よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

マニュアルを利用する者の気持ち

弊社では、過去24病院に病院マニュアルを導入するお手伝いをしてきました。マニュアルを利用する者がどのような意識で、マニュアルを利用するのかをよく理解しておくことが大切です。

 マニュアルを利用する者は、おおよそ、次の意識をもっています。よい順に掲示してみます。
①成長意欲
②競争心
③興味
④協調性
⑤責任感
⑥義務感
⑦従属心
⑧恐怖心
⑨無関心
⑩無視

上記は、受け入れが積極的であるのか、消極的であるのかを示しています。分岐点は5の真ん中であると考えられますが、これらの気持ちが単一で又は複数で、利用者の行動を誘導することになります。

もっとも受け入れることについて能動的である者は1の気持ちをもってマニュアルの利用にあたっており、そしてもっとも受動的である者は、10の気持ちをもっています。

勿論、9や10であれば逆に組織の側として、これを受け入れることができず、それなりの評価を与えることになり、はっきりしていて結構なのですが、そもそも8までは恐怖心をもちながらも、利用を行うことについては最低限の意識をもっていると理解され、なんらかのかたちで動機を喚起する仕掛けをしていく必要があります。

 したがって、上記から理解できるようにまず上位の意識をどのようにもってもらうのかを組織として考慮する必要があります。ここに上位の意識をもてるよう組織としてあらゆる働きかけをすることが必要です。

 実施事項は、次のものです。
①明確な目的の設定
②明確な個人別課題の設定
③多角度敵教育の実施
④利用を誘導するための仕組みの導入
⑤客観的な評価制度

 人は自ら行動を起こすための理由をつくります。自分がマニュアルの利用を納得し、目標化したときには、能動的にマニュアルを利用します。マニュアルを利用するという行為の向こう側に、本人の目的が見えることが必要です。

 つまり、マニュアルは道具であり、道具が目的を達成するために優れているものであれば、最も必要なものであれば、目的あるいは目標さえ明確にしておけば、人は皆積極的にマニュアルを利用するという考え方です。こうした医療従事者になりたい、こうした医療や看護、医療周辺行為をしたいという意識や意欲がマニュアルを手段として利用するための行動を誘導するのです。

 組織として必要であるから、という目的や目標ではなく、利用する者がそれを利用しなければ目的を達成できない、あるいはそれを利用することが目的や目標を達成するために最も近道であるといったことが理解されれば、マニュアルを利用し、個人の技術技能の向上や仕事の仕組みの見直しが行われる、という組織目的を達成することができると考えることが適当です。

 上記の意識であれば、利用者が意欲的にマニュアルを利用するよう、どのように誘導するのかといったことが、組織の当面の目標とされることが必要です。勿論、次善として競争心を煽る(あおる)といったことも考えれますが、少なくとも目的の歪んだ競争心もあり、正当なかたちで競争心が喚起されない場合には、さまざまな組織的軋轢を生むこととなり、道具や制度としての弊害をもつことになります。

 ①から⑤までをどのように組織的につくりだし、マネジメントの対象としていくのかについて徹底的に議論する必要があります。そして繰り返しになりますが、10のレベルの職員をどのように1に近づけていくのかについて、組織自体が議論し続けることが必要です。

 形から入ることも確かに大切です。他病院でこのような方法、このような手法を利用している、採用しているといったことは利用者の意識を1に向けるためのプロセスであるかもしれないからです。

 しかし、病院で活動する各現場のリーダーのメンタリティーが本来のものとなっていない場合、すなわち良心によってマニュアルをなぜ利用しなければならないのかといった目的を正面から受容し、自ら積極的にマニュアルを利用する=自ら積極的に学習し成長していこうという行動をとっていない場合には、どのような方法を、またどのような手法を組織が導入しようとしても、職員を歓喜させ、感動させ、そして本来の道に誘導することはできないと考えることが相当です。
 
 再度、理念の徹底や基本方針、そして職員は、医療従事者として今、この環境下で何をしていかなければならないのかについて十分な議論しなければなりません。そのうえで、マニュアルが実質的にどのような意味をもっているのかを議論し、業務改革や評価、教育のために利用していくことになります。



「ドクタートレジャーボックス同時掲載記事」