よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

教育カルテ運用のレクチャー

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我々は過去、理論に裏付けられ合理的に設計された、多くのフレームワークやマネジメントツールの開発を行ってきました。その中の一つ、職場内教育に使う「教育カルテ」についてレクチャーを行ったときの資料をご紹介します。

 

医療では患者の治療にカルテが使われます。医師のカルテはSOAP(ソープ)と呼ばれる記載の形式になっています。これは問題指向型診療録(POMR=Problem Oriented Medical Record)の一つです。問題志向型医療(POS=Problem Oriented System)の考え方によって得られたデータを内容ごとに分類・整理した上で、S(Subject)、O(Object)、A(Assessment)、P(Plan)の4つの項目に分けて考える分析手法です。

 

患者の主訴(訴え)や状況・病歴をみて、診察や検査を行いデータを集め、評価します。その結果治療方針を決め治療に入る、という医療活動を記録するのです。

 

さて、病院改革を行うにあたっては、各部署で個人に光を当てた教育を行うことが必要です。個人の教育を的確に行うためには適切なツールを用意しなければなりません。そこで、患者の治療にカルテを使うように、職員の課題解決のためにカルテを使うことにしました。職員教育のためのカルテを教育カルテと名付けました。

 

職場内教育では教育カルテ(A)を、そして集合教育については教育カルテ(B)を使います。以下その使用方法について説明します。

 

本来は、教育の標準があるなかで職場内教育が行われることが必要です。標準がないとXさんが教える内容とYさんが教える内容が異なり、どの上司についたのかにより教育のレベルが異なることがあるからです。XさんとYさんの教育内容を一致させることが必要な理由です。

 

教育の標準としてはマニュアルやチェックシート、職務基準などがあげられます。

 

現実にはすべての標準は整備されておらず、組織として「各職種はこの知識が必要である」といった基本レベルすら存在しない病院が多くあります。

 

一般的な職場内教育は、上司が気付いた点について上司が本人に指摘をして修正するという、いわゆる教育が不連続に行われている現状です。組織を運営するときに、最低限必要な指導だけが日々行われ職場内教育が実施されています。

 

なので現状に合わせ、まずは少なくとも指導した内容を、上司や教える者そして部下や教えられる者が相互に記録に残し、課題を管理するところから始めます。

 

しかし、徐々にマニュアルやチェックシート、職務基準などの標準を作成し、本来の形にすることが期待されます。

 

ということで、教育カルテを職員全員の職場内教育の道具として活用します。

 

教育カルテ(A)が職場内教育の道具になります。できていないことを上司が発見し、本人とOne on oneにより、できていない項目を5つ上げます。本来は、マニュアルやチェックシート、職務基準により、できていないことを探しますが、前述したように貴院にそれらが十分に準備されていない場合には上司が本人をチェックし、課題を抽出します。

 

上司が本人について、できていないこと=課題を発見し、5項目を教育カルテ(A)に記載します。この場合着眼として例えば、①態度・姿勢[協調性、規律性、責任性、積極性]②手技・技術③コミュニケーション④指示されたことに対する成果といったことが対象となります。

  

「あなたは、〇〇ができていないと思うけど、どうですか?」という聞き方をしながら部下と話し合い、課題を5つあげることになります。この場合には、数多くあげたとしても優先順位の高いものを絞り込むことで、5つの課題を決めます。

 

積極的な部下であれば、これができるようになりたいので教えてくださいという依頼があることもあります。このような部下が生まれる風通しのよい、前向きな風土をつくることができれば、教育カルテはより成果を挙げられますね。

 

(事例)

  ・仕事に対して積極性がない

   →もっと、前向きに質問をしたり、行動を迅速に行う必要

  ・期日を守れない

   →決めた時間を守るようにする

  ・一つのことに時間がかかる

   →技術の見直しを行い、障害になっているものを排除

  ・報告がない

   →指示したことの結果を常に報告して欲しい

  ・内容が伝わる文章になっていない

   →文章の書き方ができるよう訓練しよう

  ・〇〇の手技がいつもうまくできない、時間がかかる

   →手順や留意点を確実に把握し、練習をして正確かつ迅速にできるようにする

 

上記課題を抽出したら、修得目標・スキルアップ欄に記載します。また、教育担当者を決定し、担当者はサインします。課題を抽出した上司が個人担当になるケースもあるし、また、他の者でその課題解決に長けている者が個人担当者になるケースもあります。それは評価をした上司が決めればよいと考えます。

 

さらに、いつまでに修得するのか、上司と本人で話し合い、期日を決めます。期日は1ヶ月がマックスになると思います。1ヶ月で解消できない課題はないと考えています。1週間から1ヶ月の間において、修得年月日を決めます。なお、確認レベルですが、現状がどうなのかを評価し、目標を設定します。

 

 A…完全にできる

 B…一人でできる

 C…支援すればできる

 D…まったくできない

 

といったレベルのどこに現状あるのかを評価し、被評価者の合意の上、目標を設定します。現状が、Dであり、目標をBとするといった具合に目標を決めます。それは評価基準がないときには主観的になりがちですが、まずはそれを決めて、活動を開始します。

 

一定期間の経過後に、評価者が個々の項目を評価します。評価日を記載し、評価者が押印したうえで、確認レベルの到達欄にどうであったのかを記載します。もちろん、目標をクリヤーできないうちは継続しますが、目標と同一、あるいは目標を超える成果が挙がった段階で、当該項目は目標から外れます。そのときには、コメントを記載し、どのような状況であるのかについて個人担当者、あるいは評価者が記入します。すごく頑張り良い成果、とか、まだまだ定着に時間、といった記載をすることになります。

 

以上、教育カルテ(A)を使い、まずは上記の作業を行い、各職員の教育課題をカルテに落とし込み、それを解決するために活動を開始して下さい。課題の拾い方がうまくいっていなかったり、課題が大まかになっているとか、当初はいろいろ問題があったりはしますが、まず記載をしてみて実行し、その結果をもって修正をしていければと考えています。

 

できたことについては、線を引いて教育カルテを保管します。対象者(被教育者)は「過去できなかったことができるようになった」「こんなことも昔はできなかったんだ」、といったことを振り返りながら、自分の成長に自信をもてるようになります。もちろん教える側の教育担当者も、自分の指導により部下ができるようになったことに満足できます。教育カルテが課題解決の履歴、自信の源泉になる瞬間です。

 

集合個人のためには、教育カルテ(B)を活用します。内外の集合教育の記録を記載して管理します。集合教育は、本来、職場内教育で不明な点を理解するためや、新たな学習を行い、院内に取り入れる(資格をとることもここに含まれます)ためにこれを行うものです。

 

また、自己啓発は、職場内教育、集合教育でもさらにできないことを自分で学習することを目標としています。それについても、病院が指示をしてこれを行うことがあればその結果を記載することになります。

 

上記をよく理解したうえで教育カルテ制度をスタートします。途中で理解できないことがあれば、皆で議論をしながら作業を進めていっていただければと考えています。個人に光を当てた教育を行うための簡単なシートです。

 

なお、教育カルテは目標管理における本人課題解決のためのOne on oneに活用する病院もあります。カルテを活用し、一人ひとりの職員をあるべき方向にどのよう導いていくのかについて、上司は真剣に考えなければなりません。