「イノベーションの作法」という本を読んでいます。ナレッジマネジメントの野中郁次郎と勝見明が著者です。この本は、過去の常識にとらわれずブレークスルーを行いイノベーションをした事例をいくつもあげて、その背景に流れるものを整理し体系化しています。
ケーススタディとして、少し古いですが、マツダロードスター、サントリー伊右衛門、北の屋台、近大水産研究所クロマグロ完全養殖、新横浜ラーメン博物館などがあがっています。まだ途中なので、これから何がでてくるのか楽しみですが、まず一瞥して把握できることは、
- 情熱をもつ
- 新しい発想をもつ
- 組織をつかう
- 諦めない
ということです。
とにかく、何かを成し遂げた人の仕事の仕方は生半可ではありません。すべてを仕事に集中し、ありとあらゆる角度から考察し、新しい価値を生み出している。
何かを決めていくきっかけは、必然のこともあるし偶然のこともある。しかし、ぶれない情熱から生まれる気迫がそれぞれのケースにはみなぎっています。
新(新しいタイプの意)イノベーターの条件を著者は、
- 真・善・美の理想を追求しつつ、清濁併せのむ政治力も駆使する
- 場づくりの力を持つ
- ミクロの中に本質を見抜く直観力とマクロの構想力をもつ
- 論理を越えた「主観の力」を持ち「勝負師のカン」を磨く
といったことをあげています。
特に清濁あわせのむ政治力やマキアヴェリ的(どんな手段や非道徳的な行為であっても、結果として国家の利益を増進させるのであれば許されるという考え方)なリアリズムに注目し、また個人の主観や直観、感情、勝負師のカンといったノイズ的なものが重視されるとし、帰結として分析至上主義に決別をという文脈になっています。
実は戦後日本が復興したときの経済発展は、松下さんにしても盛田さんにしても、あるいは稲盛さんにしても、本田さんにしても、そして村田さんにしても潮田さんにしても、そして伊藤さん、安西さん、池谷さん、江副さん、飯田さんにしても、そうしたところから事業を興してきたと思います。
そののちMBA的なマーケティングや競合分析を主体とした商品、ものづくりが跋扈するようになり、何かを生み出すときの原点から乖離したものづくりが行われるようになってきたのではないかという仮説が著者にはあるのでしょう。
もちろん全的に否定は出来ないとは思いますがら濃淡はあれ、分析的手法だけでビジネスが成り立つわけでもなく、実はありとあらゆる事業を作り出した人たちは、皆多かれ少なかれここであげた条件をもった新イノベーターであったのだと考えています。
そうではないビジネスは成果をあげられないということを、私たちは現場で毎日のように見ています。
- 情熱をもたない
- 新しい発想がない
- 組織をつかえない
- 諦めてしまう
という経営者達です。
彼らのビジネスは、NO2や組織に支えられてなんとか維持できているものの、トップがそれでは早晩ダメになることは明らかです。
こうした人達に共通することは次のことです。
- 唯我独尊である
- 感動しない
- 組織を動かせない
- 移り気である
そもそも、ビジネスはシャープで、リーン(ムダのない)で、きれいな形をしていて、論理的で、ロジカルで、モデルに依存して、かたどおりに行われているものではありません。
一定のルールやフレームワークはあるものの、いつもどろどろしていて、トップの戦略や異能のスタッフのなかから生み出されています。
組織に異能の人がいても、彼らが活かされていないことがありますが、大きな組織であれば分母が大きい分だけ、彼らが活かされる可能性は高くなります。
中小企業にはそうした人たちがそもそも少ないのと、分母が小さいので、やはりトップが切り開いていかなければならないのでしょう。
いずれにしても、科学的な分析手法だけではうまく成果をあげていくことができないのだと思います。
著者も13のケースをあげて整理をしていますが、他のありとあらゆる成功ケースを分析してみると、ここであげた条件をほぼクリヤーしていることが解ります。
私も今の仕事での戦略構築や仕事の進め方について疑問をもち小さな変革をしてきたつもりでしたが、この本を読みつつあるなかで、まだまだ突き詰めていない、あるニーズがあったときに、さらに画期的なアプローチやサービスを開発していかなければならないのだと、より強く認識しました。
人は、何かを求め続けて一生を終わるとすれば、常にイノベーターとしてあり続けられるよう努力しなければならないのだと思うのでした。