よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

医療崩壊のウソについて

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 日経ビジネスの最新号には、医療崩壊のウソという記事が特集され、ムダや矛盾が医療を壊すというタイトルで医療の現状、「カイゼン」が崩壊を救ったとして米国の改善事例、「経営力」で医療は変わると日本の経営改革の取り組み、そして「官僚支配の医療と決別を」と亀田病院の院長のコメントが掲載されています。

 事象としては医療は崩壊していると思います。
 ただ、医療崩壊しきってしまっているのかというと、そうではなく、まだまだ修正ができるんだという文脈であると理解しました。

 医療崩壊は、国家的な政策の誤りと、地域医療の失敗、そして病院毎のマネジメントが脆弱なために起こっている事象である。しかし、医療が崩壊し切ってはいないんだ(医療崩壊のウソの根拠)ということについては大賛成です。

 記事のなかでは、公的病院が赤字になっている原因として、一部スタッフの報酬が取り上げられていて、民間よりも報酬が高いので赤字だ的な話で構成されていたと書かれていまう。それは事実でしょう。

 しかし、本質的には国がどうであろうと、自治体がどうであろうと、公的病院であろうがなかろうが、圧倒的なリーダーシップで財務的にも成果をあげている病院はたくさんあります。

 最終的に記事をつないで説明をすると、結局は組織を牽引する強烈なリーダーシップと個々の病院のマネジメント不在がいまの医療の現状をつくりだしているのです。

 記事にもありましたが、医療は特殊であり、他の業種と異なるマネジメントが必要であるという考えにより、特別視されてきた時期がありました。

 ただ、現場オペレーションの特性はあるものの、人事にしても、オペレーションマネジメントにしても、管理会計にしても他の業種と変わることはありません。これは私があらゆる業種の上場会社や子会社を監査法人で監査し、銀行でさらに別の角度からチェックし、そして病院に13年間関与して得た結果です。

 病院のDD(デューデリゼーション=調査)や再生案件への関与が多くなったこの数年は病院経営トップとの戦略立案や具体的な日々の活動において現場医師とよく議論するようになり、その思いはより強いものとなりました。他の業種とあえて異なることがあるとすれば、
(1)医師はインテリジェンスがあり、性格の属性を排除すれば基本的に強い意欲を心底に持っているということ。
(2)そして看護師はポジティブで学習意欲が高い傾向にあるスタッフであること。
(3)コメディカルもいわゆる技術職であり、常に研鑽していかなければ(とりわけ急性期病院においては)仕事を進めていけなくなる職業であること
が、あげられます。
(4)事務長も他の職業と比較して、管理の幅が広く、なんでもかんでもやらなければならない仕事であるとということでいえば、他に比較するものがないという言い方もできます。

 あえて言えば経営企画や財務の専門家はなかなか存在しない。経営戦略を立案し、トップにアドバイスするスキルをもったスタッフが少ないという現状があります。この部分の充足が必要でしょう。
 
 いずれにしても、世に有名なすぐれた病院には、感性の豊かなそして常に情報収集を怠らず、情熱にあふれた経営トップがいます。彼らは常に元気で、明るく、そして誰からも尊敬されている。彼の求心力で医師は集まり、スタッフは動機づけられ覚醒してレベルの高い仕事をしています。

 そうした病院をみてみると必ずスター事務長や経営企画室のメンバー、総務人事、財務経理にそうした優秀なスタッフが控えていることが多いのは医療関係者であればよく知られていることです。

(1)現場のオペレーションのマネジメントが適切に行われる仕組みがある
(2)現場を束ね、病院として方向づける戦略的マネジメントを行うリーダーとスタッフが充実している
(3)医師が科学者として、トップの考えに傾倒し、マネジメントのいったんを担っているとの自覚のも  とでベクトルを合わせて行動している
(4)経営が一定程度開示されていて、数字に基づいた行動が習慣づけられている
(5)権限と責任が明確で、それぞれの職位にあるスタッフが「燃えている」
 
 こんな状況をつくりあげた病院は、どのような環境であっても、高い成果をあげていることを多くの国民は理解しなければなりません。

 もちろん、個々の病院が成果をあげづらい因子を排除することが厚労省の役割であり、もっといえば地域住民の責任でもあります。

 しかし、他の業種とは違うんだという思いや護送船団方式で病院が守られていることに安住してきた病院トップの責任はとても重いと思います。医療崩壊は事実として進んでいます。ただ、それは国や自治体の責任だけでもない。

 脆弱なマネジメントをどう良い方向に向けていくのか、医師を中心とした職員の意欲をかきたて、地域の支援を受けながら、現状をどう打開するのかを考え続ける病院トップや彼らを支えるマネジメントスキルに長けた側近を早急に育成し、医療崩壊はウソであるという説明がウソにならないようにしていくことが病院トップの行うべきことであると考えます。経営トップの責任を重視しべきです(しかし、経営者が学ぶ環境がなく、これも問題です。彼らは医師であり属性で勝負しています。院長をマネジメントとして育成する仕組みが作り上げられる必要があるでしょう)。
 
 本日、17時から19時近くまで、関西のクライアントの病院で、業務改革にかかわるWG(ワーキンググループ)でミーティングを行いました。

 WGのトップである医師をはじめ4名の医師と十数名の各部署から選別されたスタッフへの説明と議論を行いましたが、それぞれの医師から、さまざまな意見や質問があり、またスタッフともやり取りがあり、とても有意義な会議となりました。

 何よりも、彼らのいまを変えなければならないという思いの一端に触れとても気持ちが高揚しました。
 真剣な皆さんの気持ちが無駄にならないよう、黒子の私たちは毎日精進しなければならないとまたまた今日も決意したのでした。

 もう真夜中に近い時間でしたが、自宅マンションの横で、曇り空のなかに光り輝いている月をみることができました。10秒ごとに雲に隠れたり顔を出したりしている月でしたが、雲という障害をものともせず、闇を照らそうとしている月が、この劣悪な環境のなかで、患者さんを何とか守りたい、職員の生活を、やりがいのある仕事を作りたいと孤軍奮闘している病院トップの姿に重なり、少し感動しました。

 当社ホワイトボックスは、銀行のための病院審査基準マニュアルを紹介するセミナーや、MRのための学習会、開業の先生に対するマネジメント研究会をよく行いますが、できれば少しでもお役に立てるよう経営トップ戦略講座を各地で立ち上げたいとも思っています。

 日本に多くの意欲のある病院トップが出現することを心から祈っています。