リスクマネジメントは、水面下にある医療の質を水面に引き上げるための仕組みです。医療においては医療安全を担保するための狭義の意味で使っています。
病院では、(開催が義務付けられた)法定委員会のもとで日々のアクシデント(医療事故)やインシデント(ヒヤリハット)の管理が行われます。
リスクは0から5に区分されて評価されます。ここで、「0」は未実施、「1」は実施したが影響なし、「2」は計観察、「3」は要治療(a軽微な治療bそれ以外区分されます)。「4」は後遺症、「5」は死亡です。
一般的に厚労省への届け出の視点から、レベル0、1、2はインシデントレポート、3以上はアクシデントレポートというように分けて管理することが通常です。
これらは医療安全レポートと総称しで管理されますが、以下の課題があります。解決が望まれます。
(1)インシデントのうち0が他のレベルと同じように管理されている
レベル1や2は表にでてしまうものですが、インシデントのうち0は、こんなことをしそうになった(が踏みとどまった)といった事項であり、報告をしなければ表出しません。
したがって1や2と同じ様式ではなく、メモ程度でもよいので、どのようなことを行いそうになったのか。その原因は何か、どうすればそれを抑止できるかについて、出来るだけたくさんの情報を集めグルーピング化し分析し、事前に対策することが必要です。
同じ様式だと作成が大変で億劫になりがちと聞いています。結果、提出数が抑制される可能性があります。
多くの場合、それは個人のスキル、仕事の手順、仕事の仕組み、制度等の問題により発生しますが、教育や業務改革、戦略的決定により解決されるものです。
潜在的なリスクは、事前に手を打ち医療の質を向上させることで抑止できます。リスクマネジメントの目的を達成するための合目的活動を行わなければなりません。
(2)経過の履歴を管理していない
レベルを記載したレポートについて、当初は、例えば経過観察でレベルを2としても、のちに様態が変化して3に移行した場合、これを記録しない病院が大半です。移行した状態を管理しなければ、記録と実態が相違します。
一度イベント(出来事)があった患者さんについては、常に経過を記録する欄をつくり継続的に管理し、その経過も統計の対象としなければなりません。
(3)対策と事故種別の減少の関係を明確にする
報告を、レベル別、時間帯別、勤務年数、事故種別にとることは一般的に行われ、統計されポイントがあぶり出されていますが、組織として採用した対策を一定期間継続したときに、対策の対象となる事故がどのように変化したのかを管理する必要があります。
対策を回数、件数と定量化しておくと、その結果として特定の事故が減少した、ということが認識できれば、対策の妥当性が証明されます。
やりがいにも通じ、モチベーションを高める方法としても導入が好ましいと考えています。
(4)個人ごとの把握
病院によっては、個人毎に統計をとり教育の対象としたり、発見者のデータをとり、管理者登用につなげる取組みを行うところもあります。
「最近アクシデントが頻発している職員にはさまざまな視点からのケアを行う」「模範的な行動をとり、インシデン、アクシデントを発見する者の姿勢や力量を組織に活かす」ことは理にかなっていると思います。この考え方が一般化すら頼り良い成果が挙がると考えています。
(5)その他
マニュアルの作成やその活用、仕組み作りや教育が十分ではないために、同じ事故が複数繰り返される事があります。
業務改善ととともに、個人別にカルテを作り個人の課題を解決するシステムを導入している病院が良い結果を生んでいます。
医療は人であり、職員のやる気や達成感を生む仕組みが功を奏する、という原理原則を忘れないようにしなければなりません。
日本の医療を支える環境づくりを行い、患者が安心して医療を受けられるよう、日々緊張し、医療従事者は大変な努力を重ねています。側から見ていて本当に頭が下がります。
医療の現場は予想しなかったことの連続で成立しており、全てが計画通りというわけにはいきません。
日々の計画の遂行と柔軟な対応。課題を発見し続けながら改革を折り込み、日々進化していこうという取り組みを行っており、他の業者でも参考になる事が満載です。
医療は一般の企業にマネジメントを学べ、という流れもありますが、企業の側にも、今回のテーマだけではなく、多くの場面で、医療現場で行われている医療固有の考え方やマネジメントをベンチマークすることで、良い成果を挙げられることは沢山あると、私は考えています。
今後、時期を見て「企業に役立つ病院マネジメント」を整理していきたいと思います。