花は自らが咲く力をもって咲いています。誰からも無理やり咲かされるわけではありません。
大自然のなかで野山に咲く花は、手を加えないでもその場に合うかたちで見事に花を咲かせます。ただ、我々が自宅や人の集まる場所で見る花や、誰かに贈る花はほぼ人工栽培の花ですね。人工的に栽培されている花は農家でつくられます。農家の方が花を一本一本咲かせているわけではありませんが、温度や水、植え方、養分といった条件により咲き方に影響を受けることは間違いありません。
栽培農家が環境をどのようにつくりあげるのか、またフォローをどのように行うのかにより、花の咲き方は異なります。そして綺麗に咲いた花は、花屋を通じて誰かのものになり花束や生け花になります。
美しい花たちを見ると心が癒されますね。
花を生けるという意味は、大辞泉によれば、「眺めて楽しむために花や枝などを形を整えて花器や瓶に挿す」ことをいうのだそうです。「眺めて楽しむ」。よいフレーズですね。
企業でいえば、企業トップが、しみじみ「あ~当社にもこれだけ多くの人材が育ち花が咲いたものだなぁ」と、社員をみて感慨深い気持ちを抱くようなものです。
先日ミーティングをしているなかで、赴任してしばらく経つ部長が「ここにに来た当時はとても雰囲気が悪く、会議などでは誰も発言しなかったが、自分が率先して行動することで、社員もだんだん慣れてきて積極的に発言するようになった」と、嬉しそうに話されました。
まさに、環境を整えて人心を変えていきたい思う部長の思いが具体的な行動になり、社員のもつ積極性や能動性という才能を開花させ成果を挙げた事例であると思います。
前述したように社員は花のようなものです。彼らが咲きほこる環境を整え、それぞれの花がもつ輝きを引き出していくことがリーダーの役割です。環境づくり、評価や指導を怠ってはいけない所以です。
社員は個性を持ちながらも一人残らず「自然に育つ」潜在能力をもっています。しかし、それを引き出すのはトップマネジメントであり、それぞれの部署のリーダーです。
一人ずつの力を引き出すために一人づつへの対応を行うだけではなく、仕事の仕組みの改善や適切な教育を行うことで、組織として社員に力を発揮してもらえるようにしていくことがマネジメントなんですね。
そして一つひとつの花を咲かせるだけではなく、花の色や香り、形など、その場に合った花を束ね、誰もが感動する美しさをつくりあげていくこと。それがリーダーシップなんだなと、改めて知る思いでした。
それぞれの花だけではなく、この花たちは、どのように育てられ、どのようにここにきて、そしてどのように組み合わせられてここに活けられているのか、そして花束になっているのかを俯瞰する視座も必要ですね。
組織の目的を明確にして、ビジョンを明らかにする。そしてそれを達成するためのあらゆる事項を議論したうえで、適切な環境をつくりあげる。仕組みであったり、教育であったりの対応を行うことで職場にきれいな花が咲く。そして、どのように束ねれば、また活ければもっともその花たちのもつポテンシャルが引き出されるかを考える。
すなわち、リーダーは自分も含め花を咲かせることに全精力を注ぎ自らを鍛え、そのプロセスにおいて部下を育成し、きれいな花を咲かせることが仕事ではないかと思います。
なお、花は栄養を与えなければ大きくならないし、また長く咲き続けることはできません。社員も同じです。社員にとっての栄養とは、本人とベクトルを合わせた目標の設定であり、その支援、成果による評価や処遇です。
そのことで達成感や満足感を得たり成功体験のなかで自信をつけ生き方、仕事の仕方を変えて成長するのです。
このような花は宿泊するホテルのロビーによく飾られていますが、花一本一本の美しさだけではなく、全体として花を活けた人の気持ちによりつくられた美が、ダイレクトに心に沁みてくる、そんな思いが伝わる生け花だと思います。
人が2人集まれば組織であるといわれます。何の手をかけなくとも自らの力で自然に(勝手に)育つ花もあるでしょう。しかし部下のうち指導育成しなければならない部下に対しては、彼らを慈しむようにリーダーが養分を与え育成する必要があります。
大変なことですが、のちに育った彼らを眺めながら、自分を振り返り、指導はうまくできたかどうか、十分に彼らの潜在能力を引き出せたのかを自問し、次に繋げることが必要です。
組織支援の仕事をしている限り、私たちはリーダーの横にいて、少しだけでもよい花に成長の糧となる、栄養のほんの一部を提供する仕事ができたら良いと密かに思うのでした。