よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

医療現場の現実

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毎日のように病院を訪問していると多くのことを学べます。

 

病院には現場とマネジメントが明確に存在しています。現場は患者を懸命に治療するケアをする場ですが、別途、現場を支えるマネジメントが院内で多様に行われているのです。

 

現場が働き易い環境をつくるために、戦略を明確にした外来や病棟運営が行われます。施設基準をクリヤーし、医療の質を高めるためのさまざまな活動のために、人が採用されたり委員会が運営されたりします。

 

ルールを明確にすることや、計画通りに治療やケアが進むよう道具が提供され、それぞれがうまく使えるように、評価や教育が行われます。必要な物品があれば予算編成のなかで優先順位を決めて購入されるし、まったなしの物品は即時入手され、現場に提供されます。

 

さらに現場の活動は可視化され、戦略の間違いや現場の課題が明らかになります。月次決算が正確化、迅速化され現場にフィードバックされることで戦略は修正され、現場は行動を変化させながらより患者の視点で活動を行います。

 

もちろん、国民皆保険制度においては診療報酬の仕組みを理解し、そのルールにしたがって行動しなければ収益を得られないため、診療報酬改定にはとても気を遣います。海外では民間の保険を使う病院が多く、許可さえあれば病床数や診療内容も報酬も自由に決める国があることからすれば、日本は厳しい規制のなかで医療が行われていることも事実です。

 

また、患者が負担する診療費についていえば、グローバルでみると差があり、例えばアメリカとインド間や、中東とタイランド間においては医療費の差を利用したメディカルツーリズムがあり、良い医療若しくは安い医療を受ける機会を求めて患者が縦横無尽に移動していることを考えると、社会保障制度における国民皆保険制度がいかに国民にとっていごこちのよいものであるのかが分かります。

 

マネジメントなく医療人の思いだけを以て医療を行っても、医療は成立します。実際に、医療のルールさえ守っていれば、それが不効率であれ、効率的であれ医療は継続されます。組織として利益がでるとかでないとか、人が育成されるとかされない、給料が安いとか高いとか、設備が新しいとか古いとか、無関係に、いまある資源のなかで医療そのものが適切に行なわれれば、医療の成果をあげることができます。

 

しかし、少子高齢化や景気の悪化により社会保障費が増加し、税収が減り歳出が増加すると結局医療を行うことで得られた報酬が絞られ従来廻っていたキャッシュが廻らなります。

 

報酬や資金にもしっかりと目をやって管理を適切に行なっていかなければ、組織の維持が困難になり、結局は医療を継続するための根幹が崩れます。医療はマネジメントがなくても、医師や看護師、コメディカルがいれば適切に実施される可能性がありますが、組織が存続しなければ医療は制約を受けるのは間違いがありません。

 

できるだけ高い質の医療を担保するためにも、優れた職員を育成し、適切な医療のための環境づくりを行い、医療人としてのプライドをもって医療に邁進できる組織をつくらなければ、病院が維持できない可能性がでてくることを多くの病院が気付き始めていています。

 

事務は事務として適切な事務を行い、病棟での支援を行うとともに診療報酬を正しく請求し、また患者や家族から回収する。報酬体系を明確にしたうえで、頑張った職員にはそれに見合った報酬が支払われる。部署間のコンフリクトを発生させないよう、社会人としての職員を育成し、さらに人間力を身に付けることができる組織風土や文化づくりに精を出さなければなりません。

 

マネジメントの巧拙が、組織存続の要諦になるということをしっかりと考えなければならないということが分かります。決めたことができない、言ったことをやらない、指示を受けても実施しない、遅れる、間違える、繰り返す、やり直す、といった無駄をどのように排除するのか。やはり仕組みの見直しと個人の技術技能の向上が必要になります。

 

社会保障費の抑制が行われるのであれば、低減した報酬をどのように増加させていくのか、保険収入だけではなく保険外収入をどのように増やすのか、コストをどのように削減するのか、外注していたものを内製化することでメリットがあれば、内製化を行うなど、多くのことを考えて組織を守らなければなりません。

 

医療マネジメントシステム全体を理解し、適切な組織運営を行うことで、職員を護り、現場を支えていくことが求められています。