よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

医療における接遇の一考察


以下は、ある大病院で、診療部長および病院幹部に向けて、医療における本質的な接遇の考え方についてレクチャーしたときの資料です。

「患者サービス・接遇」という言葉で日本の医療の場に登場したのは1987年のこと。21世紀の新しい医療のあり方を探る目的で設置された「国民医療総合対策本部」の中間報告に明記されていた。

 この段階ではサービス業のなかにサービスを提供する「医療・福祉」も概念的に含まれていたと考えられる。

 しかし、2002年の日本標準作業分類改訂により「サービス業」は見直され、「医療・福祉」が分割されサービス業とならぶ大分類となった。「医療・福祉」はいわゆるサービス業からは分類がはずされており、独立した業として掲示されることになった。医療はサービスを提供するが、サービス業ではない。

 サービスとは、経済取引において売り買いした後にモノが残らず、効用や満足などを提供する、形のない財のことをいう。

患者が最も求めているものは、
(1)納得したうえで

(2)早期に成果をあげ

(3)早期に退院でき

(4)二度と病院にこなくてもよい状況
である。

 患者さんは治療に来ているのであり、もてなされに来院しているのではない。医療サービスからの効用や満足とは何かを突き詰めていく必要がある。

 本来の医療から得られるはずの効用や満足を、接遇により補うのは本末転倒。本来の医療サービスから得られる効用や満足を、より追求すべきである。
 
 患者さまと呼ぶことを止めている病院も多い。


 もてなしをすること。面倒をみること。医療のもてなしは、患者さんが求めているものを提供すること。

 そのためには、仕事の仕組みをあるべきものとすることと、個人の医療サービスにおける技術技能を向上させること。

 スキルの高い職員は、プライドをもち、また自信をもって事に当たることができる。余裕があるから、先が見通せる、気配りができる。仕事のできる人は他人に優しくできる。笑顔・挨拶・礼節は、自信の発露。接遇=もてなすこと、面倒をみること挨拶、笑顔、礼節を接遇とだけで捉えてはダメ。

(1)きれいで、笑顔の素敵な、とても挨拶が気持よい看護師さんの注射が下手で我慢できないほど痛かった。なんとか教育をして欲しい                          
                        (75歳 男性)

(2)母は、とても愛想のよい看護師さんに点滴をしてもらっていましたので、とても安心していましたが、よくみると点滴の袋に違う人の名前が書いてありました                     (患者家族)

(3)ほかの患者さんにはとても愛想がよい病棟の看護師○○さんは、私にはそっけなく、とてもいじわるでした。おかげで入院がつらかった
                        (64歳 女性)

(4)車椅子の患者さんが、検査に後れてきたとき、外来の看護師さんが何度も大きな声で叱責し、患者さんは涙を浮かべていました。あまりのひどさに…                  
                        (56歳 女性)

 ホワイトボックスが主張する接遇は、以下のもの。
(1)羞恥心を与えない

(2)恐怖心を与えない

(3)痛みを与えない

(4)納得してもらう

(5)不便を与えない

(6)不利益を与えない

(7)不快な思いを与えない

 医療は知的労働集約産業である。専門職により仕事が形成される。患者さんが理解し、納得するところまで説明を行うことが専門職には求められる。説明責任は、一方的に説明すれば免責されるものではない。ただ、ある部分については理解せずとも利益を当然に享受できなければ医療は成り立たない(医療技術が要求される)。

 「また来てくださいね」というホスピタリティではなく、「もう二度と来ないで下さいね」(一緒に治
療し高い成果をあげよう)の接遇。医療における医療技術の質を徹底的に高め患者さんの高い効用と十分な満足をつくりだすサービスを提供することで、スパイラル的に新患が増加する。

 笑顔、挨拶、礼節が必要ないといっているのではない。それがどこから生まれているのかが重要であるということをいっている。医療は医師や職員が技術を高め提供されるもの。継続的にそれらが達成される仕組みをつくりあげていくことができていない病院が多い。

 医療従事者であるということだけで医療の現場に出ることではなく、病院全体として必要なレベルの設定や、ここまではやらなければならないというマネジメントサイドの基準がない(職務基準、権限規程、職務分掌等)。

 病院トップが経営をできていないところが問題。

 戦略を明確にしたうえで、医療現場マネジメントでのメンタリティーと、組織マネジメントのスキルは別のもの。それらをそれぞれ高め、そして融合する。そうした不断の活動が行われる経営者がいる病院が、成果をあげている。

 接遇を根本から考え直すことが必要である。
 
 病院崩壊は経営不在が原因の重要なひとつであるとホワイトボックスは考える。DPCそのものを語る前に、本質的なマネジメントがきちっとできる、スキルが高く、医療と財政のバランスがとれ、慈愛をもった経営者の出現が望まれる。