よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

荒野に生きる黒ヒョウを見た

f:id:itomoji2002:20210512201531j:plain

ホテル業を営むクライアントがあります。

 

別府温泉の駅前や駅近に4つのホテルと海側に2つの旅館を運営(他にも近くにいくつかのビルやアパートも保有)しています。駅のホームに立つと目の前にクライアントのホテルが3つ見えますよ。

 

最近、縁があり熊本に施設を購入しました。それほど便利な場所にはなく、また老朽化し競争力のない施設をホテルとして再生し、今年の冬までにはオープンできるよう準備を始めました。

 

この施設には、温泉設備はありましたが壊れていて温泉は出ない、部屋が汚い、狭い、お風呂が貧弱、庭が整備されていない、風光明媚な国立公園内にるものの、それが故に施設の拡張はできない、売りがないという課題がありました。厳しい状況ですよね。

 

しかし車で10分程度の場所に、いくつかのホテルが点在し営業しているので、シーズンにもよりますが人が来ない場所ではないことは明らかです。社長はマーケティングをしたうえで、なんとかやれると判断したのでした。

 

施設を調査し、またいままでホテルや旅館を運営してきたノウハウを駆使し、いくつかの対策を行うことにしました。

 

新たにボーリングを行い温泉の湯量を確保する、施設の門構えや見栄えを良くする改造を行う、既存の部屋は簡単な改装を行う、他には類を見ない既に別府の旅館で経験済みの屋上に国立公園の絶景を見ながら浸かる屋根付きの大型露天岩風呂をつくることも決めました。

 

しかし、部屋が狭いので、登山客やスキー客はともかく、カップルやファミリーを堂々と呼べません。施設の拡張許可がでないことがネックでした。

 

そこで目を付けたのが200畳以上ある宴会に使う大広間です。今や宴会でも無いでしょうと、既存のいくつかの1部屋を2部屋にするとともに、大広間をつぶし、新たに広めの部屋を20室以上つくることにしたのです。近隣のホテルには少ないカップル、ファミリー迎い入れ戦略です。

 

また、3,000坪の庭に植栽しようと考え見積をとったところ、ある程度の木であると、ご承知の通り1本30万円から50万円もするのが判りました。それではいくら資金があっても庭園はできません。

 

考え抜いて気づいたのは安くて将来大きくなる山茶花(さざんか)。周りは自然に溢れており、目の前は大木はいりません。始めは細くて2,3万円で買えるツバキ科の山茶花の木を大量に植える。まさに山茶花の宿です。こうした工夫をするのが社長の真骨頂。

 

庭には、コストを抑え将来大きく育ちつつ綺麗な白や赤、ピンクの花を咲かせる山茶花の木を数多く植え、庭に回廊をつくることで落ち着きました。

 

さらに自立できたのちは、集客のため地域興しの(星の里○○のような)キャッチをつくり近隣ホテルと連携のうえ集客するといった計画が立てられました。

 

これら一つひとつは書いてしまえば何ということのないことですが、ここに至るまで地域の環境、立地、競合、施設の構造やコスト、強みづくりを念頭に考えられた奥深い戦略です。

 

工事のための優秀な職人さんの手配が難しいけれど、決めたことをやれば必ず地域でトップになれる、勝てる、と穏やかに社長は話しました。

 

彼は以前から現場の状況をつぶさに観ることや、現場に入り作業をしながら業務フローを改善、部屋の改装や大浴場づくり、さらに料理長を東京に呼んでの彼がお気に入りの料理の食べ歩き、肉や鮮魚など食材の仕入れ、レシピの考案、お皿の買い付けや、一時期は中国からの資材や絵画、家具、ジャグジーの買い付けも率先して行っていました。

 

東京近郊で行う成功している不動産事業をメーンとしながらも、別府に月に一週間程度通い事業を始め改革を進めてきたのです。

 

社員の教育や人材育成、動機の喚起、業者さんとの関係づくりや、ここで挙げた事業での成功のプロセスから彼のマネジメントの基本が見えてきます。

  1. 思いをもつ(成功の要諦1)
  2. 環境をみて未来を創る(俯瞰・大胆)
  3. 自ら現場に入る(凝視・繊細)
  4. 負けない強いものをつくる(成功の要諦2)
  5. 計画するが拘泥しない(柔軟)
  6. 勝つために動く=勝負する(成功の要諦3)

がそれらです。

 

一代でいくつもの事業を成功させ、数百人の従業員を抱え、成果を挙げてきたトップから毎週のように教えを受け、また15年以上彼の行動をつぶさに見てきましたが、紆余曲折はありつつも難局を乗り越える、若しくは事前に察知してリスクを回避する力の凄さはとても勉強になります。

 

社長との毎週のミーティングの臨場感は読者には伝わりませんが、ここで説明した成果は理論を学んできたからではなく、彼が持って生まれた特性や誠意や思いやりに代表される人間力、よく気付き何でも興味をもち学習する、失敗しても良いからやってみるという姿勢、そしてそこから生まれた経験則からの行動の結果です。

 

いつも笑顔で気負わず淡々と、しかしここぞというときには黒ヒョウのように鋭い目をして俊敏に動き、獲物を捕まえるように結果を出す姿は、どんな理論よりも説得力があります。

 

どのような業種でも事業成功のためには、優れたリーダーやリーダーシップがいかに重要なのか、彼を見ていつも考えています。