よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

どこまでやるの病院原価計算(2)

 原価計算は一般的になぜこれを行うのか。
 ①原価を知るため
 ②原価をコントロールするため
 ③原価をいくらにするか決めるため
といったことがその目的です。
 原価がいったいいくらであるのを知ることは単なる興味の範囲では収まりません。
 原価を知ることにより、利益を知ることもできますが、原価を知ることでどこにどのような問題があるのかを知ることもできます。たとえば実際の原価を比較することでもわかりますし、また標準の原価がいくらであるのかを決めておいて、後に実際に発生した原価と標準原価を並べてみていくら違うのかを認識することは、標準でなかったことの理由を知ることのきっかけになります。

 原価をコントロールすることは、その延長線上にあります。原価には原価を構成する要素があります。それは材料費や経費、労務費そして間接費です。間接費はあるものに直接発生するコストではなく、そのものが製造される、あるいは提供されるための場や、環境をつくりあげるために必要なコストを意味しています。
 ハードであり、ソフトです。これらは直接利益を稼がないということで間接費ということでもよいと思います。いずれにしても直接ではなく、間接ということは、どれにくらということではなく、全体でいくらかかって、それを生産されたあるいは提供されたものやサービスの単位で除し、ひとつあたりにいくらというかたちで配賦(はいふ)します。配賦は直接ではなく、ひとつあたりについていくらというかたちですべてに一定の基準により均等に分けるというイメージです。

 一定の基準により均等にという部分は、実はとても複雑で、簡単ではありません。基準を間違えると異なる金額をそのものやサービスなどが負担してしまうからです。例えば、工場で発生した事務コストを動力費で配賦してしまうと、動力費を多く使った製品に多くのコストを分けることになります。

 しかし、事務コストが実は大量生産品ではなく、特別な少数の注文品であるとすれば、実際に発生したコストは少数の特殊な製品が負担すべきなのです。設計変更や工程換え、段取りのためのコストであれば、本来は少数品に負担させなければなりません。上記の例で間違った配賦があれば、大量生産品は高い原価になり、少数品は安い原価になります。

 少数品の価格を原価からのマークアップにすると大量生産品は売れず、少数品は売れるけれども損がでます。結局、事務コストの配賦を間違えただけで利益がでなくなってしまうのです。アクティビティに応じたコストを配賦しなければならないということでできあがった考え方がアクティビティーベースとコスティング(ABC)です。それを利用した管理がアクティビティベーストマネジメント(ABM)です。原価をコントロールすることで利益を変化させてしまうこともあるんです。

 で、原価をいくらにするのかを決めることはとても重要です。原価企画を行うということは、原価をいくらにするのかを調査し、決定し、計画することですが、まずは上記で原価を把握し、そして正しく計算し、管理し、原価を引き下げるために複数の要素について仕様(スペック)を落としたり、安く購入したり、無駄をなくしたり、共通化したり、少なくしたり…ということを工夫し創造して、決めた原価に落とし込んでいくのです。
 これが簡単ではありますが、原価計算の簡単な理解です。さて、病院に当てはめてみるとどうなるでしょうか?病院の診療報酬は上がりません。これから下がり続けます。出来高ではなく定額制になりつつ
下がっていくのです。

 勿論ドクターズフィーは出来高ですから、手術を数多くこなすということが現状においては医業収入を確保する方法ではありますが、しかし、それにしても利益をコントロールするためには原価をコントロールすることが必要となるのです。病院原価計算ができなければDPC時代を正しくクリヤーすることは絶対にできません。DPCの本来の目的から離れ、制度に翻弄されることになります。


 部門別損益計算(部門別原価計算)、行為別原価計算、患者別疾病別原価計算といった病院原価計算ができる仕組みや体制をつくりあげる必要がここにあります(続く)。

「ドクタートレジャーボックス同時掲載記事」