よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

組織一丸となって

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病院の経営は、マネジメントサイドが行う、という思考ではなく、前提として一人ひとりの医師の思いとのすり合わせ、あるいは議論が必要だと思います。従来からマネジメントサイドが病院の戦略を決め、枠組みを設定し、そのなかで医療を推進するという手法が正しいと考えられていました。
 
医師の思いなしに決まった枠組みのなかで日々の診療活動を行うということでは、彼らは力を発揮できません。いくつかの病院で、医師と面談をしていると、
  • 医師がやりたい医療を説明する機会がないこと、また
  • 医師がやりたい医療を行いたいと思っても、受け入れてもらうことができない
という事案によく出会います。
 
ある外科の非常勤医師は、痔ろうの権威をもつ先生のスタディグループで技術を学んでいましたが、それを週3日来院する病院では表に出す機会もなく、悶々としていたという事例や、本来やりたくない認知症医療を無理やりやってた精神医などの事例、さらには、どのような医療をしたいのかのヒヤリングもなく、野放し状態になっているなかで、外科をまとめている外科部長などがその事例です。
 
ガバナンスがないだけではなく、コミュニケーションや、一人ひとりの意欲を喚起しようというトップマネジメントがいない病院では余計にこうした問題が浮き彫りになります。
 
各診療科からヒヤリングを行い、各医師の思いを掌握。そのうえで病院が行うべきスクリプトと合せて診療内容を明確にする、といったながれが必要になります。
 
医師の思いや胸襟を開いた議論から生まれる方向性を戦略として、病院運営との整合性を図りつつ戦略を打ち出すといったプロセスをとっている病院がどれだけあるのか心配です。
 
もちろん、ボトムアップ、というかミドルアップというか、医師の意思が明確であり、各診療科別に自然に前に進む環境があり、その集合体として帰納法的によい結果が生まれているケースもありますが、それにしても、こうした医療をこの病院は行う必要があるという方向を示すことが大切です。
 
そのうえで、現場の意見を聴取し、あるいは医師一人ひとりの思いを斟酌したうえで、病院としての戦略が決定されることのほうが、より病院一体となって事を進められると理解しています。
 
ただ、医師がマネジメントに参画したくない、「やりたいように医療をやらせてくれ」という思いがあり、それをすべて受け入れて医療を進めるやり方は、組織全体の動きとの整合性がとりづらく、その医師が組織で医療を行うことのメリットを受けられない可能性もでてきます。
 
やはり明確なベクトルを示し、相互に納得したうえで、病院サイドとしては、医師の思いを理解し、医師のやりたいことは本来病院として行うべき戦略の一部であるという位置づけを行い、(意外と大変ですが)医師間の調整を行なった上で、達成支援を行いつつ成果を誘導していくというながれをつくる努力が必要です。
 
単に話をすればよいというレベルのコミュニケーションではなく、組織運営ルールに則り、粛々と手順を踏み、一つひとつそれらをクリヤーしながら成果を得ていくことが適当です。
 
マネジメントの考え方や手法を理解したトップマネジメント、そして彼らを支援する企画スタッフが必要な所以です。
 
いずれにしても厳しい環境を乗り越えるためには、組織一丸となるという発想を欠かせません。
 
そのために病院の方針と医師の思いを軸としたマネジメントが行われ、各部署がチームとして協力し合いながら、成果をあげていく仕組みが組織内につくりあげられなければなりません。
 
なお、先ほどの例でいえば、痔ろうの得意な先生の希望は、我々の橋渡しで、しっかりと理事長、院長に伝わる機会をつくり、肛門科が生まれましたし、外科部長とは単孔の腹腔鏡の手術件数を伸ばすための活動が行われました。
 
さらに、精神科の先生に対しては医局会の決定により、認知症病棟が別途設置され、専門医が配置されることで、やりたかった統合失調症の患者や欝の患者を十分に診れる体制をつくることができました。
 
継続して経営会議と医局会の相互協力により、マーケットに合致した、そして個々の意思や診療科の思いを達成することのできる戦略が常に立案され、その実行計画が診療会議に落とし込まれ、各部署に伝達、実行支援が行える体制ができ機能しています。
 
組織の活度が増し、それぞれが役割をもって、個々の成長を感じられながら組織が動き成果をあげる状況が生まれたのです。仕事冥利に尽きる場面です。 
 
医療以外でも同様の取組みが必要です。
 
企業の進む方向と幹部や社員一人ひとりの思いを擦り合わせつつ、コミットメント(約束)を取り付け、彼らが達成感を得られるよう支援しつつ成果を挙げる手法の導入が有効だと考えています。