よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

医療はどこに辿りつくのか(2)

 (1)では、「どのような人、どのような価値観をもった個人であっても、組織の思想や理念のなかでベクトルを合わせ、組織そのものの価値が個人の価値を内包してさらに輝きを増すようなマネジメントが行われる必要があるのです」と書きました。

 もっとも大切なのは、自院が何を行うのかを病院トップと医師が議論しているのかということです。
 
 多くの病院をみてみると、理事長や院長と医師との間で、医師が何をしていきたいのか、どのような病院としての支援をすればよいのかについて話し合っていないことが多くあります。同時に月並みではありますが、SWOT分析を行い、自院のポジションを認識し続けていないことが通常です。

 さまざまな情報をパッチワークのように重ね合わせ、しかも全体像が描けていないまま病院経営が行われています。内外課題について病院全体での検討が行われず、現場は現場まかせ、病院として詳細な部分に介入せず、日々の医療が行われています。

 日々の医療は患者さんが来院すれば、懸命に治療するという領域であり、その内容についても病院として検証もされず、各診療科の医師や場合によれば医局が懸命に歯を食いしばりながら頑張っているのです。

 しかし、病院が総合的に課題解決に介入していないため、現場での衝突(コンフリクト)が生まれ、混乱を内包しながら、なんとか現場の医療をやりきるという現状があります。現場コンフリクトを解決できないまま医療が行われているため、医療は、最大の成果をもって実施されず、無駄をつくり、修正が行われ、生産性を落とし、本来人がもっている能力を最大限発揮できずに時間が過ぎていくという状況に置かれています。

 医師はある意味百貨店の売り場主任的な働きを強いられ、病院が抱えている地域における戦略的医療の一部を自動的に担っているだけの毎日を、疲弊しながら、患者さんのために営々と行っています。

 しかし本来であれば、病院のポジションと、自分のやりたい医療とのバランスをとりつつ、日々の活動が、地域にどのように貢献できているのか、またそれは自院のなかでどのようなポジションを占めていて、定量的にもどのような成果を生んでいるのかについて、時系列での情報を得ることができる。
 結果、自らの行動を修正、あるいは進化させながら病院全体を感じつつ医療を行う感覚をもてなければならない。

 部分最適の集積は必ずしも、全体最適をもたらすものではないということについて病院トップが認識しなければならないのです。全体の設計のなかにおける自診療科、自診療科の役割を活かす全体の設計、といった関係が生まれなければなりません。
 看護師他、他の職員についても同じことがいえます。全体があって個、個があって全体という関係をマネジメントによりつくり出す必要があります。

 医師は、病院トップとの間で意見を集約し立案された戦略により行動、結果を毎月検証しながら、達成感をもって自らの能力を発揮することができます。


 そして、医師以外の職員です。医師と病院との関係が構築されたのち、看護師、コメディカル、事務方は、そこで確立された方針を個人レベルまで落とし込み、定量化されたKPI(キーパフォーマンスインディケーター)をベースとして行動し、成果を月々検証します。必要な道具が提供され、さらに常にモニタリングが行われ、評価され、不足する部分については修正されるという仕組みがつくりあげられています。

 パス、マニュアル、リスク、教育が四身一体としてリンクしながら機能し、その背景にはより精緻な権限規程や職務基準が整備され、業務改革が継続的に行われている。とりわけ、部署間コンフリクトについて徹底的な関与が事務方を中心としたプロジェクトにより行われ、病院トップが介入しながら最終解決が行われている、という状況がつくりだされなければなりません。

 もちろん、パスの作成運用バリアンスマネジメント、ナレッジマネジメントの対象とされるマニュアルの作成運用、リスクマネジメントにおける定着可能な対策立案、さらにエビデンスに基づき、個人別に継続される教育といった各項目への対応は従来の表面的なものに終始するのではなく、業務改革、そして医療の質の向上を徹底して実施する創造的なものでなければなりません。
 看護プロセス見直しやや病棟における質の高い入退院管理も医師の徹底サポートを行うためにとても重要なテーマとなります。

 接遇についても、単なる笑顔、礼節だけではなく、痛みを与えない、恐怖心を与えない、羞恥心を与えない、納得してもらう、不便を与えない、不快な思いを与えない、不利益を与えないといった明確な思想のもとに、患者さんに対するスキルをどのように向上させればよいのかといった全的制度構築が行われる必要があります。

 従来の病院マネジメントを0ベースで見直し、マネジメントの体系をつくり直す気概をもって病院経営者は立ち上がらなければなりません。一気に思いをぶつけたので、あまりうまい文章ではありませんが、いまだ確立されていない病院マネジメントに対する、私たちの思いを書きました。

 地域医療を守るため、自らの思いを整理するとともに、自身を賭して自院の改革のため活動する医療従事者の方々が、多数生まれることを心から期待しています。