よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

コミットメントの背景にいるマクレガー

 

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当社が提唱するコミットメント(約束)サイクルは、組織目標を達成するための仕組みです。

 

要約すると

  1. 職員を評価し、また当社が開発した質問により彼らがやりたいことを発見し、もしくは誘導しながら、組織目標とすり合わせる。
  2. 組織目標を達成するプロセスで彼らがやりたいことが達成できるよう設計する。
  3. 職員に役割を付与し、組織目標達成を約束してもらう。
  4. 職員のやりたいことができるよう支援し、組織目標を達成する。

という手順により実施します。

 

コミットメントでは個人ニーズと組織目標のすり合わせを行い職員のモチベーションを高めて成果を挙げることを目指していいます。仕事をすることで「本人のやりたいことも達成していこう」という組織の取り組みは本人のモチベーションにつながらないわけはありません。本人も組織に承認され支援受けながら何かを達成し評価されれば、さらにやる気になることは間違いありません。

 

例えば内部体制を整備しながら業容を拡大する為に、在宅領域への進出を図る目標をもった組織での簡単な事例を示すと、

 

[個人のニーズ]地道な仕事で成果を挙げたい→[組織目標]マニュアルプロジェクトでリーダーを助け、整理されたマニュアルを作成して欲しい。

 

[個人のニーズ]一つずつ自分の力になる仕事がしたい→[組織目標]訪問看護ステーション立上げを行うことで、何かを創りあげる力や、地域包括ケアシステムを通じた医療・介護全般の知識を身に付けて下さい。

 

[個人のニーズ]資格をとりたい→[組織目標]ISOの導入に当たり内部監査員の資格をとり、品質向上への取り組みをして下さい。

 

[個人のニーズ]地域住民の健康のために直接何かをしたい→[組織目標]増患のため健康フェアを企画し、セミナーや身体測定を運営しよう。

 

といった具合です。

 

もちろん、彼らに

  1. やりたいことがない、
  2. やりたいことが本人に適していない、

という課題があるケースがあり、

  • 職員一人ひとりに光を当て、
  • 日常のパフォーマンスを確認すること、
  • 本人の得意とすること、不得意なことを探すこと
  • 個人個人の課題に応じた教育を徹底すること

が不可欠です。

 

いずれにしても、組織目標は上からの押し付けではなく、また成果を得づらいボトムアップの目標ではなく、明確な戦略に基づく適切な組織目標でありながらも職員の自分はこうなりたいというニーズに合致したものに仕立て上げていくことが求められています。それが目標の達成可能性を高度に担保する方法だと考えるのです。これは医療だけではなく、どの業種の組織でも同じように取り扱えますね。

 

さて、1950年頃にダグラス・マクレガーはマズローの5段階説の追加説明を行うために彼の著書「企業の人間的側面」を通じて「XY理論」を提唱しました。

 

X理論は「人間は本来怠けたがる生き物で、責任をとりたがらず、放っておくと仕事をしなくなる」という考え方であり、Y理論は「人間は本来進んで働きたがる生き物で、(マズローが言う5つ目の欲求である)自己実現のために自ら行動し、進んで問題解決をする」、という考え方です(なお、そんな職員が実際にどれだけいるんだ、と言う議論はここでは捨象します)。そして、個々人は、XとYを繋ぐ線上の何処かに存在すると言っています。

 

ここで、Y理論においては、企業目標と職員個々人の欲求や目標が明確なかたちで整理できれば、企業はもっと組織目標を効率よく達成できるとしています。私は、職員がやる気になる目標設定の方法、コミットメントサイクルをつくるとき、マクレガーのY理論をまったく意識していませんでしたが、結局のところ、「人がどうすれば力を発揮できるか」という仮説の根本は、長い時間が経過しても不変ということを改めて思い知らされます。

 

リーダーは、職員がやりたいことの達成感を得ながら、結果として組織目標が達成され、個人も企業も成長できる環境をつくること。こんな時代だからこそ、その必要性がより増しました。

 

なお、コミットメントサイクルがその機能を果たすためには、組織の優れたビジョン、戦略、ガバナンス、業務フロー、モニタリング、そしてHRM(Human Resource Management)全体の整備が必要です。

 

そもそもここでいう領域がうまく管理できていないとき、例えば達成すべき戦略目標が不適切であればいくら職員が合目的的に活動しても、いくら職員が合目的的に活動しても成果は挙がらないし、またガバナンスが機能しなければ職員の努力は結果に結びつかないからです。コミットメントサイクルは他のマネジメントの仕組みを整備しつつ実施されるものであり単独で成果への役立ちを得ることは難しいという結論です。

 

今後はマネジメント体系全体を俯瞰し課題を抽出するとともに、それらを一つひとつ解決し、コミットメントサイクルの深化を図り、多くの組織でコミットメントを活用し成果を挙げられるよう対応したいと考えています。