よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

クリティカルパスの使命を再度確認しよう

f:id:itomoji2002:20220112210729j:plain

医療における業務改革のツール、クリティカルパスについて説明します。一般企業でも仕事の標準化により工程管理を行なう事例は多数見受けられます。なのでパスの考え方を理解することには意味があります。

1980年代に米国の看護師カレンザンダーによって、工場の工程管理からヒントを得てコスト削減を意識しながら開発されたといわれるクリティカルパス(重要な経路)は治療の工程表です。もっとリアルに言えば医師の指示書、少なくとも入院診療計画書、業態によれば地域連携情報提供書として医療の標準化やチーム医療のためのツールの役割を果たします。

しかし、パスは究極的には業務改革の機能をもつツールです。

先ずカルテやレセプト(医療機関が健康保険組合に提出する月ごとの診療報酬明細書)から現状の診療内容がどのようになっているのかを、日々及びカテゴリー別に整理し可視化するという手続きを経て作成します。これを一次パスといいます。この段階で他のパスを見たり、ガイドラインや論文をたどり、自院の治療が適切か根拠に基づく医療(EBM= evidence-based medicine)かどうかを再度検証する医師もいます。

 

そして次に、診療報酬の仕組み上在院日数を決められた期間に合わせるために(包括医療費支払い制度では入院期間を三期間に区分し長く入院すれば報酬が下がる方式を採用しています)は何を変えれば良いのかを検討しパスを改訂します。これが二次パスになります。

パスは、日常の検査や入院に使われますが、定めた日数で退院できない場合には、標準からの逸脱として、バリアンスが測定されます。正と負のバリアンスが4つの原因により分析され、業務の改善が行われます。因みに正は、期日より早く退院したこと、負は期日に退院出来なかったことを示しています。

バリアンスの原因は、システム要因、医療従事者要因、患者要因、社会的要因です。これらは更に分析され、詳細な改善に役立つよう活用されます。

 

なお、アウトカム(指標:診療後の患者の状態など医療の結果・成果を表す指標)のバリアンスの管理も必要になります。そもそも、毎日のアウトカムが書かれていないパスが散見されますが、ナンセンスです。

アウトカム自体が定量、定性的に管理されることでなぜ成果が出なかったのかといった振り返りがあり次の改善に繋がります。なお、熱発などによるパス外の対応を行った場合の変動もその経緯や経過を知るためにアウトカムのバリアンスに含めるほうがよいと考えます。


そして、DPC制度においては在院日数短縮が継続し、2025年に基本的に9日を切ることが想定されているなか業務改善を通じた積極的な在院日数短縮のための三次パスが作成されます。


高齢者が激増していくなかで、医療の質に起因する早期退院阻害要因への対応だけではなく、増患体制、稼働率管理、医師と看護師の連携、退院支援、地域連携など総体として医療の質を担保するマネジメント全体の工程管理ができるよう、業務改善を行いつづけていく必要があります。


パスにまつわる事項は奥深く、ここですべてを語り尽くせるものではありませんが、高齢化が進み医療従事者の負担が増加するなか合理的で質の高い医療を行わなければならない、ということを受容すれば、自ずといま何をしなければならないかが解ると考えています。