よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

直感を鍛える4つの手順  

 

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推理・考察になどによるのではなく感覚により物事を捉えることを直感といいます。

 

直感により仕事をすることはとても大事です。多くの著名な経営者が直感により経営意思決定することで成功しています。こうすればればいいと判断するときに直感に依存することが大切だ、という趣旨です。

 

しかし、これを真に受けることはどうなのかと思います。

 

なぜなら、彼らは直観を育むまでにとてつもなく多くの失敗や成功をして、自分の判断力を鍛えているからです。

 

失敗したときに、なぜそうなったのかをしっかり分析し、そこからいくつものことを学び自分のものとしているのです。

 

このレベルの経営者になると失敗した後にどのように対応するのかまでも具体的に理解するし、実際にそうしてロスを小さくしているのだと思います。

 

成功したときでも、そこに至るまでのながれや、一つひとつの段階を振り返り、何が成功のポイントであったのかについて検証し、再現する方法を頭に叩き込んでいるのでしょう。

 

経験と学習によるナレッジが蓄積しているので、何かを決めるときその対象となる一連の流れがすべて俯瞰的に脳裏に思い浮び、無意識下での判断が容易かつ正確なものになるのだと推測できます。

 

したがって、直感というのは実はその人に培われた能力によりもたらされるのであり、外から見れば無意識の判断であるため、何気なく感覚で決めているように見えるだけなのです。

 

なので、なんの蓄えもなく無鉄砲に直感を使えるものではありません。

 

優れた経営者の直感が行使されるプロセスには、瞬間に情報入手→情報整理→無意識下分析→判断というフェーズがあると考えています。論理的・客観的分析結果<経験や学習で培われた情報力という結果が生まれる源泉です。

 

なお、ここでの直感は、よくいわれる第六感(sixth sense)ではありません。

 

第六感は、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚以外の「理屈では説明できない鋭くものごとの本質をつかむ心の働き」すなわちインスピレーション、勘、直感です。微妙に意味が異なりますね。

 

これらは「人智の及ばない何かの力による虫の知らせや、動物的本能による予知に類するもの」で、テーマとしている深層に明らかな経験や知識がある直感とは相違しているのです。

 

ただ、第六感にも実は意図しない遺伝子レベルの長い歴史における経験や学習が作用していると考えると、ここでいう直感もsix senseの一部であるかもしれません。

 

また、神からのお告げにより何らかの判断をする経営者がいます。自分は孤独で周りの人には頼れないと堅くなに信じ、神棚に手を併せながら何かを決めてしまう経営者です。

 

ただ、このときでも神の掲示があった、と背中を押してもらいながらも、過去の経験や知識が作用して判断していることは間違いありません。神棚は意見をいわないのですから。

 

結局は、しっかりした経験や学習がなければ、きっと神に裏切られることになるでしょう。経験と学習の必要性が分かります。

 

少し話が横道に逸れました。

 

さて、経営学には、エプスタインやカーネマンの「直感の理論」があります。

 

「人は直観に頼りがちなので意思決定バイアス(思い込み、先入観)がかかり、正確な意思決定ができなくなる。だから、できるだけ直感による意思決定を避けるべき」という考えです。

 

しかし一方、直感の効用について認知科学者のギゲレンザーが別の考えを披露します。

 

「人は瞬間に自分の意思決定が成果にどのように影響を与えるか予測する。予測の裏側では過去の経験、周囲の情報、様々な分析などの情報変数をもとに脳内で解析をする。

 

ここでの経験には過去は使えたが今は使えない情報等が含まれているものの、バイアスとの駆け引きにより見誤りの率が決まる。

 

バイアスの割合が増えると過去は使えたが今は使えない情報等が減り、予測エラーを下げる」と説明しています。

 

「そしてバイアスも含んだ直観は、様々な経験に裏打ちされたものでなく的外れなら、バイアスが増え意思決定の質は下がる」。そして、

 

「直感は「玄人の勘」が望ましい。なぜなら、何度も何度も修羅場を潜り抜けた経営者は、直感により適切な情報変数を無意識に選ぶので、適切な判断ができる」から。

 

したがって「(経験や学習のない)素人には(直感で意思決定するのは危険なので)慎重な、論理的・客観的な思考が重要」という結論です(参考:世界標準の経営理論 入山章栄著)。

 

ずいぶん端折って紹介したので、大切な部分を漏らしているかもしれませんが、理論的にも直感による意思決定(ここでは判断と同義です)を認めていることが分りました。

 

ということで、直感に頼る意思決定をできるようになるためには、

  1. 失敗したり成功したりして、経験を積み自分のいる業界や仕事に精通する(知識・経験獲得)
  2. 常に環境変化に目を配る(情報収集)
  3. 論理的・客観的に仮説を立てそれが正しいかどうかを常に検証する癖をつける(論理的思考・推論)
  4. 直感で意思決定をした結果を分析し思い込みの程度を検証する(直感体現)

の4つの手順を繰り返しを行うことが有効です。

 

ここでいう手順を意識し仕事をすることで、ナレッジが蓄積され、自分の直感(玄人の感)で行われる意思決定が徐々に研ぎ澄まされていきます。

 

一つひとつの内容を検討し、具体的に行動することができれば必ず成果が生まれると期待しています。

 

なかなか難しいことではありますが、環境変化の激しく先が見えない時代、日頃から上記の4つの手順で自らを訓練し、迅速かつ的確な判断ができるように行動したいものですね。