よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

暗黙知を活用した進化、いかがですか

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 組織改革の重要なテーマとして、可視化がよく、取り上げられます。

我々は、目に見えない知識(暗黙知)は、なかなか早期に習得できないし、また変えることはできません。

 

もちろん、目に見えても変えることが難しいものもありますが、見えなければ、その変更はさらに困難になります。

 

さて、落語界で噺を覚えるためには、教科書や台本を使うのではなく、そのネタを持っている師匠に弟子入りし、師匠や先輩から口伝えで継承してもらう必要があります。

 

入門してから前座見習い、前座、二つ目、そして一人前の真打となるまで13年から16年と、大変な年月を要します。

 

伝統を重んじる芸能と、より複雑で常に進化している医療を比較することに意味があるかどうかは別として、医療においては迅速に医療の質を高めるために、ながい年月を待つことはできません。

 

どのような職種のスタッフでも早期にスキルを身に付けなければならないのです。

 

病院職員のほとんどは資格を持ったプロですが、病院のやり方の習得や試験を経ただけでは行えないことへの対応が必要で、そのためには、目に見えない知識や経験(暗黙知)を目に見えるようにして(形式知)、伝えていく必要があります。

 

優れたスタッフの仕事のやり方のうちできるだけ多くをノウハウとしてマニュアルに落とし込みます。もちろんチェックシート化することも有効です(ただ、チェックシートではノウハウの部分、つまり、上手いやり方やコツが伝わりにくいため、ナレッジマネジメントのツールとしてはマニュアルが一番です)。

 

研鑽を行っており経験を積んだ職員は、多くの知識を持っています。

彼らの知識を可視化することにより、自分が経験により、あるいはマニュアルやチェックシートなどのツールがないときと比較して各段に早く能力を高めることができるのです。

 

ツールを使うことでAさんからBさん、といった一人称ではなく多くの職員が可視化されたノウハウを使うことができます。

 

ノウハウを媒体として、こんなことをするとこうなるという疑似体験を行えます。実際に経験したことと疑似体験は全く同じではありませんが、明らかにそうではないときと比較し知識を深め、事にうまく対応出来ることにつながります。

 

手順、留意点(ノウハウ)、必要な知識・能力、接遇といった具合にマニュアルの項目を区分し、整理しながら(構造化されたマニュアルと呼んでいます)可視化を進めることが、使うものの理解をより深めます。

 

医療の質を早期に高めるために、使いづらい従来の手順書としてのマニュアルではなく、ノウハウ書としてのマニュアルやノウハウにより作成されたチェックシートを活用しなければなりません。

 

  もちろん、写真やビデオにより学習を行うことや、eラーニングを使うことも効果的です。

 

 ただし、その場合でも単なる手順だけのマニュアルや、手順、留意点、必要な知識や能力が記載されているとしても、それらが整理されず雑然書かれたマニュアルではなく、前述したように、構造化されたマニュアルが必要です。

 

 まずは手順のみを覚える、次にノウハウを習得、さらに必応な知識や能力を身に着け、そのうえで、ここでいう接遇(痛みを与えない、羞恥心を与えない、恐怖心を与えない、納得してもらう、不便を与えない、不快な思いを与えない、不利益を与えない)をキーワードに活動することが期待されています。

 

 さらに一度作成したら改訂しない固定的なマニュアルではなく、業務改善提案制度とリンクさせ、常に新しい創造や工夫を織り込めるようなマニュアルを作成し、運用することでマニュアルがナレッジマネジメントの基礎として機能します。

 

 暗黙知を形式知に、個人知を組織知に昇華させる活動により初めて個人や組織の成長が得られます。

 

 これは、目に見えないもの(暗黙知)を目に見える(形式知)ようにする。また、一人ひとりのノウハウ(個人知)をマニュアル化し、それを皆が学習することで組織のノウハウ(組織知)とすることをいっています。

 

 誰かが作ったマニュアルをみて業務を行う(運用)なかで、改善点を発見し、それをマニュアルに載せれば(改訂)することで、さらに新しいノウハウ(個人知2)が組織のノウハウ(組織知2)になる、という流れで個人や組織のナレッジが進化する=成長するんですね。

 

 10年以上前オーストラリアのメルボルンで病院見学をした時、マニュアルを見せてもらうと一番下に時系列でたくさんのサインが書かれていました。マニュアルが改訂され活用されている証です。

 

 そのあとのミーティングで海外の急性期病院では保険制度の違いから日本よりも格段に在院日数が短く、がんセンターでは3日で退院すると日本人の看護師Nさんが話してくれました。

 

 短期間で退院する患者のケアが迅速かつ適切に行われるためには、皆が高いレベルでの看護をしなければならずマニュアルの進化が欠かせないのだと理解できました。

 

 また、爾後、北京で循環器を得意とする北京大学附属病院を訪問したときには、女性の准教授が、看護師は毎週マニュアルの試験を受けるので大変です、と話してくれました。

 

 どの国もマニュアルを使った教育(活用)に力を入れていることが分かります。

 

 医療に限らず、どの業種においても地道な改善の積み重ねが必要です。

 

 物事を全て目に見えるようにして標準化し、業務を習得し易くするとともに、そのうえでより良いものに進化させること、常に新しいものに変えていくことが今求められていると考えています。