よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

新千歳空港発544便は闇を切り裂き飛行した

 今日の新千歳空港発羽田行きのJAL544便は40名程度しか搭乗していませんでした(アテンダントの方からの聴取)。というかほとんど空席で、大きな747型機(ジャンボ)にはあまりにも少ない搭乗者でした。当然、20時55分発の飛行機ですから窓の外は暗く、小さくゴーという音だけを耳にしながら747型機は飛行を続けていました。

 この記事をブログに載せるときには空港にいるはずで、すが、まだ今は空の上にいて、空港の喧騒さに触れることはありません。
 今日は少ないんですね…といった私の言葉に、アテンダントは困った顔をして、そうなんです…と答えました。こんな状態、それは訪問する病院の病棟と同じであることに気がつきました。まったくこんな感じです。飛行機はたまたま、春休みも終わり、遅い便で搭乗者がいなかった。しかし、病院の利用率低下は恒常的であるところが多くあります。
 
 いったいどうすればよいのか、もう判りませんと話す事務長もいます。
 また、どうしたらいいのかうちのスタッフにはもう解決できないだろうという院長もいます。利用率が下がり、しかし、外来は高齢者で溢れている病院もありますが、明らかに20年の4月からは患者が激減するでしょう。やはり窓の外は暗く、どこに着陸するのかも判りません。ただ、懸命に、ゴーという響きが聞こえてくるほど慌てながら時間が過ぎていく病院もあります。

 今日訪問した病院では、DPCのために病院原価計算を実施していくことになりました。
 部門別損益計算は既に実施しています。DPC点数表を看護師が持ちながら患者さんが入院したらその点数表を見ながら医師と議論する、そんな別のクライアントの病院の話しを院長にさせてもらいました。
 その病院は既にDPCは準備病院ですが、部門別、疾病別を実施してます。DPC準備委員会がパス委員会を中心にして発足しました。
 私たちが常々説明しているシミュレーション、在院日数短縮、増患、コスト削減をテーマとしてプロジェクトを組成、それぞれの役割をもって、BSCに載せながら実行することで動いています。既に目標管理制度は10年前に導入しています。Pマークをとり、ISOをとり、機能評価をとり、総合リハをとり、外来分離をし、電子カルテをいれ…、とその都度、その時期を疾風のように乗越えてきている病院です。

 ところで、DPCでは、なぜか出来高とのシミュレーション、DPCをどのようにとるのかのシミュレーションが行われています。確かに無駄な治療はしない、個々の治療に併せて入院する、といったことのためのシミュレーションは良いでしょう。また、何かの行為を「しない」ということでのコストリダクション(原価低減)も良いでしょう、しかし、それで終わっている病院があまりにも多い。出来高はなくなるのであるから、シミュレーションしても仕方がない、調整係数もなくなります。DPCの組み合わせについても、入院の意味がわかれば当然のことです。
 また、治療を止めてコストを下げるという感覚になるのもおかしい。なぜならば何かをしなければコストは下がり利益はでるに決まっているからです。病院の皆さん、よく考えてください。そのようなシミュレーションをするのではなく、包括のなかで、もちろん手術をすることについての入院を急性期は受け持つということを受容することと同時に、質を落とさず(つまり治療を止めて利益を出すというだけではなく)業務改革を進めることで生産性をあげる、結果として効率をあげるという側面を重視しなければならないことに気がつかなければなりません。

 先ほどのような、これまた数多くある優れた病院は、DPCは医療の質向上のための仕掛けであることを知っています。だからシミュレーションやベンチマークをあまり重視していません。

 業務改革のための行動を誘導するため、原価計算を行い、どこに治療上の行動課題があるのか、無駄があるのかを探していこうということに軸足をおいた活動を開始しています。

 看護師のSさんは、看護業務すべての原価標準をつくるため、すべての行為の標準時間を設定するという作業に入りました。そうしないと疾病別原価計算(実績)をしたときに、どこに課題があるのか判りませんから、と、実務に合った、無理のない、という部分で妥協し、そこまではまだと躊躇する私に説明しました。固定費の削減や変動比率の削減といったコスト絶対額の削減をも既に実施し、そして直接労務費の分析に入る…、それこそが医療看護の原点に通じる大きな道であることをその病院は知っています。

 DPCDPCであろうと、DRGであろうと、病院が現状を知る、問題点を発見する、課題化する、そのために原型さんをする。パスのバリアンス、DPCの期間を目標とした業務改革、そのための教育、ナレッジマネジメントの材料としてのマニュアル、レベル2以上の事故を撲滅することで(つまり質をあげ)在院日数をどのように短縮するか、個々の業務の無駄を排除し、そして入院当初からアセスメントをしながらのディスチャージ、看護プロセスの見直しによる看護の質の向上、SOAPの質は…といった部分を常に最高のポジションに誘導するトップのマネジメントが必要です。

 うちは制度には翻弄されない。やるべきことをやる。といいきる病院幹部がいる病院と私たちは活動しています。自院の損益構造を改革することはシミュレーションやベンチマークからは絶対に生まれてきません。この部分をよく理解して欲しい…。そんなことを思いながら外を眺めています。

 あと10分で羽田空港に到着する…というアナウンスがありました。飛行機は暗闇のなかを、適切なシステムとパイロットの技術で決まった空港に降り立つことができます。

 訓練を重ねた機長とそれをサポートする副操縦士、そして機関士。搭乗者の面倒をみる(接遇する)アテンダントのチームにより、無事に目的を達成することができます(整備のためにはさらに多くの整備士が、さらに空港には多くの職種と職員がいます)。下にはそろそろ都会の光が見えてきました。モニターにも滑走路がはっきりと、自己主張しながら、飛行機の着陸をまっています。病院も絶対にこうすることができます。

 戦略を明確にし、到達点を設定し、システムを整備し、医師、スタッフの技術技能を向上させることで、医療制度改革を乗り切ることができます。安全で、安心して治療を任せることができる、地域住民のために存続し続けることができる病院となることができるのです。
 私たちは病院トップに大きく期待しています。

 744型ジャンボは今着陸しました。

「ドクタートレジャーボックス同時掲載記事」