いまの季節はとても爽やかです。
いままで我慢してきた自然たちが、温かな日差しのなかで羽を伸ばす季節がやってきました。
緑はほんの少し冬のなごりを黄色く残しながら、新しい生命の息吹を伝えます。
木々の境界線から伸びる、灰色の殻をむいた空は、輪郭をまだはっきりとはしないままに、雲を織り込みながら、ほんのり青く澄み渡り、いまの空の色はこうだよと教えてくれます。
そんな景色からから生まれた、身体を通りすぎていく空気のながれは、ほんのり草の香(かほ)りがします。
文明に染まった人間が、便利を享受できることよりも、生きていることだけを喜べる瞬間です。
心の喜びは、どこからか生まれてくるか判りません。
すべてから解放され宇宙と一体となる時空が、私を包み込みます。
おだやかな温かさとやわらかい空間が、安心をくれ、勇気が心底から湧き上がることが実感できます。
人はなんのために生まれ、なんのために死んでいくのか。そうした終わりのない葛藤からも離れることができます。
しかし、我に帰れば、私たち人間は、強い意志のうえに生きなければなりません。
瞬間に過ぎ去る今と未来のために、自分達がつくりだしてきた現在と、そして自分に勝ち続けていかなければなりません。
宇宙の営みからすればほんの小さな出来事や小さな抵抗ではあるけれども、生きた意味をもつために、来世につながるひとときの終焉を迎えるために、私たちは、自然を感じながら、しかし歩みをとめず、弛緩せず、人生の季節をのりこえ続けていかなければならないのです。
やすらぎと覚悟。
愛(め)でる季節と乗り越えなければならない季節。
私たちは、いつもその間を常に行ったり来たりしながら、これからもずっと生きていくのです。