(5)手術件数が低減する傾向にある
病床利用率が高くても、手術件数が低減することは危険です。結局は内科的な単価が低い患者が増加し、収益悪化をもたらすからです。
急性期病院の利益の源泉は手術です。手術が行なわれない病院、低減する病院は危険領域に入ってくるということができます。
なお、手術が行なわれない理由には、
①手術対象患者が入院しない、
ということもありますが、
②手術ができる医師がいない、
ということもあります。
②の場合には例えば脳神経外科や心臓血管外科のように複数の医師がいなければ手術や術後の管理ができない、ということもあり、ⅰ)医師が不足していることが背景にあることもあります。
また、員数的には足りているけれどもⅱ)医師が手術にネガティブであったり、腕が悪いため、手術を敬遠するということも背景にあり、何れにしても、経営的に成り立たなくなることが明白な病院であることは間違いないことになります。
(6)入院単価(入院日当点)が低減する傾向にある
手術が行なわれても、入院単価が低くなる傾向にあるということは、高い技術料の手術が行なわれなくなったといということを示しています。
それは、
①高い点数をとれる手術の患者が入院しない
②その手術ができない医師がいる
ということになります。
なお、本来転院している患者数をみれば、自院で手術ができない患者を把握することができますが、それを事務で科別につかんでいる病院も少ないため、あえてここでは簡単にとれる指標をチェックすることにしています。
(7)平均在院日数が増加する傾向にある、あるいは増減が激しい
平均在院日数が増加する傾向にある、ということは医療の質が低いことを意味しています。
①計画的な医療ができていない
②地域連携ができていない
③病床利用率を意図的にあげようとしている
④治療をながびかせる事故が多発している
といったことを示しています。
さらに、
⑤検査入院が少ない
⑥教育入院を行なっていない
⑦入院期間が短い標榜科目がない
といったことをも示しており、戦略的な対応をしていない病院であるということが伺えます。
なお、看護基準に合わせてぎりぎりの平均在院日数である病院もなんとかやりくりしていることが伺えるため、注意が必要です。余裕をもって、いつも一定の平均在院日数を保っている病院が優良な病院であるということがいえます。
ちなみに、10:1(患者10人に対して看護師1名)の看護基準では21日、7:1(患者7名に対して看護師1名)の看護基準では19日という平均在院日数が決まっています。
(8)紹介率が低く、増加していない。低減傾向にある
紹介率が増加していないことは、
①開業医や病院から人気がない
②患者から人気がない(あの病院に紹介して下さいということがない)
③地域との関わりが薄い
④地域に知られていない
⑤職員が積極的に活動していない
といったことが伺えます。
そのことは、地域完結型医療を行うなかで、自院に必要な患者を抱え込むことでしか、生き残っていけない急性期病院のあり方から逸脱していることを意味しており、今後、ながく優良な経営を行なうことが困難です。
紹介率が低い段階でとまっている、それ以上増加していない、また、低減傾向に
ある、といった病院は、患者が集らない病院として問題があります。
(9)医師が不足している
医師が不足している、というなかには医師が辞めてしまい
①法定の医師がいない
という場合と、
②医師はいるが働きが悪い
③さらには全体としては充足しているが、必要な標榜科目の医師を積極的に求めている
というケースがあります。
なお、常勤の医師と非常勤の医師が職員となっているわけですが、非常勤の医師はコストがべらぼうに高くなることが一般的です。
一日当りいくらということですし、外来の診察はするが病棟はみない、といったことが行なわれるため、実際には常勤の比率が落ちれば効率や成果は間違いなく低減します。
これらのどれであるのかを見極めることは必要ですが、医師数を常勤と非常勤に分けて情報収集することで、当該病院がどのような状況にあるのかを理解することができます。
(10)看護師の定着率が低い
一人当たり一月に72時間の夜勤の制限があり多くの看護師がいなければならない事情や、高い看護基準をとることで入院基本料を高くとろうという病院が増加しているため、また、看護師の資格をもったものが介護へ転出するなど、看護師が不足しています。
どこでも看護師が必要であり、看護師が不足することで高い点数がとれない状況になることがあります。看護師を採るためにHPでの訴求や、職員である看護師に友人や後輩を採用すれば報奨金を支払う制度を導入するなど、多くの病院が看護師を募集しているのです。
看護師が集らない、潤沢にいない病院はどこかに問題があるわけで、看護師が常に辞める、不足している、定着率が悪い、といった病院は要注意である、ということがいえます。
4.まとめ
別紙にあるように本来は、多くの動態的チェックポイントがあるなかで、上記の10項目のチェックはとても簡便です。
ここでは、付属のチェックリストを先方に渡し、枠のなかに数字を入れてもらうことによって情報を簡単に収集できるアイテムに絞っています。
例え、財務データは入手できなくとも、ここに記載されている項目と、簡単な財務数値情報を入手することによって与信判断の一助とすることが可能です。
10項目は最低限の項目であり、できるだけ多くの指標を入手することが必要ではありますが、まずは10項目をベースに病院の実態を浮き彫りにすることが適当です。