よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

組織のなかで、紫の牛を見つけよう!

 

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マーケティングの5Pの観点から自院を分析し、その結果を戦略に活かしている病院は意外と多くはありません。

 

 もちろん、自然に近いことをしている病院はあるとしても、継続的に敢えて5Pの切り口から自院を分析してみることが必要です。

 

 5Pとは、place(場所)、price(価格)、product(製品)promotion(販促)といったマーケティングの4Pと、purplecow(紫の牛)のPを加えたものをいいます。

 

 Purplecowは、絶対なる非凡さということです。辺り一面に緑の絨毯が広がる牧場のところどころに茶色のジャージー牛が牧草を食んでいます。

 

 初めは、生きている牛を間近に見て、「ワオ、牛だー、マジでかい!」と心のなかで叫んでしまうかもしれません。でも、見慣れてくると、なんてことはない、見分けがつかない単なる牛じゃんと気付いてしまいます。

 

 そのなとき、もし紫の牛がいたらどうでしょう、超目立つ。「なんだー」「おーい」といったときのPurplecowです。牧場に来ると何時も目立っちゃう奴ですよね。

 

 ということで、このキーワードで、継続的に自院を分析し問題を発見するし、競合病院をベンチマークし、良いところを真似る、といったことから改革を進めていきます。

 では、これから5Pの説明をします。

 

(1)場所

 病院を建設してしまえば、場所は既に決まっています。なので、従来の考えでは、立地が悪ければダメ、取り返しはつかない、ということになります。

 

 ある地方都市で、街中から山の上に移転したある市立病院について、「なんであんなところにいったんだろう、あれでは患者はいかないですよ」とタクシーの運転手さんが漏らしていたことを思い出します。

 

 しかし、「待つ医療から出向く医療」(待っていても患者は来ない。こたらから患者のところに行こう、という医療)を標榜すれば、また、地域住民の健康で豊かな生活を守るというコンセプトで地域医療を行なうと決めた病院は、自院の活動範囲を広げ、地域に広く医療を展開します。

 今ある病院は拠点の一つでしかありません。

 

 地域に出向いての疾病予防活動や、在宅医療や看護、サテライト(他に開設したクリニック)の運営がそれらです。

 

 患者が来院するのを待つという箱物医療は一部の急性期機能を持った病院以外、既に時代遅れです。

 

 国の政策(病院病床削減、病院から地域へ)を体現する必要があり、「場所」をフレキシブルに考えれば、間違いなく自院の機能を活かすことができます。

 

(2)価格

 日本の医療の場合、一部の自由診療を除き、価格はどの地域のどの病院でどんな医療を受けても同一です。国民皆保険制度で守られているからです。

 

 しかし、医療の質が高く結果として早期治療が完了することで、患者や家族が負担する医療費全体は大きく影響を受けます。

 

 また、ジェネリック(後発品)を使うことや、無駄な検査をしないといったことは価格引き下げ要因とはなりますし、例え、治療を行うときに、他の病院と比して多くの検査や処置が行われても、医療の質が高く、再入院の必要が少ないと評判の病院は、生涯医療費が低く、価格を抑えているということができます。 

 

 なお、新患が多い病院は単価が高くなる傾向があります。そのような病院はブランド診療科があったり、病院自体への訴求力が高いので、患者は多少検査が多く、自己負担を多くしても、それを凌駕する、信頼や安心のために当該病院を選び続けます。

 

 医療の価格は実は病院の医療の質により異なる可能性がある、ことがわかります。

 他の医療機関と価格競争力をもつためには、仕組みの見直しと、技術技能向上により医療の質を上げる、ということも一つの方法です。

 

(3)製品

 病院にとって製品は医療サービスです。医療サービスは病院のなかで提供される役務提供すべてを言います。(2)でも説明したように医療の質が高い、ということが最も重要なポイントです。

 

 医療の質が高く、そして合理的に提供できる病院は地域から尊敬され慕われ、ながく地域医療を推進することが可能となる病院です。

 

(4)販促

 プロモーションはとても大切です。できもしないことを喧伝することはナンセンスですが、実態を十分に説明していない病院がいかに多いことか、と思います。

 

 優れた点を常に開示し、自院がプライドをもって治療ができる状況をつくりあげているかを検証してみることが有益です。

 

 また、プロモーションは口コミでの展開もありますが(実はこれが一番で、よい病院は広告しなくでも患者は万来します。でも、それだけだと網羅的ではないので話を続けます)さらに積極的にあらゆる媒体やセミナーを活用し、これを行う必要があると考えています。

 

 患者を多く集める、質の高い著名な病院は、院内セミナーを毎日のように開催していますが、自院が地域医療に貢献したいという思いが、そのままプロモーションになっている事例です。

 

 とはいうものの、デジタルマーケティングも含め、日本の病院はもっと自院を知ってもらう対応をしてもよいと考えます。

 それが地域住民が健康で豊かに暮らすために不可欠であると、自信をもつのであれば、是非、実行してもらいたいものです。

 

(5)絶対なる非凡さ

 最後のPです。絶対なる非凡さです。自院のこれがすごい、誰にも真似はできないといった絶対的な優れた点をいくつもった病院であるのかについて、調査し、自院はpurplecowをどれだけ持っているのか。

 

 比較優位性こそが、これからの地域で信頼され、訴求される病院であるのかを明確にしておく必要があります。

 

 もちろん、意図的にどのようにPurplecowをつくり、増やしていくのかは病院トップの戦略であり、常に考え実行しなければならないアイテムだと理解しています。

 

 「それってPurplecow?」とか、「君のPurplecowって何?」のようなやりとりがある病院になれるといいですね。

 

 今日な話はどんな業種でも同じです。まとめると

1.打って出る

2.コスト戦略の明確化

3.仕事の質を上げ合理的な仕組みづく

4.相手を想い、自分たちが必要なことを伝える

5.誰にも絶対に負けないものをつくる

ということでしょうか。

 

 コロナの今だからこそ、臥薪嘗胆、捲土重来の思いをもち、新たな気持ちで5Pをベースにマネジメントを行っていく必要がありそうです。