よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

米国医療の轍を踏まないように

 昨日から読み直している本は、全国保険医団体連合会近畿ブロックアメリカ医療視察団によって、書かれた「苦悩する市場原理のアメリカ医療」(あけび書房)です。
 
 医療費削減のために導入されたマネジメドケア、MHOにより、医療が十分に受けられない人が多くなっている。市場原理を導入したことにより、営利の保険会社が利潤を得て医療費を高くしている割に現場では医療を受けられない人が多数生まれ、また医療従事者も思う医療ができず、医療機関が淘汰されているという現状が書かれています。
 
 日本とは文化や国民の構成、経済の基盤自体がまったく異なる米国をみて、日本の医療の生末をそのまま予想することはできませんが、ここに書かれている現状をみると、いまさらながらに背筋が寒くなる思いがあります。この本が書かれたのは2001年ですが、以下の下りをみると、これからの日本が迎えようとしている医療環境を垣間見ることができます。
 
「今では…どの病気も平均在院日数は4日強だという。それだけではない、平均在院日数が短いということは、患者が重症のまま退院することである。地域に戻った患者は、地域の看護師、在宅の看護師にゆだねられる。病院のなかで1人あたり、これまでの倍の患者を看護しているように、地域の看護師もかっての倍の患者のケアをしなければならない状況が起きている。ところが、いまの地域に戻っていく患者は、たとえばかってはICUでしか扱わなかったような経静脈的治療を受けている患者なのである。その管理もすべて地域の看護師に任されている。(中略)
 
 ジェネリック医薬品を使うのか、処方集から選ぶのか、いちいち保険会社にお伺いをたてなくってはいけない。手術をする場合にも「手術をしてもいいですか?」と保険会社にお伺いをたてなくてはならない。入院もどの病院に入院させればいいかを聴かなければならない。あまりにも非人道的だとはずされた救急と分娩を除いて、専門医の紹介も保険会社の意向をきかなくてはできないという状況になっている」「この9年間ですっかり変わってしまいました。寄る、自分の勤務が終わって帰るときに、今日もまた自分がやらなければならないことができなかった、というがっかりした思いで職場を出ることが多い。自分の目の前で患者が亡くなっていく。何かしなければいけないのに、もう手いっぱいで何もできない。私はもう看護師を止めて他の職業に就こうかとおもっています」
 
 「いま、アメリカの医療で問題なのは、現場で適切な意思決定ができないことである。ベッドサイドで看護師が意思決定できない。意思も意思決定できない。すべて決めているのは保険会社である。ドクターが患者を診て、検査をしなければならないと考えても、ドクターの一存で検査ができない、治療にもすぐに入れない。患者が体の調子が悪いと、医師のところに3回通っても、保険会社からはまだ検査のOKがでない。体調の悪い患者は最終的にはERに駆け込む以外に方法はないが、そのときには患者はほとんど死にかけている。これは高齢者だけに起きていることではなく、30歳であっても25歳であっても起きていることだ」
 
 もともとは、医療費削減のために導入した制度が、いまでは米国の医療制度を破壊し、そして国民の医療を受ける機会を奪っています。強い者だけが残る、という独特の文化も手伝い、我々ではとても考えられないところに米国の医療が来ていることが分かります。上記は結果であって、さまざまな背景があり、その解決はとても困難な状況だと思います。
 
 ひるがえって日本です。現状において、我々はいかにすばらしい医療環境にいるのか、と再度思います。本当に国民皆保険制度に感謝です。
 しかし、日本の財政の現状をみると、いまのままの社会保障が継続できる保証はどこにもありません。年金問題もあり、超高齢化社会を迎える日本が、どのように医療や介護の問題をクリヤーしていくのかというと、解が見いだせない状況にあることは間違いがありません。

少なくとも1000兆円を超えた政府債務は、際限なく増え続け、いつかは戦後に行ったように債務不履行をしなければならないといわれています。
 ちなみに25年の一般会計予算は、歳入43兆円に対し、歳出92.6兆円であり、差額は公債、いわゆる政府の借金により賄われることになっています。社会保障29.1兆円をこれ以上増やせない原因がここにあります。 企業からとろう、富裕層からとろうといっても限界があります。

地方交付金16.4兆円を払う段階で既に、借金をしなければなりません。教育、防衛、公共事業等々他の国を運営するための歳出を借金で賄わなければならない国。
 そして世界のすべての国を抑え、唯一GDP比で240%の借金すなわち、毎年歳出を0としてすべての歳入を返済したとしても二十数年かかる、返済不能な借金を抱えています。
国債は主に、金融機関が購入していますから、結局は1500兆円ある国民の金融資産が引当になっています。
 
 いざとなれば、過去に日本がやったように預金を引き当てに(今では預金保健制度がありますので一定以上の預金は保証しません、という方法で)、国の借金を帳消しにすることが懸念されているのです。

もしそうなれば医療、介護はどうなるのか、考えても恐ろしい。
 少し、先走った話になりましたが、今の比類ない優れた医療制度をどう守るのか、国民も真剣に考え、行動していくことが望まれます。