よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

成長プロセスの要諦


人が成長するときにどのようなプロセスを経るのかについて考えます。ここでの成長はいうまでもなく、人が物理的に育って大きくなることではなく、「思い描いた事柄を会得したり身に着けること」言っています。

 

長年お付き合いしている周りの人々が、何かに自信をもって取り組むようになった過程を振り返ると、そこには同じような一定のプロセスを踏んでいることが分かります。

 

そこでの人の成長プロセスのポイントは次のものであると考えています。

  1. 情報
  2. 知識
  3. 行動
  4. 経験
  5. 知恵
  6. 行動
  7. 修正
  8. 叡智

何かを成し遂げるために、人は、まずあることに対する情報を誰かに教えてもらったり自分で調べて集めます。思いつきや感覚だけで何かに精通することはあり得ないし、気持ちや思い例え信念があったとしてもそれだけでは前に進めません。さまざまな関連すると思われる情報から焦点を絞り知りたいことを抽出する段階です。

 

知識とは「あることについて知っている内容」をいいますが、本当の知識は単に「あっそれ知っている」というレベルではなく当然ではありますが「何かについてよく理解している」ことをもってこそ本当の知識であると言えます。

 

理解するというのは、その意味するところを飲み込むことだとすれば、表層的な状況ではなく少なくともそのことについて体系的に説明ができるものでなければならないと考えているのです。

 

そして行動です。知識を持って行動しなければ対象となる事柄を会得したり身に着けることは困難であり、机上の空論に終わります。あれこれ思い描くだけではなく、行うべきことを行うため実践により関連する知識を増やしたりそのものの理解を深めていくのです。

 

経験を積み自分の理解が正しかったのか誤りであったのかを確認し、ノウハウを身に着ける機会です。経験を積めば積むだけ知識は知恵になり、活き活きとしたものに変化します。

 

知識が進化し実践的かつ実務で効果的に使えるものになるのです。応用が効くし物事に柔軟に対応できるようになります。

 

機を捉え自ら求めて積極的に行動を起こし、さらに自分の理解に磨きをかけたり、一部の見直しや修正をかけることにより、本当の意味で「思い描いた事柄を会得したり身に着けること」ができます。

 

この段階で知識は知恵を経て叡智となります。

 

叡智は「物事の道理に深く通じる才能や知恵」をいいますが、ここまでくると例え小さなことであっても他に優位性をもつプロフェッションとして行動できる、と考えています。

 

なお、このプロセスは平たんではなく、また一直線ではありません。右往左往したり紆余曲折を経て蛇行しながら挫折を乗り越え、やっと得られる道だと思います。思い描いたことが思い通りにならないことも多く、犠牲を払いながら最期まで達成できないこともあるでしょう。

 

達成できたとしてもそこに至るまで上記各場面で多くの人々の協力や支援があり成立する性格のとのであるのはいうまでもありません。会得したい事柄にどれほどの思いや信念があるのか、周りを引き込める力を得るために、人として成長できているのかも重要なテーマですね。

 

少なくとも、何かを成し遂げるためには「思い→情報→知識→知恵→叡智」の5つのプロセスアイテムを意識し行動していこうということです。成長プロセスの要約ができました。

 

ただ、こうして整理を終えてみると自分にはできていないことが沢山ある事に気付きます。再度自分の事にあたる姿勢や行動を見直し、最期まで、できる限りのチャレンジを続けて行きたいと思います。

教育システムはどこにあるのか

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教育には3つの柱があります。

 

一つは職場内教育であり、二つ目は集合教育、そして最後が自己啓発です。

例えば看護部におけるプリセプティングは職場内教育であり、しっかりとしたチェックシートによって行われますし、卒後研修やラダーなどで、現場で必要な事項が教育されます。同じようなことはマニュアルやチェックシートを使い、コメディカルでも実施されていることが多くみられます。

 

もっとも教育ができていないのが事務部です。たとえば受付業務についてはマニュアルが整備されたり、接遇についての学習が一人ひとりに行われたりしますが、基本的にマニュアルもあまり整備されていないことが通常です。

こうしてみると、患者に接点をもつところにおいてはより繊細な対応が求められるため、また、特に技術を要する部署においては間違いが命取りになるためマニュアルが整備されたり、教育のシステムが必要な理由が分ります。

 

情報管理やシステム、経理や総務、営繕や購買、経営企画といったところでは、患者に直接関与するものでもなく、したがって意外と一子相伝のようなかたちでノウハウが引き継がれていくといった傾向があります。

しかし、実際には標準化できる業務も多く、また事務部でも高い技術を要求されることが多数あり、他部署のスタッフに自部署の業務を理解してもらうことをも含め、マニュアルやチェックシートによる職場内教育が徹底されて行われることが必要であることはいうまでもありません。

 

たとえば購買ですが、単にオーダーがでて何かを購入するのではなく、担当者には取引先の選定の準備や、在庫経済発注点分析、基準在庫の設定に関する理論が必要ですし、集中購買や分散購買によるメリットを科学的に管理することが求められていたりします。

 

さらに在庫管理においては実態調査によるアイテム絞り込みや、消耗品の場所別使用制限や質を見たうえでの使用管理、もっといえば場所別帳簿在庫の管理、棚卸による差損や無駄の排除といったところにまで指導を徹底する必要があります。

 

これらは生半可な知識ではなく、しっかりとした考え方を理解したうえで、具体的な行動管理に結び付けて行く必要があり、ナレッジをしっかりと伝えていくためにも体系的な教育が求められるものです。

営繕においても、部門別損益計算との兼ね合いによる物品、設備の投資計画に基づいた適切利用誘導や、外注先管理、業務の進捗管理および開示、現場教育によるコスト低減などの業務を行うことが求められています。

 

同じように総務でも経理でも、いわんや経営企画においても、まさに機能セクションとしての技術集団なりの教育が徹底されなければなりません。

 

そして集合教育は、何かよいセミナーがあるから聞いておいてといった類いのものではなく、職場内教育で不足する知識やノウハウを、院内で徹底して習得してもらうために実施されるものであったり、病院としての導入が必要であるため組織として体系的に学習し、ナレッジ化するため、あるいは具体的な行動に結びつけることを前提として外部のレクチャーを受けるものです。

 

院内の集合教育は職種間での交流や知識の共有のために実施される側面もあり、コミュニケーションを組織単位で考えたうえでの組み立てが必要だといわれています。

ある医師が留学していた病院で、医局以外の他の部門の集合教育のタイトルやコンテンツが常に掲示されていて、他の職種に参加を求めるためのコメントが提示されていたと述懐されていましたが、このように職種を跨いだ学習の機会を組織が意図的に提供することが必要です。

我々はそれをカフェテリアプログラムと呼んでいます。さまざまなレベル別時間帯別ノレクチャーを院内で設け、職員に参加を促すものです。

 

参加者にインセンティブをつけて相互教育を促すということだけではなく、学習機会を多くもち、力をつけた職員を評価し処遇に反映している病院も散見されます。

いずれにしても、外部集合教育の資料を以て報告会を開催するだけではなく、それを敷衍化し、どれだけ院内に徹底できるかといった視点での教育を行うべきであるし、また、そのための外部研修を企画しなければならないと理解する必要があります。

 

そして自己啓発。職場内教育を体系的に行い、そして不足するところを外部や内部の集合教育のカリキュラムで学習。さらにそれらを自分のものとするために自己啓発を行うというストーリーがあります。

したがって、自己啓発のテーマは自分で設定するのではありません。

病院として必要なテーマを個人個人の学習必要性に合わせて設定し、そのうえで個人の技術技能レベルを高めていくという方向で、自己啓発を捉える必要があります。

 

自己啓発は自分で主体的に取り組むものの、客観的な目で自分に不足するテーマの選定支援を受けるという考え方を採用しなければならないのです。

このような3つの教育が正しく整備されているのかについて十分に検討することが求められています。

 

なお、教育は評価の帰結であり、標準と現状の乖離を埋めるための組織活動であることを忘れてはなりません。

したがってマニュアルにしても、リスクマネジメントにしても、あらゆる活動や業務改善、職務基準、職能要件にしても、そして目標管理であってもすべて標準(到達点)と現状の差を発見(評価)し、それらを解消するために教育が行われるという考えかたをもたなければなりません。

                                                                                                                   

標準や評価がない教育はありえません。病院として、組織として職員に、どこまでの知識やスキルの習得を行ってもらう必要があるのか、どのような人材が必要であるのかといったところが設定されていることが教育の前提であり、その観点から教育システムが構築されなければなりません。


自院に、病院として企図された教育システム、それを担保する評価システムがあるかどうか、見直しをしてみる必要があります。

宇宙の心に抱かれて生きる

2009年に書いた記事です。さまざまな事が起こっている今、古くて新しい感覚があります。

 

「夜遅くニコラスケイジ主演のノウイングという映画を見ました。地球の運命は決まっていて、それを人間は阻止できない。死ぬことは避けるのではなく受け入れる。

 

そもそも地球は誰がつくったのか、なぜ存在するのか、いつまで存在し続けるのかを意識しないで皆は生きている。しかし確実に最後はやってくる。

ただ、それは宇宙でいえば小さな出来事、「これは終わりではなく始まりだ」的なことをニコラスケイジの神父である父親はいう…。ニコラスケイジが、I am knowing(アイムノウイング)という映画です。

基本的に、人間は誰がつくったのか。どこからきたのかを問うものです。もちろん地球上に生物や人類が誕生し、それが進化して現在にいたっているのは理解できますが、宇宙はだれがつくったのか。宇宙はなぜあるのか。はじはどのようになっているのか。他に天体があり、どのような生物が生息しているのか…。などなどわからないことばかりで、考えが及ばない世界です。

そもそもすべてを分かろうとすることが無意味なのだとあるとき気が付きました。結局は人は、宇宙の心に抱かれて生かされているのです。

 

生かされているのであれば活きなければならない。であれば、何をするのか。享楽や利己に走るのではなく、自分を犠牲にしても何かを残すことが使命なのだということがそれです。

聖人ではないので、自分をすべて犠牲にして他者のために生きると心から言えるはずもなく、結局は俗人的で、しかしそうではないところに近づくことが目標になったのはいつからか、とときどき思います。

活かされるためには、懸命に働くことが必要だという結論は揺るぎのないものであると納得しています。   

 

ただ、ときどき仲間で「何のために懸命に働くのか」という議論になります。答えは多様でとりとめもありませんが、「生きる価値を見出すため」という答えが帰ってくる人も多く、少し安心した記憶があります。

宇宙から見た地球は清く、美しく、透き通った色をしているようです。何かを地球の上から見れないためいつも少しでも上から見てみたいと思います。

 

映画館を出て、エレベーターを待つ窓から見ると、随分と街が進化し、大きく、そして思った以上にきれいであることがわかります。宇宙の心はもてないけれども、ビルからみる景色の大きさ程度の心は、努力してなんとか持ちたいと感じました(傲慢な感じですが…)。最期までこんな葛藤の中で生きていくのが人間なのかも、と納得できた帰り道でした」。

 

この記事を書いてから既に13年も経過していますが、まだまだ満足できる自分でない事を思い知らされます。きっと最期まで到達出来ない永遠の努力目標なのかもしれませんね。

診療所の戦略ツール

これまでに行ってきた診療所セミナーのタイトルの一部。考えてみればいろいろなテーマがあるものですね。
 

  • 短期利益計画シミュレーション
  • 中期事業計画立案
  • 患者DB(データベース)づくり
  • 競合DBづくり
  • 銀行、会計士、生保、MR(MS)、メディア等外部スタッフ活用方法
  • 資産形成プログラムの実施
  • 地域浸透戦略について
  • 時間帯及び曜日検討
  • 治療内容の拡大
  • 診療科見直し
  • 診診連携
  • 診療所ユニット化の検討
  • 診療所ユニット化の運用
  • 地域医療活動への展開
  • 介護事業への進出
  • 高齢者専用賃貸住宅の保有
  • 地域ケアマネとの連携
  • 病診連携
  • 健康倶楽部組成及び運用
  • 「絶対的に目立つ非凡さ」の確保
  • 販促ツールの見直し
  • プロモーション
  • アメニティの見直し
  • 訪問看護ステーションとの連携
  • 訪問看護ステーションの運営
  • 目標管理制度運用
  • 業務棚卸チェックリスト化
  • マニュアル作成及び運用
  • 本来の接遇
  • 仕事の進め方の研修実施
  • 業務改革推進

患者からみれば、診療所は地域の守り神的存在。薬局(OTC)と診療所があることで、具合が悪いとき、どれだけ助かった気持ちになったことか。自分が行きたい診療所づくりのために、さらにどのようなテーマがよいのか考え続けていきたいと思います。

 

最近のウェビナーでは

  • 診療所繁栄の10原則、
  • 開業運営に失敗しない7つの法則、
  • 失敗事例から学ぶ5つの成功原理
  • 勝ち残るクリニック経営7つの戦略

など、怪しい感じの?テーマにしていますが、上記の経験から得られたものを整理できてきた結果と納得しています。とは言え大して内容は変化していない事に愕然とします。そもそも長い間診療所運営(経営)の方法が変化していないということなのでしょう。いずれにしててもDX化やSNSをテーマ―とした対応や、職員の自立を促しつつ、「待つ医療から出向く医療」への転換をキーワードとして時代に合ったマネジメントへの転換が必要なのでしょう。クライアントから学びながら、これからも本質を見いだせるよう精進していきたいと思います。

生命体へのエネルギー供給源

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朝陽に出会うとなぜ心が安らぐのだろうと、ときどき考えます。その程度は季節によるとしても、ガラス越しでもそうでもなくても陽を浴びると、焚き火に手をかざすときのように暖かさを感じます。

 

その暖かみがただちに心に伝わり落ち着きを感じるのでしょう。物理的にも精神的にも人は暖かさに癒される生き物なんですね、きっと。

 

そのずっと以前から存在していた太陽は、人類がこの世に生を受けてから気の遠くなるほど長い間、照り続け、安らぎを提供し続けています。

 

人類にとって、漆黒の空が地平線から少しずつ薄くなり、そして太陽がゆっくりと顔を出し徐々に辺りをオレンジ色に染める朝を迎えることは、とても大きな喜びであったのではないかと思います。

 

文明が進み技術が進歩した今でも、その感覚は変わりませんが、当時は新しい朝が来ることへの渇望や、明るくなることで活動できる喜び、また狩り(仕事)をして空腹を満たす満足など、太陽への感謝の気持ちは筆舌に尽くせないものがあったのではないかと想像もします。

 

大型爬虫類への恐怖が引き継がれ、トカゲに出会うとドキッとする人がいるように、陽の光への憧憬が遺伝子レベルで蓄積され、無意識のなかに安心を覚えるのかもしれません。

 

今では、太陽の光を浴びるとメラトニン(眠気物質)が減少したり、ビタミンDを活性化するだけではなく、セロトニンが活性化し幸福を味わえること、そしてストレスをなくすことで遺伝子情報を保つDNAを保護するテロメアを短くするのを抑制し寿命を延ばす効果もあると科学的に証明されているようです。陽光は間違いなく身心によい影響を与えるんですね。

 

どのような理由があるにしても、太陽の光を浴びる機会を多数つくることはとても幸せになることであり、力が出ることなのは間違いがありません。

 

なぜ存在するのか分からない広い宇宙、太陽系の地球に生まれ、こうした機会を得ることができることをとても感謝をしています。

 

太陽の光を浴びたい一心で私は早起きを厭わないのかもしれないと考えることもあります。

 

とは言え、コロナで出張が激減したことを免罪符に実際には怠惰が勝って、思い通りにはいかない昨今です。いつかまた平和な時代が訪れ出かける機会が増えて、生かされている身としてエネルギーを得て使命を果たせるよう、早起きできることを心から祈っています。

 

病院のサステナビリティ

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組織であれば、それが医療を生業(なりわい)としていたとしても運営における経済合理性を考えなければなりません。

 

平均的なトップは、適切な倫理観をもち病院を経営しつつ利益を出さなければ、キャッシュを得ることもできず、結果職員を雇用し続けることや設備投資ができないことを理解しています。

 

良い医療を行っていれば利益もついてくるという古典的な考え方で病院運営を行っているトップもいますが、それではうまくいきません。

 

もちろん利益は患者評価の証といえるので、病院は地域や患者から評価される、総合的な医療の質向上への取組みを欠かすことはできません。

 

構造的に利益を出す仕組みをつくりつつ、同時に医療の質を上げるというながれ、そして補足的に医療の質向上により生産性向上を得て利益を出す、というながれをつくりだす必要があります。

 

常に医療の質と財政のバランスをとる運営が求められる所以です。

 

病院を訪問して、つくづく思うのは現場の思いと経営サイドの考えの相違です。

 

現場にはときに想像を絶する忙しさがあり、時間がない、手当てが欲しい、人を増やして欲しい、システムや機器が古いので更新して欲しい、職場環境の整備をして欲しい等、といった現場の強い思いがあるのはよく分かります。

 

ただ本来は、職員は現状を所与として、職員がどうスキルを磨くのか、どのように改善による生産性向上を図れるのかを考え、また投資を行うときにはその必要性について十分検討し、採算分析を行うことで結論を出し、経営に提案しなければなりません。

 

多くの場合、職員にはその発想がありません。経営サイドは、現場の声に耳を傾けて客観的かつ合理的に状況を分析し、現場への適切なアドバイスを行い、現場にある本質的課題解決を行う必要があります。

 

もちろん、経営サイドにマネジメントの発想がなく、やみくもな経費削減を行うだけでは、現場は不信を募らせ持てる力を発揮できません。

 

必要なのは、現場の納得できる、しっかりした考え方や合理的な発想に従い病院経営を行うことです。そのことにより職員も経営サイドを信用し、信頼して仕事ができるようになります。

 

職員がやる気になるためには、次の要因への取り組みが必要です。

  • 前向きな組織文化
  • 自分が受容できる夢のあるビジョン
  • (自分と無関係に)成長する組織
  • 自ら成長できる機会の提供
  • (自分と関わり)成長する組織
  • 達成感を得られる組織
  • 尊敬できる上司の存在
  • 前向きで相手の立場に立つ仲間
  • 成果に高い評価を得て感謝されること
  • 自らの成長に応じた処遇

 

そして何よりもそうした環境をつくるガバンスの仕組み

  • ビジョン
  • 中期経営計画
  • 事業計画
  • 経営方針
  • 予算統制制度
  • 目標管理

といった体制のマネジメントのなかで、あらゆる制度整備が適切に行われるとともに、PDCAが継続され、「決めたことが必ず行える」文化がつくられる必要があります。

 

これらは当たり前のマネジメントのフレームワークではありますが、なかなかできていないところが多いのも事実です。

 

先ほどの職員の「時間がない、手当てが欲しい、人を増やして欲しい、システムや機器が古いので更新して欲しい」という思いも、上記の仕組みや文化のスクリーニングが行われたのであれば、より現実味のあるニーズとして捉えることができると考えています。

 

良い医療を行うことは病院の使命であり、徹底的に追及すべきものです。一つでも比較優位性をつくり、価値を高めていくことが必要です。しかし病院の利益、財政を同時に考えたうえでの、良い医療であることを忘れてはなりません。

 

益々厳しくなる医療環境において、経営サイドはいうまでもなく、職員においても冷静かつ合目的的に議論を行い、常に「医療と財政のバランス」を念頭に行動しつづけ、持続可能性、すなわち継続的に社会貢献できる状況をつくりあげなければなりません。

 

教育カルテ運用のレクチャー

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我々は過去、理論に裏付けられ合理的に設計された、多くのフレームワークやマネジメントツールの開発を行ってきました。その中の一つ、職場内教育に使う「教育カルテ」についてレクチャーを行ったときの資料をご紹介します。

 

医療では患者の治療にカルテが使われます。医師のカルテはSOAP(ソープ)と呼ばれる記載の形式になっています。これは問題指向型診療録(POMR=Problem Oriented Medical Record)の一つです。問題志向型医療(POS=Problem Oriented System)の考え方によって得られたデータを内容ごとに分類・整理した上で、S(Subject)、O(Object)、A(Assessment)、P(Plan)の4つの項目に分けて考える分析手法です。

 

患者の主訴(訴え)や状況・病歴をみて、診察や検査を行いデータを集め、評価します。その結果治療方針を決め治療に入る、という医療活動を記録するのです。

 

さて、病院改革を行うにあたっては、各部署で個人に光を当てた教育を行うことが必要です。個人の教育を的確に行うためには適切なツールを用意しなければなりません。そこで、患者の治療にカルテを使うように、職員の課題解決のためにカルテを使うことにしました。職員教育のためのカルテを教育カルテと名付けました。

 

職場内教育では教育カルテ(A)を、そして集合教育については教育カルテ(B)を使います。以下その使用方法について説明します。

 

本来は、教育の標準があるなかで職場内教育が行われることが必要です。標準がないとXさんが教える内容とYさんが教える内容が異なり、どの上司についたのかにより教育のレベルが異なることがあるからです。XさんとYさんの教育内容を一致させることが必要な理由です。

 

教育の標準としてはマニュアルやチェックシート、職務基準などがあげられます。

 

現実にはすべての標準は整備されておらず、組織として「各職種はこの知識が必要である」といった基本レベルすら存在しない病院が多くあります。

 

一般的な職場内教育は、上司が気付いた点について上司が本人に指摘をして修正するという、いわゆる教育が不連続に行われている現状です。組織を運営するときに、最低限必要な指導だけが日々行われ職場内教育が実施されています。

 

なので現状に合わせ、まずは少なくとも指導した内容を、上司や教える者そして部下や教えられる者が相互に記録に残し、課題を管理するところから始めます。

 

しかし、徐々にマニュアルやチェックシート、職務基準などの標準を作成し、本来の形にすることが期待されます。

 

ということで、教育カルテを職員全員の職場内教育の道具として活用します。

 

教育カルテ(A)が職場内教育の道具になります。できていないことを上司が発見し、本人とOne on oneにより、できていない項目を5つ上げます。本来は、マニュアルやチェックシート、職務基準により、できていないことを探しますが、前述したように貴院にそれらが十分に準備されていない場合には上司が本人をチェックし、課題を抽出します。

 

上司が本人について、できていないこと=課題を発見し、5項目を教育カルテ(A)に記載します。この場合着眼として例えば、①態度・姿勢[協調性、規律性、責任性、積極性]②手技・技術③コミュニケーション④指示されたことに対する成果といったことが対象となります。

  

「あなたは、〇〇ができていないと思うけど、どうですか?」という聞き方をしながら部下と話し合い、課題を5つあげることになります。この場合には、数多くあげたとしても優先順位の高いものを絞り込むことで、5つの課題を決めます。

 

積極的な部下であれば、これができるようになりたいので教えてくださいという依頼があることもあります。このような部下が生まれる風通しのよい、前向きな風土をつくることができれば、教育カルテはより成果を挙げられますね。

 

(事例)

  ・仕事に対して積極性がない

   →もっと、前向きに質問をしたり、行動を迅速に行う必要

  ・期日を守れない

   →決めた時間を守るようにする

  ・一つのことに時間がかかる

   →技術の見直しを行い、障害になっているものを排除

  ・報告がない

   →指示したことの結果を常に報告して欲しい

  ・内容が伝わる文章になっていない

   →文章の書き方ができるよう訓練しよう

  ・〇〇の手技がいつもうまくできない、時間がかかる

   →手順や留意点を確実に把握し、練習をして正確かつ迅速にできるようにする

 

上記課題を抽出したら、修得目標・スキルアップ欄に記載します。また、教育担当者を決定し、担当者はサインします。課題を抽出した上司が個人担当になるケースもあるし、また、他の者でその課題解決に長けている者が個人担当者になるケースもあります。それは評価をした上司が決めればよいと考えます。

 

さらに、いつまでに修得するのか、上司と本人で話し合い、期日を決めます。期日は1ヶ月がマックスになると思います。1ヶ月で解消できない課題はないと考えています。1週間から1ヶ月の間において、修得年月日を決めます。なお、確認レベルですが、現状がどうなのかを評価し、目標を設定します。

 

 A…完全にできる

 B…一人でできる

 C…支援すればできる

 D…まったくできない

 

といったレベルのどこに現状あるのかを評価し、被評価者の合意の上、目標を設定します。現状が、Dであり、目標をBとするといった具合に目標を決めます。それは評価基準がないときには主観的になりがちですが、まずはそれを決めて、活動を開始します。

 

一定期間の経過後に、評価者が個々の項目を評価します。評価日を記載し、評価者が押印したうえで、確認レベルの到達欄にどうであったのかを記載します。もちろん、目標をクリヤーできないうちは継続しますが、目標と同一、あるいは目標を超える成果が挙がった段階で、当該項目は目標から外れます。そのときには、コメントを記載し、どのような状況であるのかについて個人担当者、あるいは評価者が記入します。すごく頑張り良い成果、とか、まだまだ定着に時間、といった記載をすることになります。

 

以上、教育カルテ(A)を使い、まずは上記の作業を行い、各職員の教育課題をカルテに落とし込み、それを解決するために活動を開始して下さい。課題の拾い方がうまくいっていなかったり、課題が大まかになっているとか、当初はいろいろ問題があったりはしますが、まず記載をしてみて実行し、その結果をもって修正をしていければと考えています。

 

できたことについては、線を引いて教育カルテを保管します。対象者(被教育者)は「過去できなかったことができるようになった」「こんなことも昔はできなかったんだ」、といったことを振り返りながら、自分の成長に自信をもてるようになります。もちろん教える側の教育担当者も、自分の指導により部下ができるようになったことに満足できます。教育カルテが課題解決の履歴、自信の源泉になる瞬間です。

 

集合個人のためには、教育カルテ(B)を活用します。内外の集合教育の記録を記載して管理します。集合教育は、本来、職場内教育で不明な点を理解するためや、新たな学習を行い、院内に取り入れる(資格をとることもここに含まれます)ためにこれを行うものです。

 

また、自己啓発は、職場内教育、集合教育でもさらにできないことを自分で学習することを目標としています。それについても、病院が指示をしてこれを行うことがあればその結果を記載することになります。

 

上記をよく理解したうえで教育カルテ制度をスタートします。途中で理解できないことがあれば、皆で議論をしながら作業を進めていっていただければと考えています。個人に光を当てた教育を行うための簡単なシートです。

 

なお、教育カルテは目標管理における本人課題解決のためのOne on oneに活用する病院もあります。カルテを活用し、一人ひとりの職員をあるべき方向にどのよう導いていくのかについて、上司は真剣に考えなければなりません。