よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

職務基準の作成

 いま、広島空港行きのバスに乗車しています。これから空港に向かい東京での夜の会議に出席します。
昨日は大阪→京都→広島と移動し、広島でH病院の理事長、理事等幹部の方々とおいしいお食事をいただいたあと、本日はH病院でいくつかのミーティングを行い、現在移動しているというわけです。

 本日は、仕事のひとつとして職務基準づくりのサポートをしました。
D事務長は、職務基準づくりに情熱をもっています。もともと評価基準、すなわち人事考課制度のなかの能力考課の基準としての職務基準の意味あいと、それをベースに対象者をどのように教育していくのかという教育の側面を合わせもった職務基準づくりを推進されています。

 そもそも、多くの病院には職務基準がないため、人事考課制度がうまく機能していません。それどころかびっくりすることに、目標管理による業績評価、そををもインクルードしたうえでの人事考課制度における業績考課や前述した能力考課が行われていないところがたくさんあります。情意考課にしても、どちらかというとおざなりで、適当なチェックシートによりチェックするところがあればまだましなほうです。

 病院は知的労働集約産業です。多くの有資格者が医師の指示のものと、あるいは能動的にそれぞれのスキルをもって合目的的に活動をしています。ここになぜ到達基準がないのか。病院としてどこまでやってほしいのか。どこまでの能力をもって就業してほしいのかという基準がないのはおかしなものです。そうはいっても、実は各職場とりわけコメディカルにはそうしたものがある部署が数多くあります。

 検査にしても、放射線にしても、実はローテをしなければ上司が困るため、皆がいろいろな機械をつかうスキルを身につけるために教育システムやマニュアルを整備しているのです。背に腹は代えられないというやつです。しかし、これは各部署の基準であって、病院全体の評価基準に昇華されていないため、結局は部署のなかでの評価の基準としてつかわれるチャンスはあるものの、病院として認知されたフェーズで使われることがありません。

 看護部には卒後研修やラダーがあるものの、手技そもののを明確に評価できるのは職務基準であることを理解していないきらいがあります。

 そうはいっても職務基準は大枠であるため、実際の詳細な評価や課題の抽出のためには手順書やマニュアルからつくりあげられたチェックシートが活用されることになります。東京のT病院の看護部長であるFさんは、私たちが職務基準をつくりましょうと病院に提案する前に、詳細な職場の職務基準をつくり独自で運用していて、とてもレベルの高い育成活動を行っていらっしゃいました。

 だいたい職務基準には、支援すればできる、独りでできる、完全にできるという区分があり、どの等級のスタッフがどの仕事をどのようなレベルでできる必要があるという決めごとがあるのですが、彼女を中心とした看護部から、私たちはほぼこれらを習得しているので、他人にできるだけうまく教えることができるよう努力していきたい。ついては、職務基準のなかに教えることができる、という区部を作ってほしい。うまくできたとしても、教えることは本当に難しい…。という要請がありました。

 私たちホワイトボックスは、Fさんの申し出を受け、いまでは他の病院でも教えることができるという意味の「教」という区分がある職務基準を利用しています。

 さて、本日は13時から16時まで6つの部署が事務長や私たちと面談をしました。栄養科、薬局やリハ、検査に放射線、クリニックリハセンターがその部署です。それぞれ50%~80%のできで、ある程度はできていますが、さらに区分や年次、そしてどのような教育をしていけばその区分に到達するのかといったことについて、事務長と各部署の責任者が話し合い、そこにホワイトボックス社が意見を申し上げるということでの作業でした。企画室長のTさんは、病院の方向が正しく理解されるよう補足的な意見を述べ、そして現場の方々が理解しやすいよう、指導をされていました。

 この病院はもちろんDPC病院ですが、高い業績を維持しており、また、原価計算をはじめ常に新しい改革に燃えてきた病院です。すでに職能等級制を導入してから10年近くが経過し、考課者訓練も過去数多く実施してきています。

 今年も、多くの反省を踏まえ、職務基準を確立し、より人事考課の質を高めるため、制度構築を急いています。

 事務長がおっしゃった、評価のための評価を行うために職務基準があるのではない。どこにその人の解決すべき課題があり、病院としてそれらを改善するために相互に活動していくのか、それを今回の職務基準の重要な役割として伝えていきたい…。という思いを具体的にしていくため、私たちは今日も活動をしています。ちょうどバスは、ながいトンネルを抜け、雨模様ではあるものの、暗い空気を切り裂きながら一路空港へと進んでいます。

 私たちも、日本全体を考え、医療制度がどのようにあるべきなのか議論する。そのなかで職員が本当にはたきやすい病院、それはおもねるのでも、こびるのでもなく、自立を促し、自らが医療という仕事を誇りに思い、最後まで進歩し続けようという意欲をもって仕事ができるようになるよう、マネジメントを支援していかなければならないし、またそうであれば基本ではありますが、客観的で使いやすい職能等級制度及び付随する病院らしい人事管理制度を構築しなければならないと考えています。

 バスがシャーという音を立てて雨のなかを疾走するさまは、私たちが戦う姿勢を示しているのであるかもしれません。多くの医療従事者の方々と、何があっても成果をあげていくまで微力ではありますが、支援していけるよう力をつけていきたいと、いま、思っています。