よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

医師と病院マネジメント

 

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私には尊敬する医師が数多くいますが、そのなかの一人と話をしたときに、マネジメントが話題になりました。

 

ある医師は、ながく院長経験をもち、成果をあげようと努力をするプロセスにおいて、自然と病院マネジメントはどうあるべきかを考え行動して、もともとの人間性とも相まって、驚くような改革を成し遂げました。

 

病院事業管理者として新病院建設及び病院改革に成果をあげ、2期目の任命を受けました。今は、別の民間病院の院長になっています。その医師のように、経験をもって自らが学び、病院経営者として、リーダーシップを発揮し、成果をあげている医師がいます。

 

医師は医療全般において間違いなくリーダーとしての存在ですが、病院という大きな組織を運営するためには、多くの人を束ねていくためのマネジメント能力に長けている必要があります。

 

マネジメント能力はその人が持っている経験や感性から得られるものと、知識から得られるものがあります。まずは、経験や感性があり、それが知識により裏付けられるというアプローチと、逆に知識をもって経験や感性を磨くとうアプローチもあります。

 

別の病院の院長が、東京で行われていた院長マネジメント講習に参加したあと、見違えるように発現が変わり、病院があるべき方向に進んだと聞きました。マネジメントの知識、そこからの気付きが大切であることの証左です。

 

院長に近い職位にある何人かの医師からは、病院マネジメントをどこで学習すればよいのかという相談も受けます。医師としてマネジメントを学ぶ機会がないなかで、我々にも、その機会をつくりたいという思いがあります。

 

カリキュラムは以下のようになると思います。

  1. 計画的行動
  2. 財務会計
  3. キャッシュフロー
  4. 管理会計
  5. 金融
  6. 人事管理
  7. 問題解決手法
  8. 組織論
  9. リーダーシップ
  10. 医療制度概要

 これだけを各レクチャー1時間で終了することができます。

 

 計画的行動では、物事はPDCAで回す。そのために何をしたいのかを整理し、現状分析や到達点の決定を行い、ギャップを認識、解決策を検討することを学習します。

 

財務会計については、簿記を行う必要はありませんが、会計の基本的な考え方を理解し、病院経営がどのように財務諸表に反映するのか、そしてそのうえで営業キャッシュ、投資キャッシュ、財務キャッシュフローの考え方、「利益は意見であり現金は事実である」という発想も容易に行えるようになります。

 

また、部門別損益計算や患者別疾病別原価計算、設備投資に関する判断に影響を与えます。特殊原価調査といわれる経営意思決定のための会計を簡単に学習することで、病院の係数的な把握がよりリアルにできるようになります。

 

戦略を明確にした中期経営画立案の背景や手法、ローリングシステム、そして事業計画や経営方針にどのように反映させるのか。また、日頃院内で扱っている指標がどのように財務につながっているのかを理解できれば、病院全体を瞬時に把握することが可能です。

 

 さらに、資金調達についての基本的な考え方やスキームが理解できればスタッフからの提言に対しても自分自身の意見を述べることや議論を行うこともできます。

 

そして人事管理では、採用、配置、教育、評価、処遇、退職というながれを簡単に理解することができ、その前提としての目標管理制度や人事考課制度について、どのような手法があるのかについて理解すれば職員全員をどのようにリードすればよいのかも判ります。

 

現場における問題解決手法にはさまざまなものがあり、その手法を理解することで、院内での問題解決や改革にも指示を出すことができます。まず、何をすべきなのかについてポピュラーなものを学習することになります。

 

組織論については、人はなぜ働くのかについての学問の変遷を理解するだけで、現代どのような考え方が一般的なのかを知ることができます。病院は多職種で運営されており多職種の連携のなかに価値を生み出す必要があります。

 

多岐にわたりますが、問題解決手法を理解したうえで、どのようなモチベーションを職員に提示すればよいのかが実務に役立ちます。

 

なお、在庫量を減らしたいというときの解決方法として在庫の経済発注点分析を学問として学習するのは骨が折れますが、少なくとも、その意味を理解すれば、あっという間に病院の在庫量を低減させることができるかもしれません。SPD(Supply Processing Distribution=院内物流システム)を入れているから大丈夫といった発想ではなく、知識の片鱗を理解しておけば現場に適切な指示を出せるようになります。

 

リーダーシップはどのように行使されるのかについても、その組織の文化や風土に影響を受けます。しかし、「あるべきかたちはこうである」という考え方を知ることにより、自らが病院幹部としてどのようにふるまえばよいのかが認識できれば、望む通りの成果を誘導することができるようになります。

 

もちろん病院統治(ガバナンス)の仕組みについても、同時につくりあげるし、人事管理で認識した教育の多様な活用による人材育成を行うことが不可欠です。リーダーが優れたリーダーシップを発揮するときには、指示通りに成果をあげる職員の存在が与件となります。それが崩れれば、成果をあげることは困難であり、やはり優秀な、達成意欲の高いスタッフを育成し、各部署に配置していなければなりません。

 

診療報酬体系の理解は直ちに行えるものの、医療制度のこれからについて、あるべき想定を行うためには、医療制度改革がどのように進んでいくのか、それに対応するための戦略や組織はどのようなものであるべきなのかといったところに焦点を当てた理解をする必要もあります。

 

この考え方は将来戦略を考えるときにとても重要です。病院戦略の基礎をつくりあげるためにも、常に学習していなければならないポイントです。

 

最後の部分については日常のなかでの情報収集に長けていればそれで済む話ではありますが、それ以外1から9については行動の拠り所となるものであり、どの医療現場でもリーダーであり続けるリーダーはこうした知識をしっかりと習得しておくことが期待されています。

 

ただ、上記分野の知識を得ようとして、とてつもない時間をかけたり、表面的な知識を身に着けても、現場では役に立ちません。医療現場に即した具体的なケースで上記を簡単に学習することが有効です。

 

何れにしても、我々がお会いしている医師は、少しだけ知識をもてばあっという間にそこから敷衍してさまざまな理解や実践を行うことができる人々です。もちろん、病院マネジメントが知識を得れば病院運営がすべて完璧に行われるということではなく、きっかけとして、そうした知識をもつことも有効であるという話をここではしています。

 

ところで、随分前に、ある医師が院内でドラッカーの書籍を毎日読み合いしているところをTVで放映していました。まずはマネジメントへの思いや共通した知識を身に着けて行動しようという試みです。

 

最終的には、幹部幹部、欲をいえば職員すべてがそうしたマネジメントの考え方を基礎として仕事をできるようになることが、厳しい医療環境を乗り越える大きな原動力になるのではないかと考えています。