よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

医療従事者のための医療マネジメント

 医療に携わるものは、マインドの深層に人のために何かをしたいと思う者が多くいます。もちろん、その他の業種であっても良心にしたがい、利他をもって生きている人々は多く存在しているし、社会貢献したいと願う人は数限りないと考えています。

 しかし、医療(そして介護)は人間の生きざまや死にざまに直接関与することも多く、そのプロセスにおける解決困難な課題へのアプローチをしつつ、自己の生き方まで影響を受ける環境で仕事をしなければならないということを考えると、他の業界以上に生死、利他ということを以て生きていかなければならない業種であると考えています。

 彼らが、目的を達成するために医療を提供する場として病院があり、診療所があり、施設があります。
そこでは目的を達成するために組織運営が行われています。組織運営は複数の人が集まり、役割を以て、定められた業務を行うことを以て行われます。機械的に処理をするということに馴染まず、一人ひとりの価値観やスキルがダイレクトに影響する業種であるということができます。

 そこには、したがって他の業種に比してより頻回に人の属性のぶつかり合いがあり、そのなかで組織目的あるいは目標を達成するための活動が行われていくことになります。属性は、性格や過去の経験、思想、知識などから形成されますが、それはそれは多様なかたちをもって表現されます。損得、利害が小さい領域から大きい領域で影響し、調整されながら成果をあげる方向で機能します。

 人の「わがまま」が一定の範囲に収まる限り、組織はなんとか成果を上げ続けることができますが、それが目に見えないかたちで行使されはじめる、あるいは影響し始めると少しずつ本来あがるべき成果があがらない状況が露呈してきます。一人ひとりの力がいかされない、シナジーが生まれない、組織力が生まれないという事態が起こり、組織構成員である医療従事者で影響を受ける者は、仕事に不満や不安をもち組織へのロイヤルティーを失います。

 こうなると、自己目標や目的を基礎として彼らが行動するようになり、まさに良心をもって自分が行動することのみが職場における規範となります。自分は良心に従い行動する、組織は組織、自分は自分として行動すればよいという思いのなかで自分を組織につなぎとめておくことになります。

 ただ、それをも阻害する勢力があれば、どうしても組織にとどまることができず、組織を離脱する決意をしなければならなくなります。組織の進む方向がわからない、上司に尊敬すべき者がいない、リーダーシップが発揮されない、自分の役割が不明瞭(組織で求めらえていないと感じる)、目標が不鮮明、仲間が理不尽、部下が懈怠、仕事ができない、結局自分がすべてをやらされている(と思う=場合によっては思い込む)などが心理的帰結となります。

 組織が一定のリーダーシップを持った者により生み出された戦略ストーリーをもって、多くの構成員に影響を与え、フレームワークのなかで個人の力を最大限発揮させることができない組織は、組織としての成果をあげることができず、衰退する。これが今の多くのうまくいっていない医療機関の現状です。

 護送船団方式より生き延びてきた医療は、ここにきて実力を試されることになりました。科学的経営を行うことで組織力を発揮できる組織とそうではない組織。大きく優劣がつくことになるでしょう。医師や看護師、コメディカルや事務方の機能を明確に、そして到達点を明らかにしたなかで個人の成長を企図する仕組みや活動。ガバナンス体制のなかでこれらのシステムが機能するかどうかがポイントです。

 いまこそ医療従事者のための医療マネジメントが必要な時代となりました。方向を示す、道具を提供する、活動する、成果をモニタリングする、行動修正を行う、といったながれが自動的につくりだされるとともに、成果を構成員全体で共有できるマネジメントが渇望されています。

 再度、医師、看護師、コメディカル、事務がどうあればよいのか、どうすればそうなるのか、どのように琴線に触れる対応ができるのか、何を支援するのかといったことができなければなりません。医療は知的労働集約産業。一人ひとりの職員の力により成果が大きく影響を受ける。彼ら一人ひとりを大切に、役割を果たしてもらうことでしか、結果を出せないことを理解する必要があります。

 私たちホワイトボックスは、ほぼ毎月新しい病院のクライアントを得て活動を行っていますが、多くの医療機関においても、上記に気付き自助的活動が喚起されることを心から望んでいます。一年を振り帰るにあたり、私の思いをここに提示しました。