以下はある病院で、説明した管理会計についての資料です。
1.はじめに
現在、部門別損益計算については、課題はあるものの、全体の体系についてご説明し資料の収集を継続してご依頼しています。配賦基準についての考え方についても弊社担当者からお伝えしており、作業を行っていただいています。
貴院は既に各病院別損益管理を実施されていますが、当院においては、現状の会計体系のなかで部門別に落とし込みをすることになります。但し、他院や他施設は部署別に損益計算をしていないなか、会計的に当院のみそうした処理をシステム的に行うことができるかどうかについて検討をしていただいています。
2.目的の再確認
部門別に損益が計算されれば、最終的には外来患者や入院患者一人当たりの医業収益や医業原価、そして医業利益が把握できることになります。ただ、部門別損益を計算するのは、何かの改善を行うという目的が別途あります。損が出ているとか出ていないということだけではなく、
(1)損がでている原因はどこにあり、それはどうすれば、改善されるのか
(2)利益がでている原因はどこにあり、それはどうすれば、より伸ばしていけるのか、他にも応用できるのか
といったことを把握しなければなりません。そうであれば、もちろん損がでていなくても、より利益を生み出すことができるかどうかの検証をも含め、でてきた部門損益をさらに分析を行い、
・医業収益=患者数×単価+加算等
・医業費用=費目別及びDPC上の妥当性
といったことに焦点を絞り内容分析を行っていくことになります。
結果として、
(医業収益)
①何科の患者数をどれだけ増加させるのか
②入院経路は適切か(外来、入院紹介、時間外、救急車等)
③どのような検査をどれだけ増加させるのか
④どれだけ入院を増加させられるのか
⑤どれだけ手術をすればよいのか
⑥点数の高い手術をしているか
⑦手術室の稼働は適切か
⑧単価を維持したままマックスまでの病棟稼働率は適切か
⑨何日入院させればよいのか(平均在院日数は妥当か)
⑩前後連携は最適化されているか
⑪グループ外医療機関との前後連携は進捗しているか
⑫転棟は最適日に行われているか
⑬加算を取る体制が順守されているか
⑭査定減される業務を行っていないか
(医業費用)
①人員配置は妥当かどうか(同人数での経験やスキルが異なるスタッフをどう配置するか)
②一人当たりのスキルは適切か
③一人当たりの成果は適切か
④一人ひとりの評価及び報酬は妥当か
⑤リーダーはリーダーシップを発揮しているか
⑥定着率は適切か
⑦無駄な時間を費やしていないか(含む:タイムマネジメントができているか)
⑧科別時間外は妥当か
⑨仕入金額は妥当か
⑩在庫量や在庫金額は妥当か
⑪受け払い管理は妥当か
⑫無駄な消費・使用はないか
⑬DPCに合致した行動をとっているか
⑭レベル2以上の事故を起こしていないか
が必要になり、これらを部門別損益から発見し、解決することが、目的の重要な一つとなります。
3.具体的落とし込み
さらに上記を達成するために、あらゆるテーマをクリヤーしていかなければなりません。
例えば、どのような検査を増加させるのか、といったテーマについてCTやMRIをターゲットするにあたっては、
①機器稼働率把握(1日に何回撮れるか[できるか]が分母)○
②科別オーダー管理○
③疾患別オーダー管理○
④現状患者構造において未達のオーダー発見○
⑤稼働率向上(対外来、対入院、対施設、対施設共同利用等)のための施策検討○
⑥スタッフ体制整備
⑦スタッフスキルの向上(ローテーションの実施)
⑧職務分掌の見直し
といったことをチェックしなければなりません。少なくとも○の付された⑤までは定量化でき、管理 することになります。
大指標→中指標→小指標(行動)といったながれをつくりあげる必要があります。もちろん、犠牲 と効果という考え方があり、あまりにも得られる成果より労力をかけることが明確なときには、その 作業は行わないということが理解され、あるいは前提となっています。
また、時間外が多い部署については、
①医業収益との比較
②高齢者比率
③術後患者比率
④新人比率
⑤スキル評価
⑥産休、有給率
といったデータを収集し、時間外を削減させていきます。
さらに、薬剤、消耗品が多い部署についても同様に、
①医業収益との比較
②廃棄伝票整理
③棚卸差損益データ
④使用期限切れデータ
⑤医療事故データ
といったものをチェックし、部門別と併せてチェックをしていきます。なお、前提として帳簿による 受け払い管理が行われていたり、棚卸が適切に行われていることが必要になります。
4.具体的なかたち
上記からご理解いただけるように、部門別損益を実施するためには、指標管理を正しく行う必要があ ります。
①必要指標の経時的把握
②問題点の検討
③課題発見
④仮説立案
⑤行動計画立案
⑥解決行動
⑦業績把握
⑧仮説が正しかったかどうかの検証
⑨継続か中止かの決定
といったながれをつくりあげていく必要があります。
5.まとめ
局のところ、指標を今まで以上に詳細に把握し、全体を毎月発表し、4に記載されている活動を行います。そのことにより、単なる損益ということだけではなく、どうしたらそれを改善できるのかといったことろまで組織に示唆を与えていくレベルで管理することが必要です。
指標を詳細に出すこと、それらを整理しレポートを作成するプロセスのご承認をいただくことが重要です。なお、「解決行動」により、具体的に組織が動かなければ、成果をあげることができません。その部分において、組織全体が活動していくことが求められます。