あれだけ喧騒であった場所は、静寂のなかで身をひそめ、静かに活動をはじめるまでの時を待っている。歩道には人一人歩いておらず、とても不思議な気にさせてくれる。
ブランドショップが立ち並ぶ街並みは、無機質で何も語ってはくれない。店が息づいているのは、店のせいではなく、店に命を吹き込む店員の精神であることがわかる。
何か目にとめてもらおうと、商品が陳列され、ディスプレイが行われ、そして気持ちが態度や姿勢に転換して客を呼ぶ。街は彼らの道具にすぎないのかとも思う。
しかし、街は街で、主(ぬし)がいないあいだに息づいていて、しらない間にきれいな自分をみせびらかしている。昼になれば騒がしさにまぎれて存在感を失ってしまうのだから、いまのうちに自分を自分として確かめておきたい、そんな気持ちをもって街は息づくのだ。
赤い花は、昼間にみるよりも、強くかほり、輝きながら、濃い色を視野に残す。透きとおった空気のなかで、花も主のいない街をいろどる主役でいるのだと思う。
私は足をとめて、ひとひらの花弁に指を添え、息づく命にすこし触れてみる。自分もこの街のどこかでしっかり息づくすべを知るために…。