よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

リスクマネジメントにもっと本気に(1)

 いろいろな病院におじゃまして思うこと。本当に事故は起こるものであるということ。どの病院にいついってもいつも何かのクレームやアクシデントがあります。インシデントはレポートをみなければ、そして自己申告しなければ、あるいは現場にいなければみえませんが、それらは病院で対処をどうするかについ右往左往しているので、すぐわかるのです。

 それらを聞けば聞くほど、なんでそんなということばかりです。しかし、何か発見されてすぐ構造的な検討をするか、(どうみても)表層的な対応をしてしまうのか病院により行動が異なるようです。

 構造的というのは、なせそれが発生したのかを十分吟味したうえでルールを決め、マニュアル化し、パスを変え、継続的な教育を行うなかに含める(もともと教育の仕組みがあれば自動的に教育されることになりますが)といったことを意味しています。表層的というのは、その場で反省会をすることや、これからはこうしようと口頭で決定して、終了してしまうことを言っています。
 
 すなわち、十分な議論をせず、どちらかというと事象への対応に追われ、次につながる処理ができずに終わってしまうことを意味しています。とりわけクレームなど明らかに医療過誤や事故ではないものに対しては、より強くその傾向があるようです。クレームの本質を捉えてみると、実はコミュニケーションの問題や、仕事の段取りや、さらには進め方、そしてそれらを包含する報告、連絡、相談が欠如しているといった組織運営上の瑕疵であったりすることが多いにもかかわらずです。

 何か重要性が理解できない、これは大変な問題だということに帰着せず、ながしてしまっていることが傍から見てわかります。勿論、個人のだれだれさんはこんなでした的なクレームについても、実は、その人の、採用、配置、教育、評価、処遇といった人事管理の問題であったりするのですが、病院は不思議なことにこうしたことが問われない。そんな文化があるようです。

 以前書いたと思いますが、病院からタクシーに乗り、運転手さんが、ある患者さんがお母さんが具合が悪く、部屋にポータブルを持ってきてほしいといったとき、看護師は機嫌が悪く、いやいやポータブルを、ほれっという感じで渡した話があります。

 患者さん家族の依頼の仕方、そのときの態度などさまざまな患者要因はあるでしょう。看護師さんだけに問題があるのではありません。しかし、どのような患者さんでもいま発生している患者さんの状況があります。前の患者さんが使ったまま(つまりまだなかに残っている)のものを持ってくるということは明らかに個人の注意の問題ではなく、仕組みの問題であると考えます。

 ポータブルを渡す、使う、回収する、処理する、洗浄する、確認するという一連のながれのなかで利用可能なポータブルが利用してよいかたちで、ある場所に管理されているというながれが組織構造的です。忙しくてそれどころではない、悪感情をもっている患者さんや家族であっても、その看護師さんのメンタリティーと異なるところで仕組みができていなければならなかったのです。

 勿論、忙しい理由は時間帯の問題か、無駄な業務が多いからなのか、個人のスキルがないからなのか、前日いやなことがあったのか、さまざまな理由により辞めたいと思っていたのか、についてもよほど個人的な問題で意識が集中できていなかったことを除けば実は組織のあらゆる問題点から派生していることが多くあります。

 その運転手さんは、いろいろな人にその話を面白おかしく話すのでしょう。しかし、その度さらにその話を自らの意思決定に利用する患者さんや家族、他の人に話す人が増え、患者は減るのです。そして運転手さんの決定的な言葉、「その患者さんは○○病院は看護師さんがしっかりしているのでやっぱり○○病院にいくそうです」という一言で競合の患者さんになるです。

 看護師さんの問題だけではなく、いかに構造的な対応が必要な事項が数多くあるのかについて病院関係者はマネジメントを見直していく必要があります。その場で、その場面で対策を練り組織的に対応するくせをつける。そんなリスクマネジメントが望まれます(続く)。


「ドクタートレジャーボックス同時掲載記事」