よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

医療行為からみた財務諸表の位置づけ


財務諸表は組織の期末における財政状態、一年間の経営成績、キャッシュ・フローの状況を利害関係者に報告するための書類をいいます。なので、あくまでも損益計算書と貸借対照表、キャシュフロー計算書は報告のための道具であることが分かります。

 

組織運営上の問題や課題発見を行うためには、報告のための会計から多くの情報を得ることはできません。当該組織が現状どのような状況にあるのかを理解するための一助とはなるものの、例えば病院であれば、医局、看護、診療支援部、事務部のどこに組織運営上の問題や課題があるのかについては、財務諸表や財務分析からは読み取れないのです。

 

少なくとも管理会計である部門別損益・診療科別分析、患者別疾病別原価計算、特殊原価調査、目標管理と共に設定される有意な指標分析等を駆使して問題の所在を把握し、仮説を立て現場情報収集を行ない、始めて問題や課題の具体的な解決策を立案できます。

 

財務諸表のチェックや財務分析は組織運営の輪郭の把握や、一般的な基準から組織全体の現状を分析することが目的となることを忘れてはなりません。

 

これに対し、人の健康管理上の問題や課題発見を行うための医療はもともとPOSによる問題解決型のアプローチによる行為であり、プロセスやそこで利用される資料は、問題がどこにあるのかをいきなり発見できるように組み立てられています。

 

POS(Problem Oriented System)は、ご承知のように問題志向型システムをいい、患者の健康問題を合理的・系統的に解決する方法です。

POSは、

  1. 情報収集
  2. 問題の明確化
  3. 解決のための計画立案
  4. 計画の実施

のプロセスを繰り返し、患者がもつ問題や課題を最適な方法で解決していきます。なお、POSはSubject(主観的情報)、Object(客観的情報)、Assessment(評価)、Plan(計画)のプロセスを経て医療行為を記録するSOAPと併せて展開されます。

 

ここで、医療の流れを簡単に説明すると、バイタル、問診や触診、そして血液検査、尿検査、心電図他を行い組織運営上の財務諸表に該当するいわゆる検査表を作成したとたん、勿論完全ではないものの、どの臓器や血管、神経、骨格等(組織でいえば部門や部署、人)に、どのような問題や課題がありそうだということがある程度把握できます。主訴や病歴(家族含む)、生活習慣と併せて疾患や治療についての一定程度の仮説を立てることができるのです。

 

さらに、その検証のためにX線、超音波、CT、MRI、細胞診、PET他の検査を追加することで、一定程度の具体的な状況や治療の方針すなわち解決すべき問題や課題に対し診断を下し、治療に入ることができます。

 

一方、組織運営は複雑で、人の治療を行うように問題解決を一気に行うことはできません。組織のパーパス設定や戦略立案、そしてガバナンスの仕組みをつくりあげ、アクションプランを実行するなかで、モニタリングを行いながら経営資源であるヒト、時間、情報、モノ、カネについて各々が抱える問題や課題を発見する。

 

それらを整理したうえで、日々リーダーシップを発揮しつつ現場で合目的的行動を継続し、あるべき組織運営を行い続けることで目的を達成する、というアプローチが必要です。

 

繰り返しになりますが、財務諸表や財務分析は、問題や課題発見のためのほんの一部の情報しか得られない資料や方法であることを理解したうえで、管理会計を活用しながら組織運営の正常化を図る活動をしていかなければなりません。

 

人間の場合には健康状態をある程度可視化できますが、組織の場合には意図的に見なければ可視化できていないことが多くあります。そのなかで組織の健康状態を分析し、いわゆる診断を行い、治療の方針を決めるのはかなりの困難を伴うのです。

 

財務会計における財務分析等だけで医療機関の経営状態を把握し的確な活動方針を決めることは難しく、組織運営上の問題発見のフローを理解したうえでの全体的な活動が必要です。

 

概略は把握できるものの問題や課題の所在までを想定してない財務分析を考慮しても問題を見つけ、解決するには限界がある、という結論です。

 

マネージャーや各職種のリーダーとして、財務諸表や財務分析手法の理解に留まらず、更に学習範囲を広げモニタリング(可視化)のための現場で役に立つ(机上ではないという意味で)動態的な管理会計を修得し、適切な組織マネジメントを行えるよう取り組むことが求められています。

 

なお、人と組織運営における問題解決のためのフローを一覧表にしたので参考にして下さい。