よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

教育カルテ運用のレクチャー

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我々は過去、理論に裏付けられ合理的に設計された、多くのフレームワークやマネジメントツールの開発を行ってきました。その中の一つ、職場内教育に使う「教育カルテ」についてレクチャーを行ったときの資料をご紹介します。

 

医療では患者の治療にカルテが使われます。医師のカルテはSOAP(ソープ)と呼ばれる記載の形式になっています。これは問題指向型診療録(POMR=Problem Oriented Medical Record)の一つです。問題志向型医療(POS=Problem Oriented System)の考え方によって得られたデータを内容ごとに分類・整理した上で、S(Subject)、O(Object)、A(Assessment)、P(Plan)の4つの項目に分けて考える分析手法です。

 

患者の主訴(訴え)や状況・病歴をみて、診察や検査を行いデータを集め、評価します。その結果治療方針を決め治療に入る、という医療活動を記録するのです。

 

さて、病院改革を行うにあたっては、各部署で個人に光を当てた教育を行うことが必要です。個人の教育を的確に行うためには適切なツールを用意しなければなりません。そこで、患者の治療にカルテを使うように、職員の課題解決のためにカルテを使うことにしました。職員教育のためのカルテを教育カルテと名付けました。

 

職場内教育では教育カルテ(A)を、そして集合教育については教育カルテ(B)を使います。以下その使用方法について説明します。

 

本来は、教育の標準があるなかで職場内教育が行われることが必要です。標準がないとXさんが教える内容とYさんが教える内容が異なり、どの上司についたのかにより教育のレベルが異なることがあるからです。XさんとYさんの教育内容を一致させることが必要な理由です。

 

教育の標準としてはマニュアルやチェックシート、職務基準などがあげられます。

 

現実にはすべての標準は整備されておらず、組織として「各職種はこの知識が必要である」といった基本レベルすら存在しない病院が多くあります。

 

一般的な職場内教育は、上司が気付いた点について上司が本人に指摘をして修正するという、いわゆる教育が不連続に行われている現状です。組織を運営するときに、最低限必要な指導だけが日々行われ職場内教育が実施されています。

 

なので現状に合わせ、まずは少なくとも指導した内容を、上司や教える者そして部下や教えられる者が相互に記録に残し、課題を管理するところから始めます。

 

しかし、徐々にマニュアルやチェックシート、職務基準などの標準を作成し、本来の形にすることが期待されます。

 

ということで、教育カルテを職員全員の職場内教育の道具として活用します。

 

教育カルテ(A)が職場内教育の道具になります。できていないことを上司が発見し、本人とOne on oneにより、できていない項目を5つ上げます。本来は、マニュアルやチェックシート、職務基準により、できていないことを探しますが、前述したように貴院にそれらが十分に準備されていない場合には上司が本人をチェックし、課題を抽出します。

 

上司が本人について、できていないこと=課題を発見し、5項目を教育カルテ(A)に記載します。この場合着眼として例えば、①態度・姿勢[協調性、規律性、責任性、積極性]②手技・技術③コミュニケーション④指示されたことに対する成果といったことが対象となります。

  

「あなたは、〇〇ができていないと思うけど、どうですか?」という聞き方をしながら部下と話し合い、課題を5つあげることになります。この場合には、数多くあげたとしても優先順位の高いものを絞り込むことで、5つの課題を決めます。

 

積極的な部下であれば、これができるようになりたいので教えてくださいという依頼があることもあります。このような部下が生まれる風通しのよい、前向きな風土をつくることができれば、教育カルテはより成果を挙げられますね。

 

(事例)

  ・仕事に対して積極性がない

   →もっと、前向きに質問をしたり、行動を迅速に行う必要

  ・期日を守れない

   →決めた時間を守るようにする

  ・一つのことに時間がかかる

   →技術の見直しを行い、障害になっているものを排除

  ・報告がない

   →指示したことの結果を常に報告して欲しい

  ・内容が伝わる文章になっていない

   →文章の書き方ができるよう訓練しよう

  ・〇〇の手技がいつもうまくできない、時間がかかる

   →手順や留意点を確実に把握し、練習をして正確かつ迅速にできるようにする

 

上記課題を抽出したら、修得目標・スキルアップ欄に記載します。また、教育担当者を決定し、担当者はサインします。課題を抽出した上司が個人担当になるケースもあるし、また、他の者でその課題解決に長けている者が個人担当者になるケースもあります。それは評価をした上司が決めればよいと考えます。

 

さらに、いつまでに修得するのか、上司と本人で話し合い、期日を決めます。期日は1ヶ月がマックスになると思います。1ヶ月で解消できない課題はないと考えています。1週間から1ヶ月の間において、修得年月日を決めます。なお、確認レベルですが、現状がどうなのかを評価し、目標を設定します。

 

 A…完全にできる

 B…一人でできる

 C…支援すればできる

 D…まったくできない

 

といったレベルのどこに現状あるのかを評価し、被評価者の合意の上、目標を設定します。現状が、Dであり、目標をBとするといった具合に目標を決めます。それは評価基準がないときには主観的になりがちですが、まずはそれを決めて、活動を開始します。

 

一定期間の経過後に、評価者が個々の項目を評価します。評価日を記載し、評価者が押印したうえで、確認レベルの到達欄にどうであったのかを記載します。もちろん、目標をクリヤーできないうちは継続しますが、目標と同一、あるいは目標を超える成果が挙がった段階で、当該項目は目標から外れます。そのときには、コメントを記載し、どのような状況であるのかについて個人担当者、あるいは評価者が記入します。すごく頑張り良い成果、とか、まだまだ定着に時間、といった記載をすることになります。

 

以上、教育カルテ(A)を使い、まずは上記の作業を行い、各職員の教育課題をカルテに落とし込み、それを解決するために活動を開始して下さい。課題の拾い方がうまくいっていなかったり、課題が大まかになっているとか、当初はいろいろ問題があったりはしますが、まず記載をしてみて実行し、その結果をもって修正をしていければと考えています。

 

できたことについては、線を引いて教育カルテを保管します。対象者(被教育者)は「過去できなかったことができるようになった」「こんなことも昔はできなかったんだ」、といったことを振り返りながら、自分の成長に自信をもてるようになります。もちろん教える側の教育担当者も、自分の指導により部下ができるようになったことに満足できます。教育カルテが課題解決の履歴、自信の源泉になる瞬間です。

 

集合個人のためには、教育カルテ(B)を活用します。内外の集合教育の記録を記載して管理します。集合教育は、本来、職場内教育で不明な点を理解するためや、新たな学習を行い、院内に取り入れる(資格をとることもここに含まれます)ためにこれを行うものです。

 

また、自己啓発は、職場内教育、集合教育でもさらにできないことを自分で学習することを目標としています。それについても、病院が指示をしてこれを行うことがあればその結果を記載することになります。

 

上記をよく理解したうえで教育カルテ制度をスタートします。途中で理解できないことがあれば、皆で議論をしながら作業を進めていっていただければと考えています。個人に光を当てた教育を行うための簡単なシートです。

 

なお、教育カルテは目標管理における本人課題解決のためのOne on oneに活用する病院もあります。カルテを活用し、一人ひとりの職員をあるべき方向にどのよう導いていくのかについて、上司は真剣に考えなければなりません。

 

 

 

人材育成でトンネルを抜ける

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先日、戸建て住宅を建築販売している住宅会社に訪問し、人事関係の仕事をしていました。人を採用する、そしてマネジメントするために、どのような仕組みが必要なのかということについて、初期の初期ですが、いくつかの規程を作成していました。

 

人が大切であるのは、どの業界も同様です。人事管理は、募集、採用、配置、教育、評価、処遇、退職といった区分により行われます。従業員を会社が望む一定の方向に誘導できるようマネジメントしていくことは、将来の投資であり、現実を乗り越えるための重要な仕事の一つです。

 

ここで、どのような戦略により何を目指すのか、そのためにはどのような人材が必要なのか、そのために社内で育成するのか、外部から採用するのかを決め人事管理を行うことはいうまでもありません。

 

社内で人材を育成するためには評価の仕組みをつくることが不可欠です。評価が不明瞭だと、従業員の現状が把握できず、どのように教育すればよいかが見えてこないからです。

 

なお、ビジョンが浸透しているのか、日々の業務において具体的になっているか、従業員一人ひとりの仕事に対する思いと一致しているのかを把握しておくことが必要です。いわゆるヒューマンリソースマネジメント(人的資源管理)の領域です。人を資源としてとらえ「人という資源をいかに活用するか」を考えます。

 

人が力を発揮するのは、仕事のなかで、

  • やりたいことができる、
  • 評価される、
  • 達成感がある、
  • 成長できると感じる

ときですよね。

 

リーダーが日々指示するなかで、仕事に対する姿勢や態度、能力の見極めや得意分野、不得意分野について明らかにしたうえで、本人が力を発揮できるよう、適切な指導や教育を行うことが重要です。

 

部下がリーダーの言うことに面従腹背するとか、無視するとかがあれば組織運営が適正に行えません。リーダーシップが正しく発揮されているのか、リーダーとなる者への教育が体系的に行われなければならない理由です。

 

住宅会社の社長は詳細にまで気を配り、仕組みをつくり、教育を行い、数十人のスタッフへ方向を示しています。仕事の細かいところまで知り、トップマネジメントとしてのリーダーシップを発揮することが、いかに重要な役割であるかを、彼は知り対応をを的確に行おうとしています。

 

100億円になんなんとする売上を上げていた会社の創業社長でありながら、戦略と戦術、そして戦闘についても、丁寧に社員に説明している姿をみると、本当に頭が下がります。

 

とはいえ「いつまでも、社長を軸としたマネジメントでは先に進まない。今後は能力のある幹部(リーダー)の採用と育成が重要課題」と話します。

 

社長と昼食をいただきながら、よく日本や世界について話をします。政治経済、景気動向、財政、雇用問題といったことがメインで不安ばかりですが、結局は、私たち一人一人ができることを徹底してやろうということになりました。

 

社長は、「トンネルの向こうになにがあるのかは判らない。しかし、自分たちが一生懸命に変えていこう。政治でも国でも、他の誰でもなく、自分たちができることを懸命に行い、少なくとも自社が地域で評価される存在になれるよう仕事をしなければならない。」と話します。社長の言葉はずっしりと心に響きます。今日も勇気をもらいました。

 

職員が120%の力を発揮する

f:id:itomoji2002:20220310151354j:plain 患者が集まる病院づくりは病院幹部の永遠のテーマです。

 

立地や設備、アメニティ、病院のブランド、ある診療科の強み、医師自ら評判をつくるなどあれば他に大きなマイナスの要素がない限り患者は来院します。病院はどのような方針をもち患者のニーズに応えるのか、自院の資源を勘案して患者の受け入れを決めていきます。

 

医師が不足するために入院治療をしたくてもできない病院もあるし、逆に医師が多くても、患者が集まらない病院もあり病院の運営は難しいものです。

 

ある病院はその凹凸をなくすために懸命に時間とコストをかけて医師の招聘を行い、また消防署や他の病院を廻り、いわゆる告知活動を行うことで成果をあげています。また、サテライトを強化し、在宅医との連携をとりながら入退院管理を行い、地域になくてはならない病院になっているところもあります。

 

病院は現場の医療資源をどれだけうまく活用し、最大の成果をあげるかということが本来のマネジメントのあり方です。職員が最大限の活躍ができるよう現場を鼓舞し、さまざまな価値観をもつ職員を一定の方向に誘導していくことがリーダーの使命です。

 

ここに成果に頓着しない、あるいは改善や改革に着手しようとしない、さらには問題が分かっていながら手をつけない、若しくは手をつけられないトップが多く存在するのも事実です。

 

トップマネジメントの役割として、まずはどの職員も共感する基本的な考え方や制度を提示し、さらにそのうえで、優先順位をつけた課題を解決するために職員のモチベーションを高めながら活動する必要があります。

 

そこから一歩でも外れることがあれば、どこかに不満や不安が蓄積し、放置し続ければ埒があかない状況になることは間違いがありません。さらに追い討ちをかけて例えば人間関係や処遇に耐えられないほどのネガティブな要因があれば、我慢の限界を超え、職員が少しずつ、あるいは崩れを打って退職していく病院がそれです。我慢の範疇にあるとしても職員は自ら持てる力を発揮できない環境に置かれます。

 

トップマネジメントが「社会の良心が集約された病院」の運営を阻害してしまう結果です。 

 

これは医療だけではなく、あらゆる業種でもいえることではありますが、毎日さまざまな病院を訪問し、トップマネジメントの病院運営の手法をみていると、いろいろなことに気が付きますし、考えさせられます。また我々も関与できない領域の事項も数多くあるのを思い知らされます。

 

職員が120%力を発揮できる病院が増加すればするほど、医療の質は向上し、また地域が守られます。

 

このことを心らか認識し、明確なマネジメントを行うとともに、医療の質を構成する

  1. 仕事の仕組みの見直し、
  2. 個人の技術技能向上への取り組み

といった改革に取り組むトップマネジメントが増えることを期待しています。

部下から信頼を得る上司10のアイテム

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上司が部下から尊敬され、信頼されて始めて部下は覚醒し組織はその目的を達成することができます。

 

上司の指示を理解しても仕事ができない部下や、分かったふりをして理解できず何もしない部下、面従腹背する部下や、はなから上司に従わない部下など心配の種は尽きませんが、そうなっている原因は上司にあるかもしれないと考える必要があります。

 

上司と部下が仕事を進めていくうえで適切な関係を生むために、10アイテムへの留意が必要です。

 

  1. 方針
  2. 環境整備
  3. コミュニケーション
  4. 指導力
  5. 評価
  6. 教育
  7. 態度
  8. 姿勢
  9. 規律
  10. 人間力

がそれらです。以下説明します。

 

ます、組織行動の軸となる経営方針についてです。上司がトップマネジメントが設定した組織の方針や目標を受容しその達成を決意したうえで、自部署の方針や目標を設定し、それらを理解できるように部下にOne on oneにて説明します。

 

組織が何を目指し何を期待しているのかをしっかりと伝え、個々の特性や本人のやりたいこととをベースに判断し、コミットメントを得て部下の目標設定や日々の行動を組み立てて、実行支援を行うことが必要です。

 

次に部下が行動しやすいよう環境づくりを行います。部下の失敗を自分の責任と捉えフォローをしたり、部下の成功を自分のことのように喜べる風土をつくりあげることに始まり、日常においては部下の時間を大切にし、計画的な行動への指示を出すことが大切です。

 

またコミュニケーションをとるときは、部下の意見に対し肯定的に耳を傾け適切なアドバイスを行い、また事に当たっては感情を出して叱責せず、冷静に話し合えることや、彼らの意見を尊重しときには採用する度量をもっていることも部下から信頼される要因となります。

 

そのうえで部下が自信をもって行動できるように具体的に指導し、また適切なアドバイスを行い、部下の成長課題を発見しその達成に対しても的確なアドバイスを行うことが求められます。

 

さらに、仕事の成果を求めつつも、そのプロセスを評価するとともに、裏方で成果をあげている者を評価するなど部下の取扱いを分け隔てなく、公平公正な評価を行うことも忘れてはなりません。

 

評価の結果を受け、仕事の多くを部下の育成に使い、不足する知識や経験の到達点を設定しつつ、仕事のなかで研鑽の機会を計画的に提供することも重要です。なお、教育の機会の提供は公平にすべての部下に平等に与えられていることも部下のやる気を引き出します。

 

一連の対応のなかで部下の話をよく聞き、一方的な押し付けをせず、納得できるように指示を行うことや、外部取引先に対しても誠意をもって対応することで社会人としての範を示します。なお、上司が中間管理職で自分の上位の役職者がいるときには、その上司に対して正しい報告を行うことを心掛けなければなりません。そのことで部下は報告のあり方を敏感に感じ取り、自らの行動を修正します。留意すべきポイントです。

 

次に仕事の態度です。生活態度が安定していて傍から見ていて安心できることや、上司としての責任感や情熱、使命感をもって仕事に真剣に取り組み自ら解決すべき課題を持ち、日々自己変革を行い、前向きに行動し成長している姿を部下に見せることが上司に求められる態度です。

 

ただ、真の尊敬を得るためには、部下の自主性を重んじたマネジメントを行いながらも、規律について守るべき線は譲らないという厳しい姿勢が必要です。厳格なコンプライアンスを求め、部下に間違いがあれば、それを瞬時に指摘するし、一定程度の信賞必罰も行います。もちろん外部との取引においても不正はないかどうかのチェックは怠りません。

 

そして、究極の信頼できる上司像の根底には人間力があります。横柄ではなく常に適切な態度で接しているか、言葉遣いは乱雑ではなく丁寧、誰に対しても誠意をもって接しているか、そして人として、仕事のプロとして尊敬される自分であるか胸に手を当て考えてみる必要があります。

 

公私にわたり全人格的な対応を行い、これら10アイテムをしっかり自分のものにできるかどうかが、部下から信頼され成果を挙げられる上司になれるかどうかのポイントになります。

 

部下をもつ立場にある者は、できるだけ、一つでも多く上記アイテムへのあるべき対応を身に着けられるよう行動していかなければなりません。

One on one の4つのポイント

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ある組織のトップから、「石井さん、今の上司に評価されたくない、という意見が何人かからありました。なのでうちで目標管理を行うのは難しいと思います」といわれ目標管理制度の導入をやっとのことで行っていたのに、運用の継続を泣く泣く諦めたことがあります。

 

このように分かり易いケースだけではなく、せっかく目標管理制度を導入したにもかかわらず、露見はしないけれど社員が上記と同じ思いをもち、仕方なく制度運営が行われている組織がいくつもあります。成果がまったく挙らないわけではないとしても、制度整備や運用がうまく行われず、期待する効果が得られない状態にあります。

 

一体どこに問題があるのでしょうか。

  • 上司がリーダーとして信頼されていない
  • 上司がリーダーとして機能していない

といった直接的なものだけではなく、

  • 何のために目標管理を行うのかが社員に納得されていない
  • 制度整備が不完全
  • 現状にある程度満足しているトップが、達成しなければならない具体的な目標を提示していない
  • 上司も部下にも現状を打開しようという思いがない
  • 仕事を好き嫌いでとらえている
  • 何よりも組織に勢いがない

といったことが遡上にのります。

 

組織に不可欠なガバナンス体系の一つである目標管理は、訴求力のあるビジョン→中計→経営方針→年度計画→目標管理といった位置づけにあり組織目標→部門目標→個人目標として展開されます。別の視点からみれば、KGI→KFS→PD→KPIといった流れで具体的な行動につながるものです。

 

個人の目標の多くは定量化され、行動も具体的です。コミットメント(公約)システムにより個人のやりたいことと組織目標の整合性をとり、社員が腑に落ちた目標を設定し、上司の支援のもとに個人目標を達成すれば、達成感も得られるし評価(承認)もされる、といった環境で仕事を進めることができます。

未来を見据えたトップにより、それぞれ課題はありながらも前向きにリーダーシップを発揮できるリーダーが育成されてOne on one(上司と部下が一対一で面談すること)により行われるコミットメントシステムのなかで目標管理制度が運営されるのであれば、目標管理制度がうまく進まない筈はありません。

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少し端折って説明したので分かりづらかったかもしれませんが、ここで挙げた項目を一つ一つ確立すれば、誰もが望む成果を得ることができるのです。冒頭にあげたエピソードは、特殊なケースではありませんが、本来の制度のあり方を理解していないトップにより下された結論であり、得られる筈の成果を棄損した、とてももったいない事例でした。

 

なお、制度整備や運用を行ううえで重要なのは、実はOne on oneです。

 

One on oneが上手く進めば制度全体が機能的に行われるし、制度整備が完璧でもOne on oneで失敗すれば結局は部下の執着を得られず目指す成果を得られない可能性があります。One on oneが期待通りに上手く進むための要件は、

  1. 魅力的なビジョン
  2. 明確な戦略と目標
  3. 個人のやりたいことの引き出し
  4. 上司への信頼

です。

 

多くの社員が、組織行動に魅力を感じるとともに、何をすれば目標をクリアーできるのかを理解できる。目標への取組みは自分のやりたいことを達成できるチャンスだということについて、信頼できる上司と議論できることがOne on one成功のポイントなのです。

 

この4つのポイントは奥が深く、一朝一夕に完全なものを創りあげることは困難です。しかし、時間はかかるかもしれませんが、一つ一つを意識し具体的な行動を以てすればこれらを確保することが可能です。

 

例え目標管理制度が未整備としても、組織マネジメントを行う者には、類似の状況を意識したうえで4つのポイントを押さえ、日々の行動をより良い方向に誘導し続けることが求められています。

 

組織は社員一人ひとりのやる気や力をどのように成果につなげていくのかを考え行動しますが、One on oneはその中心に位置する重要な機会であることを再度認識する必要があります。

 

 

病院マネジメントの超基本

 

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医療機関におけるマネジメントの超基本は、業務フローの明確化・標準化と、その適切な運用につきます。縦割り組織で成り立つ病院であったとしても、見通しのきく診療所であってもそれは同じです。

組織では、いくつもの業務フローが重なりあいながら、目的を達成するために活動していますが、一つ一つを分解してみると、それぞれの職種によるフローが確立していて、それらが鎖のようにつながりながら、全体の活動が行われていることが判ります。

業務の対象者は患者一人ひとりであり、そこにすべての活動が向かい、患者の治療に収斂しています。一人ひとりの患者に対し、上記で説明したいくつもの業務フローが、医師の判断と指示のもと組み立てられ、各機能に咀嚼されて実施される。その結果が診療報酬として請求されるという結果をもって医療活動が終了するというかたちをとります。

他に内部的には職員が働く場所の管理や購買、物品の管理、職員の人事管理が別途行われるというフローはありますが、それらも患者一人ひとりにサービスを提供するために必要な環境であり、それらのフローが確立されなければ、すべてが完結しないという性格をもっています。

そうしてみるとそれら業務フローそれぞれが、

  • あるべきかたちで標準化され、
  • それを実施する職員において習熟され、
  • 適切に実施される

ことが必要なのは明確です。

とりわけ病院において留意しなければならないのは、個々の業務の連鎖部分です。この部分のマネジメントがうまくいかなければ全体が正しく実施されないことになるからです。

部署間コンフリクト(衝突)の解消のコンセプトが生まれた経緯がここにあります。組織のもつ自己利益優先、セクショナリズム、マウントを取ろうとするリーダーにより惹起される部署間や個人間の衝突による無駄を解消し、複数の機能別組織の多様な業務が、あたかも一つの組織単位により実施されているかのように

  • 組織一体化への取組み、
  • 仕組みの見直し、
  • 実施者の調整、
  • 訓練、

を行うことが病院マネジメントの重要な部分だという帰結です。


部署間に発生する課題を解決することで多くの不効率が排除され、コストが低減することが知られています。

 

上記について、「人はどうすれば能動的に学習し、そして保有する最大限の力を発揮するか」というテーマを取り扱うHRMを基礎として、病院マネジメントの超基本を実施します。

 

日々の仕事の組み立てや優先順位づけ、職員の円滑な行動を担保するタイムマネジメント、そして看護プロセス、クリティカルパス、リスクマネジメント、マニュアル、業務改善提案システム等々を扱う業務改革ツール、さらには、KGI(Key Goal Indicator=重要目標達成指標)の設定によるKPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)の管理を含む、広い概念をもつ管理会計を駆使しながら、現場に切り込んでいくことが大切です。


ただ慌ただしく懸命に働くだけではなく、業務フローの明確化・標準化と、その適切な運用を行うこと。

この思考は、医療にのみ当てはまるものではなく、すべての産業において活用されるものと考えています。

 

なお、どのような事業においても必要に応じ、時代の変化に柔軟に適応するため現状のモデルを大きく変えるイノベーションが行われなかければならないことはいうまでもありません。

 

 


 



 

求められるリーダーとリーダーシップ

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フィドラーが提唱したコンティンジェンシー(contingency=偶発・偶然)理論は、「どのような状況でも最高のパフォーマンスを発揮するリーダーシップは存在しない」という考え方です。「リーダーが状況に応じてスタイルを変化させる」ことが求められる「状況適合理論」といわれています。

 

それ以前のリーダーシップ論は、リーダーの特性をもつた人がリーダーになりうるとしていましたが、フィドラーは、状況の変化に応じて、組織の管理方針を適切に変化させるリーダーこそリーダーであるとしています。

 

例えば、営業や製造、研究部門における業務には、それぞれ臨機応変な対応や、規律性、創造性といった性格がありリーダーのあり方も変わるとしています。

 

そして、

  • リーダーが組織のメンバーに支持されている度合い
  • 仕事や課題の明確性
  • リーダーが部下をコントロールする権限の強さ

の3つの状況があればリーダーシップが発揮されるとしているのです。

 

ただ、状況によりリーダーシップが異なるのは理解できるとしても、環境変化により組織自体が変わっていかざるを得ないときにはどう対応するのかを説明できていないし、また、

  • 仕事や課題を明確にする

こと自体もリーダーの役割であるとすれば論理矛盾が起こります。

 

さらに、そもそもリーダーがメンバー(フォロワー)から支持されたり、強い権限をもつためには、やはり

  • 専門性や
  • マネジメントスキル、
  • 人間的魅力

がなければならず、リーダーがどのような(信頼できる)人物であるのかに触れないわけにはいきません。

 

  • 使命感・情熱がある
  • 目的や目標を受容できる
  • 計画性がある
  • 行動力がある
  • 専門性がある
  • 状況把握力がある
  • 包容力がある
  • 責任感がある
  • コミュニケーション力がある

といった個人の特性は不可欠です。

 

そのうえでリーダーが信頼されて、リーダーとして振る舞い活動できれば、組織は成果をあげることができるのです。

 

なお、リーダーシップは、置かれている環境により変化します。

 

安定的な組織、危機的な組織、攻撃的な組織では、リーダーの行動や指示が大きく変わるのは自明の理です。

 

リーダーは、組織が何を求めているのか、いま何をしなければならないのかを常に受容し、柔軟に対応して組織が求めるところに到達できるよう、組織のミッションやビジョンをメンバーに示しつつ勇気づけ、目標を確実に達成しなければなりません。

 

これは我々が、さまざまな業種や組織を見てきたなかで得た結論です。大きく環境が変化する時代、どのような組織や職位にあっても、リーダーやリーダーシップに関する自分の考えを整理しておく必要があると考えています。