よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

クリティカルパスのすごさ(4)

四位一体(マニュアルとパス、そしてリスクマネジメント、そして教育は個々に存在するのではなく4つのアイテムのなかで常に関係をもちながら機能を発揮させなければならない。そのことにより、医療は高い質と生産性を得ることができるという考え方)は、私の本で明らかにしている考え方です。

 クリティカルパスの個々の実施事項はすべてマニュアルでアセスメントされる必要があります。ある項目について実施する者により、実施内容が異なってしまうからです。

 パスではあくまでも何を実施するのかしか記入されていません。その内容については実施者のスキルに依存することになってしまいます。実施者のスキルがどのように実施されるのかについては、何の基準もありません。基準なく行為が行われるのであれば、どのようにしてパスの質を担保するのでしょう。質を担保するためには実施事項についてマニュアルによる説明がなければならないのです。

 クリティカルパスはその存在が治療を方向づけることだけではなく、マニュアルとのセットにより、治療の質を高めて区ためのきっかけを提供することになるのです。

 マニュアルだけでも、個々の項目の行為を意味づけるという意味をもちますが、マニュアルをひとつひとつの業務を記述するという機能から、連続した治療のながれを説明する機能をもたせることができるのです。クリティカルパスあることで、行為を点から線に変化させることができます(四位一体スペシャル1)。

 また、バリアンスがあることにより、クリティカルパス自体が書き換えられることになりますが、患者要因、システム要因や医療従事者要因、そして社会的要因にいたるまで、すべて業務改革の対象になります。業務改革は具体的には業務の手順を変え、ノウハウを付加し、必要な知識はいったいなんであるのか、そしてどのような能力が必要であるのかを示してくれます。それはすべてマニュアルそのものを書き換えることになります。

 ここに、クリティカルパスはその進化を通じて、医療行為すべてを変革する力をもっている、ということができます(四位一体スペシャル2)。

 さらに、バリアンスの要因として事故があります。事故が発生すれば、事故掌握や解決のために必ず余計な時間を必要とします。レポートを書く、行為を振り返る、対策を検討するといった本人や発見者の時間を消費するだけではなく、レポートをチェックする者、コメントを書く者の時間を奪うことにもなります。リスク発生は、患者本人の時間を奪うことは勿論のこと、こうして病院のオペレーションそのものの質を毀損(きそん)することになるのです。これは無駄です(※)。

※通常リスクマネジメントを行うことで、たとえばインシデントが十分に議論され、アクシデントを防止することができるまで対策化されることができれば、議論や対策かまでのプロセスにおいて消費された時間は有効に機能しますが、多くの病院ではあまりにもこのプロセスや対策定着が徹底されないため、何度も同じことが起こる

 クリティカルパスはリスクマネジメントと密接な関係をもち、クリティカルパスによる治療を標準化し、それをマニュアルによりアセスメントする結果、質があがり事故が減れば、こうしたリスクマネジメントにより発生する不効率を低減する効果をもちます。パス通りに治療をしよう、予定日に退院してもらおうという意欲が事故を抑止するという意識をより強めることになると考えられます。パスは、事故抑止効果をもつことになります(四位一体スペシャル3)。

 また、パスを期日通り運用しようとすれば、パスを利用する者すべてが、スキルを高めていかなければなりません。スキル=技術技能を高めるためには教育システムが必要となります。教育システムがあることにより、曖昧な教育が排除され、合理的で体系的かつ継続的な教育が実施されます。マニュアルによる直接のOJTや、パスの運用プロセスにおける訓練、そしてリスクマネジメントの実施による訓練等も教育の範疇に含まれます。

 パスを中心としてマニュアルやリスクマネジメントが機能するなかで、必然的に教育システムが形成されてくる可能性があります。高密度で質の高い教育を行わなければならない→クリティカルパスを利用することが必要→引きずられるようにマニュアルが機能→リスクマネジメントが影響を受ける→そして教育の必要性が確認できるとともにシステム構築に進むといったながれができあがります(四位一体スペシャル4)。

 これがパスの教育誘導力です。クリティカルパスを利用して質の高い医療(たくさんの患者さんに来院してもらい、早く退院してもらうことができる医療)を志向しようとすればするほど、四位一体はより強く機能することになります。

 四位一体を具体化し、実効性を高める中心軸となる道具がクリティカルパスであるということができます。クリティカルパスのすごさについて、理解していただけたでしょうか?
 パスのすごさをよく理解したうえで、パスを徹底活用するための体制をつくりあげることが望まれます。


「ドクタートレジャーボックス同時掲載記事」