よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

診療報酬改定に思うこと

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診療報酬改定は、政府の政策をそのまま反映します。

 

財政が逼迫し、原資を少ない税収と公債に依存して国を運営している日本は、公債をこれ以上増加させないためにも、増加し続けている社会保障費を一定に抑えるための施策が必要です。

 

社会保障費の多くは年金、医療、介護ですが、年金をどう維持するのか、医療費のうちの公費をどのように増やさないのか、そして介護給付をどうすればこれ以上増やさないのかということがこれからの日本を安定した国家としていくための必須条件になっているのです。それが診療報酬改定に現れています。

 

2035年に高齢者の増加が止まり、高齢者すら減少してくる時代まで医療費の総需要点数は減りません。このときまであと20年あります。2025年の社会保障と税の一体改革といったターゲットがまずありますが、それまでにはさらに厳しい改革を行わなければ日本が持たないという背景があります。

 

そもそも現在158万床を切った病床のうち、実際に日々利用されている病床は128万床しかありません。看護師が不足するために病棟閉鎖をしている病院もありますが、開けている病床の稼働率がすこぶる悪い病院もあります。この傾向は継続しており、人口減少合せて患者が減少していることや在院日数が短くなっていることが影響しています。

 

さらに在宅医療が盛んになればなるほど、また高齢者を病院に入院させない在宅を懸命に行う優れた在宅医がいるほど、そして急性増悪した高齢者を急性期でとれない制度にすればするほど患者は減り、介護期医療への誘導が着実に行われるようになります。

 

一方で在医総管の点数激減です。私が役員をやる介護事業会社の本部に、都心でもつ住宅の訪問診療を4月から止めたいと連携している在宅医から電話があったそうです。その医師は、都心の一戸建てを顧客に多くもっており、集合住宅=同一建物にての在宅の切り捨てをしながら戸建て住宅に集中する戦略です。

 

診療報酬改定で、国交省厚労省共催で、補助金を出し10年間で60万戸つくるといった鳴物入りのモデルはこのままでは撃沈せざるを得ない状況になっています。

 

今まで、サ高住は介護事業者が介護を行うための住宅、さらに在宅療養支援診療所が在宅医療の基地としたり、在宅療養支援病院が退院支援先とするなかで介護期医療の基地として有望視されていたので、残念です。訪問看護等訪問系はみな同一建物の縛りがあり、結果としてサ高住での事業は不採算となっていることは明らかです。

 

今後は、在宅復帰先として病院が保有するものの、在宅医療は地域の診療所に任せ、診療所は、できるだけ点数のとれるかたちでサ高住を活用しようと考えてくるとは思いますが運用が難しいのではないかと考えています。

 

いずれにしても地域包括ケアシステムの一部であったサ高住は、介護事業を軸としつつ

なんとか医療側も工夫しながら地域医療を護るという方向で運用されますが、従来のような勢いはなくなってきます。それはとりもなおさず、在宅医療をやりづらくし、患者さんの為にならない状況を生み出すのではないかと懸念します。

 

そして間近な介護報酬改定です。元地方厚労局長とお話をしたときに、みな診療報酬に右往左往しているが実際厳しいのはその先だ。日本がどうなるのかを考えて先をみなければ医療も介護も生き残れないとして、医療保険と介護保険の一体化も議論されはじめていると話をしていました。

 

実際に介護保険の報酬改定で大きく何かが変われば、そのときは本当に実力のある、医療と介護しか残れない時代の幕開けになるのではないかと思います。

 

結局は病院内外に、しっかりしたマネジメントができるリーダーがいること。戦略が明確にあり事業計画通りに毎月を積み重ねるガバナンスがきいた組織であること。職員一人ひとりの力を発揮させることができる仕事の仕組みやルールがあること。何よりも医療介護に誇りをもち、合理的で質の高いサービスを提供することができるシステムが必要となります。

 

いままでと同じことをしていたのでは、絶対に現状を維持できません。繰り返しになりますが、これからの財政、社会保障、高齢者、地域人口動態、競合、グループ化、といったものをキーワードにしっかりとした経営を行っていくことが、必要です。

 

最後に恐ろしい話をひとつ。

「超少子高齢社会の医療ニーズに合わせた医療提供体制の再構築、地域包括ケアシステムの構築については、直ちに完成するものではなく、診療報酬改定以降も、引き続き、2025年に向けて、質の高い医療が提供される診療報酬体系の在り方の検討も含め、医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実等に取り組んでいく必要がある (社会保障審議会医療部会)」

 

次回の改定はさらに厳しい、現状の医療の構造を変えるものになるでしょう。しっかりとこの2年間、将来への準備を怠らない。他に類をみない医療や介護の質を高めるための活動に取り組んでいかなければなりません。