よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

誰からも信頼される病院になるための一つ条件

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 病院で仕事をしていると、次々にクレームに出くわします。もっともな話とそうではないものとがあります。前者は振り返れば、時間がかかる、仕組みができていない、スキルが低い、説明がうまくできていない、心遣いが足りなかったなど思い当たる節があります。これらについてなぜそうなったかについてしっかりと反芻し、そうならないように対処しておくことが必要です。

 それができなければクレームがあるかないかは、患者さんやご家族の感じ方、ということになってしまいます。絶対的な質を提供していれば、間違いなくクレームは減る。最終的には健在したクレームではなく潜在クレームについてまでしっかりと見定めてクレーム解消を行う必要があります。

 潜在クレームはいわゆるインシデントであり、患者さんには実施していないけれども、そこに問題があった、といったものに該当します。したがって患者さんやご家族がクレームとしなかっただけで実際には問題であったものも含んでいます。

 また、後者。「そうではないもの」=理不尽なもの=当院に帰責がないもの、といったものへの対応についても十分に考慮したうえで、仕組みをつくらなければなりません。

 理不尽なもの=当院に帰責がないクレームであったとしても、なぜ、その患者さんやご家族がそのように主張しているのかについて深く知ることが必要です。そもそも患者さんは苦しんでいる人間であるということを理解しなければなりません。ご家族もその状況をみつつ、苦しんでいる。そうした前提を俯瞰し、同じ気持ちに近い認識をもてるかどうかが肝になります。

 もちろん、患者さんの過去や生きてきた歴史、そしてご家族との関係を知悉しているわけではありませんから、すべてを理解するのは困難でしょう。しかし、できるだけ、慈しみをもってその気持ちや背景を理解する必要があります。

 心からの対応を行うことで、例え、クレームが明らかに理不尽であったとしても、患者さんがそれを認識し、反省し、行動を変えることもあるかもしれませんし、患者さんがそう思い込んでいることについても、問題解決に向けた対応ができるようになることは間違いがありません。

 例えば、受付の順番が遅いにも関わらず、もっと早くしろ、次は俺を診ろという患者さんがいたり、実際にあった話ですが、病院の待ち時間がながいとみるやいなや外にでて救急車を呼んで救急外来で診察を受けようとしていた患者さんなどについても対応が可能です。

 彼らの気持ちをよく理解し、しかし病院には規律や規則、社会にもルールがあることをじっくりと説明し、理解してもらうことができます。

 明らかに100%こちらら正しいと考えても、そうした気持ちにさせてしまった何かが病院にあるということを反芻し、どこに問題があるのか、どうすれば日常からそうした患者さんに、制約のなかでの治療を受けていただくことができるのかについて、仕組みや個人の温かさをもって伝えていくことができるのかを考えることも必要です。

 大切なことではありますが、メディエータ―を配置することや、処理ルールをつくるだけですべてクレームに対応したかのような気持ちになることは、本来の姿とはいえまません。病院リーダーの心からの人格形成と、職員を思う気持ちが、職員の患者さんに対する意識を高めていくために有用なこともあります。

 完全を達成することはできないまでも、常に何かを進化させつつ、新しい何かをつくりあげ、医療という崇高な仕事を選択した医師や職員に対して、この仕事を選択してよかった、当院で勤務していてよかったという思いをもってもらえるような病院をつくりあげていく。

 そのための具体的な話し合いの場や、検討の場をしっかりと持ち、どのような改革をしていけばよいのかを皆が意識できる、あるいは共有できる環境を整備しなければなりません。

 太陽のように暖かく、生活に欠くことのできない、万物に慈しみを与える存在になることが地域医療における病院の在り方だと認識できる、そんな職員がたくさん働いている病院が信頼を得られないはずがありません。

 いつくものクレームに出会うたび、そんな病院づくりをお手伝いできればいいと思います。