかなければなりません。