よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

チームでの仕事の大切さ

 

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先日、弊社の業務の一つとしてのデューデリジェンス(DD=[対象法人の]事業・財務調査)を行いました。

 

マーケティングは医療コンサルタントのAさん、データ分析は税理士資格をもつOさん、会計監査は会計士のNさん、そしてマネジメント評価や総括、課題整理、解決策提示は私の担当でした。

 

規模の大小や業種により、重点のポイントは異なりますが、過去に何十とDDを行ってきました。調査の対象が事業、財務のみならず法務に及ぶこともありますが、メンバーの入替えを行いつつ、その時点で最適な担当者を決めて調査を行いレポートを提出します。

 

DDはすべての仕事の縮図です。

 

人は一人で何もかもできるわけではありません。全ての業務に精通するのは難しいことです。やってできないことがなかったとしても、すべての仕事を一人で行うことは不効率です。

 

普段の他の業務においても自然に「これは誰に聴けば良い」「誰の知識や知見が優れている」と、個々のスタッフが理解したうえで、それぞれ必要に応じて彼らと相互にコミュニケーションをとりながら仕事をしてきました。

 

自分のやりたいこと(好きな事、得意な事)を仕事にしながら専門性を深め、他の誰が、何を得意としているのかを理解しながら連携し、チームで成果を挙げてきたのです。

 

もちろん専門性は決して十分ではなく、一生かけて極めていくものとしても、比較的優位の専門性をもつ者が、その段階での当該領域での能力を発揮しながら仕事を進めることが効果的なのです。

 

ダニエル・ヴェグナーにより確立された、トランザクティブ・メモリー・システム(TMS)(組織内の知の分布)の主張には興味深いものがあります。

 

ここでは情報の共有化が議論されています。「組織メンバーが他のメンバーの誰が、何を知っているのか(who knows what)」を明らかにして仕事をすることで、成果が挙がるという主張です。

 

TMSを規定するのは専門性と正確性の2つで、組織だからこそ人は分業し、それぞれ専門性を高めることができるし、その専門性を引き出せる正確性が必要といっています。who knows whatが正確でなければ、効率は向上しません。

 

何れにしても(個人も含め)組織がTMSをどれだけ豊かに持てているのか、豊かであれば組織内メンバーは、自分の専門分野(≒やりたい仕事)だけを覚えるだけで記憶の分業ができるし、分からないことがあればTMSを通じて他者から引き出せればよい、その事で成果(パフォーマンス)が挙がる、という結論です。

 

他の研究によりTMSを高める条件として、直接対話によるコミュニケーションの頻度が高いことが明らかになっています。メール・電話によるコミュニケーション頻度が高いチームはTMSが最も低い、という結果は分かり易いですね(世界標準の経営理論:
入山章栄)。

 

加えてカイル・ルイス教授は誰が何を知っているだけでなく、メンバー間で情報(暗黙知)のやり取りが効率よく起こり、チームが一つの記憶回路のようにあらゆる情報を蓄積していないとチームは機能しないとして、TMSを説明します。面白いですね。

 

普段、当たり前に行っている組織内の連携やチーム連携(場合によれば外部の連携にまで)につながるTMSの議論です。

 

なお、私は、拙著「サクセスキューブ(幻冬舎)で、①一人ひとりが思いを持ち②信念に昇華し③技術技能(専門性)を磨き④人間力を身に着けて⑤コミュニケーションをとることで成果を挙げ⑥達成感を得るのが成功の要件である、と説明しています。

 

そうして自立した個人が他者との連携を行い、より一層高い成果を挙げることが組織活動の要諦です。

 

TMSは、ここでいう連携において「誰と何をするのか」を決めるとき重要な役割を果たす、と理解できました。

 

これからも絶え間なく専門性を磨き、自立できる自分をつくることで選ばれて他者と適切な連携(チーム)による的確な仕事ができれば良いと考えています。