よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

一年の計は年内にあり

 

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 あっという間の1年でした。早いですね。

 

 今年はいろいろあり、やらなければならないことで、できなかったことがありますが、それ以上に多くの皆さんと仕事ができたことにはとても感謝しています。

 

 ありがとうございました。

 

 さて、毎年年末になると考えることがあります。一年の計は元旦にあり、です。

 

 中国の明代に憑慶京が中国の伝統的な年中行事やしきたりをまとめた「月令広義」に、「一日の計は晨にあり、一年の計は春にあり」という一文があります。

 

 晨(あした)は=朝、春は正月で、1日の初めである朝や一年の初めである正月にこそ計画を立てるべきであると解説しています。

 

 これが、「一年の計は元旦にあり」の由来です。

 

 ただ、憑慶京の気持ちは分かりますが、一年を振り返り、何をするのかを考えるのは、新しい年が始まってからではなく、もっと前でなければならないと私は考えています。

 

 仕事納めが終ると家の用事で、あっという間に年末を迎え、そのまま寝て「おめでとうございます」と新年の挨拶をしている間に一日が過ぎてしまいます。

 結局は落ち着いて、元旦に計画を立てることができずに終わる可能性があるからです。

 

 なので、計画は年内に立てることが有効です。

 

 ここで、計画を立て、実行。チェックしながら修正して、成果を挙げるためにはPDCAサイクルを回すことが必要です。

 

 皆さんもそうして活動してきたと思います。

 

 私もうまくいかないこともありますが、そうやって今まで過ごしてきました。人生ってその繰り返しですよね。

 

 ところで、PDCAは随分前にデミングにより、品質管理の領域で考えられた製造業のフレームワークであり、なので変化のスピードが速い環境では、古くて使えない、これからはPDRだという意見が喧伝されています。

 

 しかし、そのことに私なりの意見があるので、今回はPDCAとPDRをテーマにします。

 

 PDCAの問題として、主にP(計画)が取り上げられます。

  1. 期間がながい
  2. 保守的になりやすい
  3. 前回を踏襲する傾向
  4. 設定した目標までの工程が描けていない
  5. 現状の把握ができていない

といったものです。

 

 そこで、ハーバードビジネススクールのリンダ・ヒルが考案したPDR(prep-do-review)が提示されます。

 

 PDRは、Prep(実行に向けた準備)、Do(実行)、Review(結果の見直しと学習)の3つを回し成果を挙げようという考え方です。

 

 日々のマネジメントは随時起こったことに反応すること。予想外のことも多く、その出来事にどのように対処するのか。

 年間計画ではなく、出来事を機会とみなして、随時改善を行おうというものです。

 

 PDCAを年間で立てているのでは遅すぎる、だからPDRだ、という至極当たり前のことを説明しています。

 

 しかし、PDRは無目的に、その場限りで行われるわけではなく、組織目標を達成するための適時の改善を行うものです。

 

 大きな目的を達成するPDCAのなかでのPDRであることを忘れてはなりません。 

 なので、PDCAとPDRを比較してPDCAは古い、ということは当りません。

 

 そもそも、PDCAのサイクルがながいというのは間違いで、1週間のPDCAもあるし、1日での設定もできます。

 期間は自分で決めればよく、瞬時の対応ができないという風潮(解釈)があるのはナンセンスです。

 

 目標も長期的に対応しなければならないものもあるし、短期間や超短期で達成可能なものもあり、説明したように随時生まれる課題を解決しなければならないこともあります。

 

 私の場合、例えばマネジメントソフトを開発するというときには半年、1年単位ですし、会社の決算は1年ですから少なくとも来期の目標を決めたら1ヶ月の振り返りをしながら戦略や戦術を変えたり行動を変えます。

 

 1年のPDCAのなかに小さなPDCAがあり、さらにそのプロセスのなかに日々のPDCAがあるので、多様なPDCAを扱いながら対応しているのです。

 

 今日これをやろうと決め、実行したらこんなことになった、それはこんな風に解決しよう。学んだ事は次に活かそうね、と仕事を進めます。

 

 PDRは、小さな日々のPDCAと同様であり、「結果の見直しと学習」というRが、チェックと修正のCとAに置き換わっただけと理解できます。

 

 ところでPDCAのP=plan(計画)の意味は「何らかのものごとを行うために、方法や手順を考え、企てること」を言います。

 

 preparation(準備)の意味「物事をする前に、あらかじめ必要なものをそろえたり態勢を整えたりして用意をすること」と比較すると、どうみても計画のほうが準備を尽くしている印象があります。

 

 概念的深さは、計画>準備でありPDCAのほうが大きいということが分かりますよね。

 

 ただ、現場で問題解決をするときには、仮説検証を、より頻回に速度を上げて、トライアンドエラーを繰り返しながら経験を積みましょう。

 そして、そこからできるだけ多くの知見を得て次に進んでいこう、という意味で、小さなPDCAを背景にもちつつPDRを意識して行動する、という考えも容認できます。

 

 意味は同じだけど、PDRとしたほうが成果を挙げやすいイメージをもてるのであれば活用する、ということです。PDRで説明されているように、細やかに問題対応を行うのです。

 

 例えば、ネガティブな出来事が起こったときに、何をしたいのか、誰が関与するのか、なぜそれが起こったのか、どうすればよいのかを考え実行する、といった具合です。

 

 チェックして修正するという大まかに感じるPDCAのCAよりはイメージ的に使い易いかもしれません。

 

 さて、他の指摘についても検証します。

  • Pは保守的になりやすい、とか
  • 前回を踏襲する傾向がある、
  • 設定した目標までの工程が描けていない

といったことは、運用の問題の最たる課題で、Pの設定をどのようにするのかの本質の問題です。経験上、あらゆる事態を想定して些細にPが設定されていれば、なんとか成果を挙げられるからです。

 

 また、現状の把握ができていない、という指摘については、私たちはPDCAがうまく運用できるようにASCS(アスクス)の概念を明らかにしています。

 

 到達点(Attainment)と現状(Staite)の明確化、ギャップの確認(Confirmation)、解決策(Solution)の検討を行いPにつなげましょう、と説明しているのです。

 

 何かをしようという到達点が曖昧でも、現状把握ができなくても、ギャップが明確にならないので解決策を適切に設定できません。

 

 また、多くの意見にあるように、仮説である解決策が肝であり、これがずさんだったり間違えているとPが不適格で、無駄なPDCAサイクルを回さなければなりません。

 

 ASCSを使ってPを決定し大きなPDCAと小さなPDCA、ときには比較的長いPDCAと短いPDCAを組み合わせて回すことが必要です。

 

 いずれにしても、PDCAは物事を達成するための原理原則であり、どのように運用するのかは使い手の問題だということが分かります。

 

 PDRについても、フレームワークとして利用するとき、結局のところ運用がうまくいかなければPDCAがうまく使えないというこたと同じ結果になります。

 

 PDCAにしてもPDRにしても、そのほかPDCAに代わるものとして提示されている、OODAやCAPD等についても同じ視点での検証が必要です。

 

 ここでは簡単な議論しかできませんでしたが、以上から理解できることは、次のことです。

 

  1. 来年の計画は年内に立てる
  2. PDCAのPのためのASCSを忘れない
  3. とりわけ、ASCSのSを熟考してPを決定する
  4. 大きなPDCAとそれを落し込んだ小さなPDCAを十分に回す
  5. PDCAの運用を適切に行う

 

 しばらく続きそうな厳しい時代を乗り越えるために今年をしっかりと振り返りましょう、課題を明らかにしたうえで、やらなければならないことや、やりたいことができるよう、年内に来年の計画を立てましょう、ということに落ち着きます。

 

 私もさっそく机に向かいたいと思います。