よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

クレームをどのように抑止するのか

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 病院に頻回に訪問していると、沢山のクレームに触れることになります。クレームはなぜ生まれるのか。

 ここでいうクレームは、あくまでも投書箱レベルのクレームであり、実際に現場で発生しているものが網羅的に収集されているわけではありません。

 したがって病院で発生しているクレームのほんの一部であり、口頭でのクレームや、いわんや潜在的クレームすなわち表出しないけれども、患者さんやご家族がとても嫌な気持ちになった状況を表現しているのではありません。病院への訴求力をクレームの大きさが凌駕する場合には、彼らは病院を捨てることになると考えられます。

 そもそも何も言わずに病院に二度と来ない。それだけではなく地域で起こった事象を家族や友人に話すことで池に投げ入れた石が作り出す波紋のように当該病院の評判を打ち消すような話が伝わっていきます。直接の患者さんやご家族だけではなく、多くの見ず知らずの人までが当該病院へのマイナスの評判を聞き、病院へのイメージをつくりだしてしまいます。

 したがって表出した紙媒体やネットを通じて収集したクレームにはもちろん対処するとともに、口頭でのクレームに対しても徹底して対処するということ、そして次のステップとして潜在クレームを発生させない体制整備が行われる必要があります。

(1)紙媒体やネットクレーム
 投書をした方々への返事を書いて免責されると勘違いしている本部のスタッフがとても多く存在します。その発生事象を根本から解決するための対策をとらず、口先だけで気を付けるようにします、あるいは指導を徹底しますといったことでの対応がとても多くあります。

 しかし、まだ病院を見捨てていないグループに属する方々は自分の投書がどのように取り扱われているかについてとても興味をもっていますから、掲示板において、まず迅速に回答するということは必須です。

 ただし、外来の看護師さんの対応や、システム自体がいつまでも変化しなければ、結局は何も変わっていないと判断し二度と病院を訪れることはなくなります。

(2)口頭クレーム
 どのようなクレームについても、その場で対処、報告の徹底を行う必要があります。ある電話セールスで融資を行っていた上場会社は受けたクレームを3分以内に本社に連絡し、対処するというルールがありました。あまりにも反社会的事業であったので、倒産しましたが、その仕組みが実際に動いているのをみて、よく訓練されていると感心したことがあります。

 病院においては、意外と口頭でのクレームが集約されず、また整理や対策がとられないでその場で終了しているものが多くあります。口頭クレームの収集率が高ければ、そして当該クレームに対する対応が迅速に行われるのであれば、多くの患者さんやご家族、地域住民を失わないで済みます。

(3)潜在クレーム
 表情が曇った、無言になった、睨まれた、悲しそうな顔をした、つらそうな態度を示した、職員の側でまずいと思ったなどなど、センシティブにみればちょっとしたことに気付くはずです。その前提に問題があると判断した場合には、潜在クレームとしてこれを収集する必要があります。もちろん、クレームになりそうなスタッフの言動に気が付けば、のちに部下であれば直接、上司であれば必要な部署を通じて、医師であれば、医師のトップを通じ、当該事項を報告する必要があります。

 いわばインシデント的な、あるいはアクシデントレベル1的なものになると思います。レベル2や3、3a(事故により簡単な処置や治療の必要性が生じた場合)や3b(事故により濃厚な処置や治療の必要性が生じた場合)になるとこれは健在化していますので、それ未満のものだと思います。ただ、実際には3以上にも関わらず患者さんやご家族がそれを表に出さないというものもありますから、幅広くこれらを拾うことも必要だと考えます。

 これらは、実は個人の問題に帰着させてはなりません。個人の対応が悪かったことには3つの理由があります。一つは個人のスキル、精神状態、そしてそれらを誘導する仕事の仕組みです。
 
 結局のところ、月並みですが、忙しいときには視野が狭くなり本人にそのつもりはなくても患者さんやご家族にしっかりと向き合えないことがあります。スキルが高く、時間をうまく使えるスタッフであれば、仕組みが悪くてもそれを補完する動きをする、クレームが発生しないように気遣いする、あるいはクレームが発生する寸前で未然に防ぐといったことができます。

 しかし、スキルが低いと、もろに外部にそれがでる。したがってまず本来の仕事に対する教育を徹底的に行うことが必要です。接遇の仕方ではありません。仕事そのものに高いスキルをもつことがまずもっとも必要な事項であるということができます。

 次に精神状態です。精神状態が悪ければ、やはり思う存分力を発揮できないことがあります。もちろん個人的な事情もあるでしょうが、たとえば組織の運営がうまくいっていない、上司との関係がうまくできていない、病院に大きく問題があるといったことも精神的に影響し、モチベーションを引き下げる効果があります。

 したがって、常に明るく、組織マネジメントが行われ、組織全体が活気のある状況にしておく必要があります。一人ひとりが高い活度をもって、対処できていれば、間違いなくこの部分を排除することができます。やはり組織運営全体のフレームワークをしっかりとつくりあげることや、中間管理者教育を行うこと、ヒューマンリソースマネジメントを徹底することが必要となります。

 3つめの仕事の仕組みについては、上記に説明したものも含みますが、もっといえば、効率的で生産性の高い仕組みをつくりあげる必要があります。業務改善やIT化を通じてできるだけ間違いのない、そして無駄のない業務フローをつくりあげなければなりません。とりわけ職務基準は重要です。課業分析を実施したうえで、業務フローの見直しや配置の是正を行い、そのうえで、できるだけ成果が上がりやすいかたちをつくりあげることになります。

 なお、業務改革のためのツールであるマニュアルやパス、リスクマネジメント(褥瘡対策、NST対応、感染症対策をも含む)、看護プロセス、さらには部署間コンフリクト等がしっかりと管理されている必要があります。これらを蔑にすることで、さまざまな問題が発生し、クレームにつながることになります。

 待ち時間の問題、接し方の問題、医師がじっくりと患者さんやご家族にムンテラできない問題、看護師が正しい処理を迅速にできない問題、コメディカルが本来の業務をできないことなど、ルールが未確定で、その場で判断しなければならなかったためにクレームに広がった問題が数多くあります。

 これらを常に見直し、日常的に業務改善やタイムマネジメントが正しく実施される組織であれば、仕事の仕組みに起因するクレームを排除することが容易です(捕捉的にいえば、ルールが未確定でもスキルの高い者がいると、その場で柔軟に課題をクリヤーすることができることはいうまでもありません。しかし、彼らに依存することが常態である病院は、彼らの退職とともに質を落とすことになりますので留意が必要です)。
 
 というように、クレームが発生するということは、個人の態度だけではないということについて十分に理解していくことが必要です。総合的な病院マネジメントが行われる必要があります。
 当たり前のことではありますが、クオリティの高いマネジメントを行っている組織には当然クレームはなく、逆に高い評価を連続的に糧とするスパイラル的な成長があることを忘れてはなりません。

 夏の日差しのなかで、少しまぶしいけれど、その下にいると、とても優しい気持ちになるし心地よい。そんな信頼できる木々のようなスタッフが、沢山育つような病院マネジメントが行われなければなりません。