よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

リスクマネジメントの進め方について

2005年に書いた記事を記載します。稚拙な内容、文章ですがいくつもの病院の現場に出て支援をし始めていた18年前の記事を見るのも考え深いものがあります。

 

「病院におけるリスクマネジメントが盛んです。でも本当にリスクマネジメントができているかどうかについては疑問がある病院が数多くあります。

 

(提出時)

  • 発生したものがすべて提出されていない(取捨選択されている)
  • 積極的に高いレベルのものを隠蔽している
  • レベル(0=未実施,1=影響なし,2=経過観察,3ab=要治療,[4=後遺症,5=死亡])の判定が正しくない
  • 経過観察(レベル2)から治療(レベル3以上)に変動したときの記録がない
  • 医局はほぼ書かない
  • ヒヤリハット(レベル0から1)(インシデント)についての体系的な整理がない

 

(原因分析時)

  • 原因分析の体系的方法をもっていない
  • SHELLで分析するために原因が特定できなくなってしまう
  • 委員会の開催頻度が低く、処理しきれていない
  • 多数の人が意見を述べるため、原因が特定できない

 

リスクマネジメントの肝は原因特定と対策、その徹底です。

原因を特定するためには、原因分析を迅速に行なう必要があります。アクシデントが発生したら、本人と上司だけではなく、第三者が現場に直ちに出動し、そこでアクシデントを起こした人の目線でアクシデントを調査、なぜなのかについて徹底的にあらう、といった作業をしなければ原因分析を的確に行なうことはできません。明確な理解をして原因分析を行ったうえで、対策立案に入ることが必要です。対策立案には以下の問題があります。

 

(対策立案時)

  • 十分な調査をしていないため対策が的を得ていない
  • 時には「次には注意する」といったレベルの対策がある
  • パターンで処理してしまうため、曖昧な原因に曖昧な対策となっている
  • 原因が多数あるため(分析してしまうため)どの対策がベストであるのかが特定できない
  • 現場をみて原因分析をしていないため、不適格
  • 対策の立て方が判っていない
  • 業務を変えようとすると業務改革委員会といったものがあり、その承認を得るのに時間がかかり、対策が徹底されていないため同じアクシデントがいくつも発生する

等々です。

 

こんなことをしているので、病院からアクシデントがなくなりません。いつまでも。そしてそのうち高いレベルの大きなアクシデントが起こります。病院からアクシデントがなくならない理由はいくつもありますが、まずは対策が稚拙であればアクシデントがなくなるはずもありません。

 

原因が正しく特定できないなかで、対策は立てられないのは当然ですから原因の特定が必要ではありますが、原因が正しく特定できたとしてもやはり有効な対策は対策立案のための時間やスキルを必要とすることも事実です。

 

レポートを出すことに多くのエネルギーを割き、対策にたどりつけないとしたら、それは超ナンセンスであるということを理解しなければなりません。

 

「患者意識の変革や、医療事故に対する世論の盛り上がりのなかで、リスクマネジメントを行うということは、レポートを収集して分析し、原因を発見、対策を立案する、実行するということを中心として、マニュアルや看護プロセス、教育、評価、パスといったあらゆる制度を体系的につくりあげていくことであるという理解が必要です」「病院全体の改革活動により医療の質を高めることで、リスクマネジメントでの成果を追求することが相当です」

 

これは、ある病院のために私達が作成したレポートのコメントです。

リスクマネジメントは、発生したアクシデントについて原因を分析し、対策を立案し、それを実行し、二度と同じアクシデントが発生しないように対処することが基本です。しかし、そのためには、周辺のあらゆる制度を動員しなければ、成果をあげるリスクマネジメントはできない、ということを説明しています。

 

なお、アクシデントが発生したときに、直ちに現場に直行し、現場をつぶさに検証し、そこで本人から状況を把握し、原因を分析し、対策を立案、さらにそれをマニュアルに反映、教育システムに載せ教育する、そして事後一定期間をおいて実行できているかどうかについて評価する、といったかたちをリスクマネージャー中心に実施していくことが必要です。

 

リスクマネージャー育成のための総合的なプログラムの開発が期待されるとともに、インシデントアクシデントを排除するための人の育成を行うシステムが院内にビルトインされている必要があります。リスクマネージャーにすべて依存することは無理があり、病院にどのような制度としてのリスクを減じるための、抑止するための、予防するための仕組みがあるかとうことが問われているのです。

 

いつも考えます。

  1. 凄いスキルをもち、どのような仕組みであろうと、どのような状況であろうと目的を達成するために、その場をすべて正確にクリヤーし、アクシデントは発生しない
  2. 仕組みがある程度きちっとしているため、スキルはそこそこであるが、アクシデントは発生しない
  3. 仕組みが完全であるので、誰がやってもアクシデントは発生しない

 

といった、仕組みと個人のスキル(その場での)の組み合わせが基本となりアクシデントを発生させないかたちをつくりあげることが病院のリスクマネジメントである、ということについてです。

 

完璧な仕組みをつくることは困難ですし、完全に高いスキルをもった職員を大量に育成することも難しいことでしょう。したがって少なくとも2の状態を満足水準としてつくりあげることが必要です。その後3に向けた対応をしていくことになりますが、多分、それは無理でしょう。少なくとも1の状態はこれまた困難ですから、結局2の状態をいつまでにつくれるか、そのうえで3に近づけるように努力するかが当面の目標であるかなと思います。

 

そのためには、冒頭に記載したように、通常のリスクマネジメントを軸として、対策のマニュアルへの反映、マニュアルの遵守、そのための評価、あるべきかたちと評価された現状のギャップを埋めるための教育制度、さらにはそれらを補完する道具として看護プロセスの確立(PDCA)や、パスによるチーム医療といったことが対象となります。

 

ここで重要な要素はマニュアルです。マニュアルにロジックが必要です。単なるマニュアルではなく、高度に利用されるマニュアルが必要です。私達はウェブ上でマニュアルを作成、管理、運用するソフトを開発し、ご支持をいただいていますが、マニュアルの質をあげる、マニュアルに執着する、マニュアルを習得する、といった活動を誘導する制度づくりが必要になると考えています」。

 

この後、マニュアルの機能や役割についての記事につなげていくのですが、この記事を見て、これからも現場に出て理解を深める姿勢をもち、何事も現場の方々と共に懸命に解決できるよう取り組んでいきたいと、密かに決意をしました。

 

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