よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

予算というもの

 資本主義社会において、人々が生計を立てるということを考えています。経済活動がそこにはあります。
 個々の主体が独自に社会のニーズを把握し、貨幣を媒介とした活動を行い、自ら投資したもの以上の付加価値を生むことで貨幣を増加させる。そこには自由がありますが、逆に原則として国がそれを支援するものでもない。主体の活動が社会に受け入れられれば主体は存続しうるに足る十分な成果をあげることができるし、そうではなければ存在しない。これが一般企業であり事業主であるといわれています。
 
 医療はどうでしょうか。この原則から言えば、いわゆる格好は一般企業や事業主と同様の経済活動を行いながら、医療機関は利益を得てはならない、営利目的であってはいけない事業である、といわれてきました。国が収益の源泉である価格を決め、しかしどこでも医療サービスを受けることができるよう環境を整備してきたのです。
 
 経済的に成り立たなくとも公的医療機関は役務提供をし続けてくることができたし、一般の医療機関は医療従事者の良心に守られ、工夫すれば、利益を出しつつ次の投資に資源を振り向け規模を拡大することで国民の要請に応えようとしてきた経緯があります。
 国民の個々の富にかかわらず誰でもどこでも公平に医療を享受することができる国民皆保険制度は、そのなかにいると他国に比類ない制度であることがわからない者が多くいるけれども、とても素晴らしい制度であるということは事実であると思います。
 
 昨日も一般企業のコンサルティングを行うため、福岡に入りました。福岡事務所で仕事の準備を早めに終えたあと、アトピーの治療のため皮膚科を訪問しました。10分も待たずに医師に触診してもらい、これは肝臓かもね~ということで漢方薬と塗り薬をもらい、30分で目的を達することができました。仕事に向かう合間であったので、とても助かったのです。
 
 こんな医療が御承知のとおりな状況になっています。資本主義経済下にある事業主体でありながら、表面的には営利の感覚をもってはいけないといわれ、しかし実はそうではない現状のなかで、いくつかの矛盾を内包して運営されてきた医療機関において、それ自体を支える国の思いや医療従事者の思い、そして国民の誤解や慢心が、すばらしい医療制度を崩壊させようとしています。

 どこに原因があるのか、どうしたらすっきりとした思いをもてるのか。何をすればよいのか。何をしなければならないのか。現場のそばに居させていただくことで、そうしたことを考えさえてもらう機会を得ています。

 一般企業では、予算編成制度があり、社員が喜びをもって仕事をするための制度構築があり、顧客に対してどう付加価値を提供するかが議論され、成果をあげるものが評価され、成果を上げられない者は教育の機会を得て、本当に顧客のニーズにこたえられることが事業であるという背景のもと、どうすればこの1年間、ボードが決定した事項を達成することができるのか。そこに超腐心します。
 利益を得る、キャッシュを得ることが目標であるけれど、本当に社会に受け入れられる価値を生まない事業はゴーイングコンサーン(継続企業)たりえないことを誰でも知っています。もともと誰も助けてくれない。自分たちが力をつけ、自らの人生を賭して仕事に邁進することができる組織しか生き残っていけないことは、働く誰もが理解しています。役割を懈怠することは自らの人生を放棄することと同義です。
 そうやって必死になって生きてきたのが一般の企業なのです(少なくともそうしない企業は淘汰されてきています)。

 予算編成制度は単に予算を立案することではなく、顧客のニーズを機敏にとらえ、徹底的な方針や組織づくりを計画することのなかで、そしてそれをできる社員をどのように育成し、動機づける必要があるのかを議論し、具体的な方策が実施されるものでなければならない、と福岡のクライアントに説明しながら、いったい医療はどうしたら、この閉塞感から抜け出すことができるのか…ふと考えてしまう、そんな時間を過ごした昨日でした。
 
「ドクタートレジャーボックス同時掲載記事」