よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

原価計算における減価償却費の考え方

 部門別損益計算において、減価償却費を期末に計上する病院があれば、部門別損益計算を正しく行うことはできません。毎月有形固定資産を事業の用に供したうえで、病院を運営しているからです。したがって、減価償却費は月次で発生するとした考え方に沿った会計処理を行う必要があります。

 月割り経費として処理します。
 そもそも月割り経費には、固定資産税やある種の保険料といったものが該当します。年間を通じて役務の提供を受ける、あるいは効用を得るといったコストについて、期央で支払が複数回に亘って発生する経費は毎月に均(なら)したうえで計上することが毎月の損益、かつ結果として各部門損益を見誤らない方法です。

 患者別疾病別原価計算についてはどうか。患者さん一人当たりの損益を計算するにあたり、原価を算定するうえでは直接費とともに間接費を計上する必要があります。直接費は患者さんに直接発生したコスト、処置や注射、投薬、撮影、手術、病棟での労務費、経費といったものが該当しますが、間接的なコストには間接材料費、間接労務費、治療間接費が患者さん1日当たりいくらといったかたちで配賦されることになります。ここで減価償却費が影響をします。

 新しい病院は減価償却費が高く、利益が圧迫されます。また古い病院は患者さん一人あたりの減価償却費が小さく、利益が出やすい傾向にあります。しかし、新しい建物だから設備だからこそ患者さんが来院する、入院するということがありますので、患者数が増加することによる一人当たり減価償却費が小さくなるということになり、影響が軽減されるということにもなります。

 また、DPC病院であれば、当然一定の期間で在院日数が短縮されることにより一人当たり収益は当然に増加しますから、結果として利益が増加するといった結果を得ることができます(非DPCの他の業態でも短期間での加算を考慮すれば、短期間で患者さんが入退院することで利益が増加するのは当然のことです)。
 しかし、減価償却費が患者別原価を引き上げていることはどこかで理解したうえで、だからこそ増患する、在院日数を短縮するといったことについての認識を持つ必要があります。

 そして、定額法か定率法かということも大切です。定率法であれば、毎月の償却費はどんどん低減することになります。すなわち初めは多くの償却を得て、早期に資金を回収しようという意図がありますので、前期と当期の患者別疾病別原価を比較しようとすると、今期のほうが同じ治療をしていても、利益が出るということになります。

 したがって比較可能性において悪影響があります。他の要因分析において問題点が掌握しずらくなるということがあるのです。したがって、定額法であることが望ましく、そうでない場合には、管理会計的には定額法で計算したとして利益を見るという処理をしたほうが他の要素の変化が見えやすくなるということがあります。

 その場合、財務会計との間でギャップがありますので、もし試算表に合わせるのであれば、調整勘定を使って全患者に最終的にギャップを配賦するといったことになると考えます。この方法でいえば、点数は変わらないのに、同じ疾病で昨年は赤で今年は黑がでたといったことのないよう、あくまで行動の結果が数値に反映し原因が認識しやすいようにしていく必要があります。

 少しマニアックになりましたし、なかなか現状では理解していただけないかもしれませんが、必ずあと5年たてば、患者別疾病別原価計算が当たり前にどのDPC病院でもできるようになり、このことが理解していただけると考えています。

 これらは部門別損益計算でも同様に言えることは間違いがありません。比較可能性を考えるのであれば、定率法の減価償却費を定額法に変更するか、管理会計上仮定をおいてあたかも低額法であったかのような方法をとることが必要だと考えています。
 
 なお、私たちが患者別疾病別原価計算を行っている(た)複数の病院は、高価な電子カルテとともに患者別疾病別原価計算を当たり前のようにマネジメントに活用していますが、エクセルベースでもロジックさえ理解すれば、ある程度のルーチンで作業ができるようになります。

 多くのDPC病院が患者別疾病別原価計算を行うことで、本当の意味での医療の質の向上と、業務改善につながる行動をとっていければよいと思います。