よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

自立した人の転職による成果

以前から説明しているように、ISM(Independence Stage Management)は、組織の人、企業であれば社員の自立の状況を4つのステージに区分し、それぞれのステージにいる社員に適切なマネジメントを行い、できるだけ多くの社員に自立を促す考え方です。

 

組織への依存度を縦軸にとり、独立度を横軸にとった場合、低依存度・低独立度をハンモック、高依存度・低独立度をベッド、低依存度・高独立度をチェアー、高依存度・高独立度をスタンディングとして各メンバーのステージを測定します。 

ハンモックのステージにいる社員は「リゾート社員」です。ハンモックは南国のイメージ。ハンモックに身体を委ねるとリラックスできゆったり過ごすせます。自立でいえば、面従腹背してやらない、言われたこともできない、向上心もない、現状を気にしないという気楽な状況です。

 

ベッドのステージにいる社員は「ぬくぬく社員」です。組織目標達成のために、それなりの姿勢や態度をもって行動し、一定の成果を挙げている社員です。しかし、結局は指示通りに仕事をして、同じことを続けることから抜け出せていません。「なんとなく一生懸命にやっているのでいいだろう」という安心感や心地よさをどこかに感じながらも変われない自分に気づいていません。

 

チェアーのステージにいる社員は「腰かけ社員」といわれます。ここにいる社員は、独立度を評価すると高いポイントを付けられるけれど、どこか組織のベクトルと合っていない社員ですが、これをやりたいという信念をもち、将来を見通した目標を持ち自分の進むべき道をはっきりさせています。ある分野で高い能力もあり行動しますが、この組織のためには働きたくないと考えています。

 

スタンディングのステージは文字通り「自立した人(An independent person)」です。企業に依存しても同時に独立心を持ち、率先して自ら価値を生むことができる社員です。組織とフラットな関係にあります。常に使命感や向上心をもち、プロフェッションとして求められる技術を身に着け、人から求められる社員です。人としての気遣いや思いやりをもち常に進歩しています。また、改革を進め高い生産性向上や価値創造を行ない進化しながら組織貢献し結果を出し達成感を得続けていく社員です。

 

彼らは社内から頼られるだけではなく、仕事を通じて社外からも評価され頼られる人なので他の分類にいる社員よりも多くの学びやネットワークを持ちます。この人は仕事が出来ると実績を伸ばしたり紹介も受けられるため更に成果を挙げられる人材として社内で認められるなど社内外でのループをつくりつつ成長していける社員です。

 

ベットはともかく、ハンモックやチェアにいる人は組織への貢献は期待できず、そのままにしておくことは組織の障害になる可能性が高くあります。本人も成長の機会を逃しあたら人生を無駄に過ごす事になりかねません。

 

組織がスタンディングの人を数多く生み出すことで高い成果を得られることは間違いがありません。組織はスタンディングの人をつくるマネジメントを強化すること、そして組織に帰属する人はSIMのステージにおける自分の位置を確認し自立に向けて行動すすことで大きく成長できることを理解しなければなりません。

 

さて、一般的に自立した人とフラットの関係にある組織は高い成果を得るため、当人の思いに合致した適切な役割や権限や報酬を提供し、当人を組織に引き留める努力をします。当人も自分の思いを達成できる環境がある限り組織の思いに呼応し、組織に貢献します。

 

そうはいっても、自立した人が帰属する組織にはもう自分の思いを達成できる環境がないと考えることもあります。転職をすることもあるかもしれません。自立して組織とフラットの関係にある人が転職を決断したときには、組織側にもいくつかの判断が生まれていたことが想定できます。

 

  • 組織でも当人が必要がなくなった
  • 組織では当人が必要だが留めておくことを諦めてもよい
  • 組織では当人が必要だが留めておけなかった

がそれらです。

 

必要がなくなった、という背景には、当人の代替ができる他の人が生まれたか、当人の行っていた業務からの撤退や縮小があります。当人もそれを理解し自分を求める組織に転職するのは自然です。

 

必要だが留めておくことを諦めてもよいという判断には、仮に当該業務に当人の代替ができる他の人がいるか、当人の行っていた業務からの撤退や縮小という背景があったとしても他の業務において当人の力を借りたいという思いがあります。ある分野で自立した人の属性から、彼らはどのような職種に就いたとしても成果を挙げられる能力を身に着けていることが多いからです。ただどうしても残って欲しいほどではないため当人の転職を了解したともみてとれます。ここまでの状況では組織にとっても当人にとってもマイナスの状況にはありません。

 

一方、組織にとしては必要だが留めておけなかったという状況では、組織と当人の関係は良好ではない可能性もあります。「これだけの条件を提示しても辞めるなら勝手にしろ」という状況です。もちろん、当人の転職したい思い>組織の思いの結果として組織が最終的に「君のためになるなら仕方ない」と了承し、良い関係を保持しているケースもあり一概に関係が悪いということではないかもしれません。

 

いずれにしても転職元の組織にとればさまざま理由はあるとしても、何らの分野で高いスキルを以て自立した人が退職することによる有形無形のデメリットはあります。しかし、人が組織で力をつけて自立した後、良い関係を保ちながら次の組織に転職することができれば、当人、転職先の組織にとってはいうまでもなく転職元の組織にもいくつものメリットがあるのも事実です。

 

転職先が同業であれば微妙な問題もあるものの、そうした制約がないとすれば、

  • 仲間や上司との交流を通じて転職元の組織のメンバーの知見を高められる
  • 転職元の組織とのコミュニケーションにより、当人が転職後得た知見を活用できる
  • 転職元と転職先組織の交流を通じて新たな価値創造が得られる
  • 転職先でさらに力を付け自組織に戻る可能性がある

がそれらです。

 

多くの組織が自社で自立する人を育成し、彼らが組織間や事業間を行き来(人材流動化)することで必要な事業への人材を確保できたり、組織に新たな価値を生み出すことができます。

 

最近ではいくつもの組織が転職者の交流会を組成して上記のメリットを得ようとする動きがあると報道されていました。また、積極的に副業を推奨し他の組織との関わりを促し、本人や組織をの成長を得るための学びを生み出そうとしています。

 

自立した人が組織間を移動しながら帰属する組織に新しい価値を提供する存在になることには大きな意味があります。

 

各組織は自社のメンバーが現状どのような状態にあるのかを測定し、できるだけ多くの人がそれぞれの思いを信念や情熱に変え組織のなかで成長し力を付け、どこからも必要とされる、自立した人(スタンディング)となれるようマネジメントを強化していく必要があると考えています。

 

また人は、自分は何をしたいのかを明らかにするとともに、その達成のために最も有効な組織を選択する、あるいは帰属する組織のなかで、

  • 自分の得意なことや
  • 好きなこと
  • 評価されること

を見つけ、それらにフォーカスしながら自分の力を付けるために努力する。そのうえで自分はISMのどのステージにいるのかを常に認識し、スタンディングできるよう行動を見直さなければなりません。

 

組織にいるからこそ得られる経験や知見を得て力をつけて自立し、自分の思いを達成するという意識をもち、「どこからも求められる人」にならなければなりません。

 

人は、自らを律しどこに身を置くとしても組織を最大限活用できる自分をつくれるよう活動することが有益です。