よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

患者が目の前にいれば医療は成立する

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多くの病院で、理事長や院長に高い組織マネジメント(以下マネジメント)スキルをもて、というのは難しいことです。彼らは医師として十分に成果をあげ、いまの地位に存在しているからです。

 

トップマネジメントがマネジメントに長けていればどの病院でも大きく変わることができますが、現状で良しとしてきていれば何も変わりません。

 

もちろん、マネジメントに長けた理事長や院長もたくさんいます。彼らは興味や必要性に迫られてマネジメントを学習し、自ら経営者としての資質を身に着け、経験し、学びそして一流の病院経営を行うことができるリーダーとしてその地位を固めています。

 

しかし、その場合であっても、やはり側近に優れた事務長や副院長がいなければ成果をあげることができないケースもあります。

 

良い人を採用できるのは、運であるという経営者がいます。確かにとても優れたスタッフに出会うのは運もあると思います。ただ、実際には良い人材は病院やトップの運が引き寄せるものというよりも、なんとかしたい、もっと良い医療を行いたいというトップの思いが伝わり、自然とあるいは必然として、適切な人が集まってくると考えられます。

 

医療は「労働集約的知的産業」であるといえます。

 

人がすべてをつかさどり目標を達成します。仮に組織がなくても、設備がなくても、思いを持った医師やスタッフがいれば、何とか治療をしたいと願い、活動するでしょう。

 

東日本大震災のときの日本中から集まった医師が、同じく集まった看護師と連携しリーダーとなって、自然に皆で意見を出し合い、限られた時間のなかで最大の成果をあげたいと協力し、他のコメディカルとともに成果をあげていました。レントゲンもない、検査もできないなか、経験を活かし、仮説を立て、できる範囲で検証しつつ、診断を行い、そのときのベストの治療を続けていたのです。

 

医療人として、使命感に突き動かされ目の前の患者を助けることだけに注力した、尊い医師や看護師、コメディカル、事務職の人々がそこにいました。

 

医療は医師がいてスタッフがいれば、ある程度の成果を挙げることができます。いわんや医療機器があり、医師の診断のエビデンスがとれ、十分な薬剤や医材があり、滅菌された機材があり、道具があり、そして手術室があり麻酔医がいれば手術もできます。医療は組織マネジメントがなくても当然のように結果を出せるのです。

 

しかし、だからといってそれらの医療行為や医療周辺行為が持続できる経済合理性を持っている訳ではありません。

 

ガバナンスやマネジメント(システム)が脆弱だと、経営資源をうまく使えないことがあります。

  • 人を育成する、
  • モチベーションを継続する、
  • 時間や情報をうまく管理し合理的な医療を行う、
  • 無駄なコストを使わない、
  • もっとも有効な治療を行う、
  • 地域の環境変化に柔軟に対応する
  • 重点的な投資を行う、
  • 留保を行い、将来の処遇改善や投資に備える

ことができないのです。

 

結果、医療は行えても長い目で見ると組織を適切に維持することができなくなります。「当院は皆一生懸命に医療を行なっているから大丈夫」というトップの言葉は正しいことも正しくないこともあるのです。

 

医療が日々真面目に行われていることをもって医療資源を最大活用し、全体最適を得ていると勘違いしてはいけません。現場は素晴らしい医療行為を行っているにも関わらず、赤字になり病院運営が立ち行かなくなる組織が多いのはそのためです。

 

病院経営には、病院経営の科学があります。マネジメントには枠組みがあり、そのフレームワークに沿って運営が行われることが必要であり、それができて始めてヒト、時間、情報、モノ、カネがうまく使えることになるのです。

 

  • 病院全体の戦略や方針、事業計画立案や経営方針の提示、BSC等目標管理の展開や各種医療ツールの整備といった組織運営のためのあらゆる行動を計画し、誘導し、成果をあげるガバナンスによるマネジメント(組織マネジメント)
  • 業態固有のDPCならDPC、出来高なら出来高、地域包括なら地域包括、回復期なら回復期、療養であれば療養、精神であれば精神といった業態固有のマネジメント(業態別マネジメント)、
  • 医局、看護部、事務部、診療支援部のターゲットやブレイクされた部門別損益をベースとして各部署をまとめる各部門を管理するためのシステム(部門マネジメント)、そして
  • 改善をベースとした現場での業務の最適化の仕組み(現場マネジメント)、
  • 部署間の相互の連携がうまく進み、部分最適ではなく全体最適を目指す仕組み、対応(部署間コンフリクトマネジメント)

を徹底してそれぞれの目標を達成できるよう、マネジメントをしていかなければならないのです。

 

整理すると、病院はマネジメントがなくても医療を行うことはできます。しかし、懸命に動けば最大の成果をあげていると理解するのは正しくはありません。

 

財政逼迫、少子高齢化、人口減少、世界経済の減速、円安、可処分所得減少等、日本はとても厳しい医療環境を迎えています。

 

現場で日々発生するさまざまな問題にその都度対応するだけではなく、あるべき組織運営を行うために、病院には病院としてどのような経営のフレームワークやガバナンスがあればよいのか、そしてそれをどのように使い成果をあげていけばよいのか真剣に考え、不足するものを補っていく時期がきたと私たちは考えています。