ビジネスはアートだ
ビジネスとアートをテーマとした書籍が数多く出版され、また両者の関係がさまざまなところで議論されています。「アートをビジネスに活かそう」という文脈です。今回のテーマです。
たまに美術館に行きますが、門外漢の私がアートについて深く語ることはおこがましいし、難しいことです。しかし、素人としてアートとりわけ美術品(書画・彫刻・工芸作品≒ここでは絵画とします)を、どのようにビジネスに活かせると感じているのか、について私見を述べることはできそうです。
さて、ビジネスとアートについて考えるときには、
- アートをどのようにビジネスに乗せるか
- ビジネスにアートをどう活かすか
- ビジネスパーソンがビジネスの中でどのようにアートを扱うのか
の視点があります。
もっとも大事なのは3の、「ビジネスパーソンがビジネスの中でどのようにアートを扱うのか」だと思いますが、まずは、1から簡単に検証したいと思います。
海外の美術品マーケットは、欧米を中心としてつくりあげられてきた経緯があります。アートの歴史は無視できません。
もちろん、古くから日本の文化や葛飾北斎などが海外のアーティストに大きな影響を与えたことはつとに有名です。
しかし、近代日本には海外で高い評価を得ているアーティストはいても、世界トップクラスの高額で美術品が売買されるアーティストはいないといわれています(そうはいってもロンドンの画商の香港ブランチのスタッフから、村上隆の作品がイギリスで数億単位で売れていると聞きました。凄いですね)。
アートをビジネスにどう乗せるかについては、「アートのマーケティングが必要で、それはアーティストでも画廊でもなくキュレーター(博物館や美術館等において鑑定や研究を行い、学術的専門知識をもって業務の管理監督を行う専門職、管理職)の活躍の場だ」という意見があります。
ただ、キュレーターが企画を行い市場に活気がでるとしても、欧米がそうしてきたように日本では子供のときからアートに対する教育や環境づくりをしてこなかったので国内マーケットは限られた人々の楽しみの場になっているだけ、とも言われており、根深い課題がありそうです。
なので、日本では美術品をどう販売し普及させるのかではなく、人々ができるだけ多くの作品に触れて啓発を受け、感動し、後にそれを人生に活かせる場づくりが大切だ、と言う方向での議論が必要です。
すなわち、資金や心に余裕のある日本人が美術品を購入するだけではなく、そのときどきで海外との連携や公的・民間資金で取得した著名な絵画等の展示会、新人のアーティストの展覧会を頻回に開く仕組みづくりを行い、広く国民が感性を磨く機会を増やす。そのために何をすべきなのかという議論を積み上げることが有益です。まさにキュレーターの腕の見せ所ですね。
なお、日本のアーティストの作品を海外に広める、という意味でのビジネスは、確かにマーケティングに依存するところもあるので、その領域でも頑張って欲しいです。
次に、ビジネスにアートをどう活かすか、と言うダイレクトなテーマについてです。
スティーブジョブスのアップルが有名ですが、デザインにより機能が担保されたり、カラーリングにより生活が豊かになるというテーマは、自分のこととして実感できます。
コンセプトや機能がデザインに反映されて商品価値を高めるという意味で、デザインやデザイナーの重要性が益々高まってくると思います。
戦略やプロダクト全体をデザインできる企業が成長するなど、これからも新規事業や商品開発におけるデザインの必要性が高まることは容易に想像できます。
ところで、「ビジネスの限界はアートで超えろ」(増村岳史著)で著者は、絵画には予め設計された構図があり、俯瞰と凝視により脳の機能を使いロジカルに、つまり図形的にもの事を捉える論理的思考により描かれている、絵画を描くには右脳のみではなく、左脳の機能が必要だ、という趣旨の説明をしています(「特徴的な色遣いをするゴッホの絵具のつくり方は論理的。また、作画のプロセスはPDCAにより行われた」というくだりは目から鱗でした)。
そして、絵画を見ることは感性を司る右脳に訴えかけますが、観ることは考えることを促し論理を司る左脳に作用する、としています。確かにそうですね。
ここまでくると、「ビジネスパーソンがビジネスの中でどのようにアート思考を扱うのか」についての解は明らかです。
絵画に触れることで、まずは単純に目の前の絵画の美の世界に入り込み、感動に包まれて癒され感性を磨く。一方でその絵のどこが素晴らしいのか、何を気に入ったのか自分なりに分析します。
それが描かれた時代背景や歴史を学び、作者の意図に想いを馳せ、そこから生まれる感性や論理から、直感力や美しいものや善への憧憬、そして相手の心を慮る意識や平和に対する思いを培うことができます。
そうして人間性を磨き自分を高め続ければ、いざビジネスに直面したとき、心に深く刻まれた感性や論理性から思考をつくり、まさに俯瞰と凝視のスクリーンを通して事象を捉え、簡潔かつ機能的に解答を出せたり、何かを伝えたりができるようになるのです。
仔細なことですが、それができるようになるとプレゼンでも自分の意図やイメージを、論理的な図形やデザインで瞬間に理解してもらえるようにもなりますね。
日々のビジネスや生活は、アートにより影響を受け、良い成果を得続けられると考えています。
補足すると、欧米でも良くあるようですが、私が社会人に成り立ての頃、著名な経営者の皆さんが、横山はどうの、東山の、平山が、伊東は、と会話をし打ち解けた後にビジネスの話に入るといった現場に居合わせたことがあります。
必要な教養ですが頻繁に機会があるわけではなく、また今の時代はそのようなのんびりした時代でもないのだろうとは思います。
ここに、
1. 美術品に触れる機会を増やす
2. 物事を俯瞰し凝視する
3. 右脳と左脳で物事を捉える
4. デザインについて造詣を深める
5. 思考法やセンスを磨きビジネスに活かす
というビジネスパーソンのアート扱いの必要性が見えてきます。
まさに、ビジネスパーソンのビジネスとアートの関係性を創り上げるアプローチです。
私の中で今回のテーマはまだ充分に掘下げられていないため内容に深みがありません。
これからも美術品にできるだけ多く出会い、また周りの造形や色遣いにも意識をもち、右脳と左脳でアートを楽しみ、さまざまな豊かさを得て、ビジネスに活かしながら人生を謳歌していきたいと考えています。