よい病院、よくない病院の見分け方[石井友二]

マネジメントの巧拙が、病院の良し悪しを決めます。多くの病院コンサルティングの成果をお伝えし、自院の運営に役立たせていただくことを目指します。職員がやりがいをもって働ける環境づくりも、もう一つの目的です

田園に身を置いて

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以前、東京交響楽団の演奏会で、田園を聞きました。ベートーベンの闘争的性格に終止符を打った交響曲であるといわれています。田園はとても有名な曲なので、その旋律は誰でも聴いた事があると思います。

 

パンフレットを見て第一楽章から第五楽章までのストーリを知り、より鮮明に曲のイメージをもてました。交響曲のストーリーは物語のようで、すべての事象には起承転結があるのを改めて確認することができました。

第一楽章は、田園に着き、その広がりのなかで気持ちのよい、そして快活な感情を表す。第二楽章は、小川がながれていてそのほとりの情景をほうふつとさせバスの音、そして風をバイオリンで表現。ほんとうに嵐にあった、そして雷がなっているるイメージを喚起する。

 

第三楽章は、田園の人がたくさん集まり、明るくそしてユーモラスな雰囲気を表現する。第四楽章は、雷雨と嵐がきた情景。ディンパニの音やコントラそのものをイメージしています(聞いていて臨場感がありまるで自分が嵐のなかにいるようにドキドキしました)そして、第五楽章は、羊飼いたちの歌。嵐がすぎてすがすがしい希望の音でサントリーホールは満たされていました。


ベートーベンの前のハイドン交響曲第三番ト長調、ドボルザークチェロ協奏曲ロ短調作品104(ジャン=ギアン・ケラス→アンコールで演奏したバッハがよかったので、CD買っちゃいました)の二曲にはストーリーはあるものの、どちらかというと純粋な音楽理論に構築された、旋律の構造をつくりあげるためのストーリーであるとの思いがあります。

対位法的技巧(音楽理論の一つであり、複数の旋律を、それぞれの独立性を保ちつつ互いによく調和させて重ね合わせる技法がほどこされている)…といった表現で説明がなされています。

 

ただ、例えストーリーを知らなくても、我々に音の気持ちよさを感覚で拾う作業を続けさせることで心が震えるよう音楽がつくられている、といった気がしました。

 

音楽の本来の聴き方としては、ストーリーを納得したうえで、ふむふむ、これが嵐だといったわかりやすさによる納得感ではなく、心が景色を感じられることが求められているのでしょう。

歴史や背景などを知り音楽を分かり易くすることはある意味必要ですが、そうしすぎると感動をする暇がありません。なるほどという部分での感激はあっても、そちらに意識が向きすぎると、心が打ち震えるような意図しない感動は薄れることがあります。

 

曲そのものの旋律や、心に伝わる音楽の鼓動、そして空気を伝わる波動に触れてこそ人は感動するのだと思います。

 

ところで医療はどうでしょうか、科学的な根拠、理論的な選択肢を説明する。そして説明することにのみ労力を割く。それはもしかしたらインフォームドコンセント(医療職と患者との十分な情報を得た上での合意)が義務だから。説明をすることで免責される、という思いが何処かに透けて見えることがあります。

 

一方、患者の立場に立ち、常にベストの仕事をする医療従事者が、分かり易くしっかり説明を行いながらも常に患者と心で接する。

 

そのことで患者は理論的には完全に分からないとしても納得し、医療側の思いや心が伝わり、接している、話しているだけで患者は感動し、自分は頑張らなければならない。早くよくなりたいと自らの生命力を呼び起こすことができるのだと考えています。
 
説明をすればよいのではない、理論的に分かってもらうだけで免罪符を得てはいけない。医療人としての思いをもって患者に接し、彼らの理解と前向きな気持ちを持ってもらうための綿密な仕組みやスキルを高めるトレーニング、そしてそのなかで育成される精神性、何とかしたいという思いにより、患者に自然に感動を与えることができるのです。

 

事実、現場では多くの医療従事者があらゆる場面でそうした思いを持って行動しています。患者に対し、複数の医療従事者が対位的技巧法にあったように「複数の旋律を、それぞれの独立性を保ちつつ互いによく調和させて重ね合わせ」チーム医療を以て活動しているのです。

 

彼らの思いの重さに叶うものはなく、医療従事者では無い私にこの話をする資格はありません。しかし、インフォームドコンセントについて考えることは、マネジメントのあり方の一つのテーマだとも思っています。

 

技術に裏付けられた、心の医療を行うことを阻害する要因を排除し、職員が力を発揮できる最適な環境をつくるための一助として支援をさせてもらう喜びがあります。

 

今日のコンサートのなかで、田園に身を置いて感動しながらふと考えたことでした。
 

他者とのよりよい関係づくり

組織や人は自分だけで存在しているわけではありません。言うまでもなく関わりのある他者との関係性のなかで何かを行い何かを得ています。自分や相手のことをよく理解した上で、他者となんらかの関わりをつくり、積極的に何かを生み出すことが有益です。

 

ところで、孫氏の兵法で有名な、「彼(かれ)を知り己(おのれ)を知れば百戦(ひゃくせん)殆う(あやう)からず」すなわち相手の状況を知り、また味方の実力を知り、両者の比較の上で戦略的に行動すれば戦うに危険はない、という教えがあります。

 

ビジネスにおいては関係する他者はすべて敵か味方かではなく、各々の取組みより社会の効用を高めていくことが組織や人の使命であるとすれば、成果を最大化するために皆ができるだけよい関係をつくり行動することが必要です。

 

人でもほぼ同様のことがいえますが、以下組織(会社)を対象として説明します。

 

まず「自社は何者なのか」を知ったうえで、自社の領域で活動する他社と自社の関係を定義します。次に「相手がどのような考えで行動しているのか」を掌握し、自社にとっての共通点や受け入れられる点、さらには自社にとり有益なポイントを明らかにします。そして現状の関係から、本来はこんな関係になれる筈という仮説を立て、よりよい関係をつくりあげるための行動をとります。手順は

 

  1. 自社分析
  2. 他社リスト化
  3. 他社分析
  4. 有益ポイント抽出
  5. 取組み対象会社決定
  6. 活動開始

となります。

 

他社と自社との関係を整理するには他社を

  1. 競合(competitor)
  2. 協調(collaborators)
  3. 補完(complementer)
  4. 創造(creator)

の4分類で管理すると分かりやすいですね。我々はここでいうビジネスリレイション(仕事における関係性)分類をbusiness4C=B4C分類とよんでいます。

 

ここで競合(competitor)とは、のちに説明する7つのファクターが異なるか同質かは別として、争いがあり共に前に進めない関係です。何かが影響を与え一緒に何かをしよう、つくりあげようという関係にありません。

 

また、協調collaboratorsは、利害や立場などの異なるものどうしが協力し合うことをいいますが、広義には互いに協力し合うことをいいます。すなわち利害や立場が同じ領域にあっても協力し合うことも含んだ概念だと理解しています。

 

補完complementerは、お互いに足りない部分を補って、完全なものにすることをいいます。仕事の領域は同じでもそうではなくても不十分なところを補足し合い価値を創りあげることを意味しています。

 

創造creatorは、お互いのリソース(資源)を活用し、まったく新しい分野での協力を行いながら今までにない価値を創り出す関係をいいます。同じ領域で同じ仕事をしていてもしていなくても、新しい何かを創りあげる関係を持つ対象をいいます。

 

それでは自社と関係のある他社は、競合関係なのか、協調関係なのか、補完関係なのか、創造関係にあるのかを、どのように判断しB4C分類を行えばよ、いのでしょうか。

 

拠り所になるのは、

  1. 属性や哲学
  2. 思想や思考
  3. 目的や目標
  4. 商品やサービス
  5. 品質や価格
  6. 市場やエリア
  7. 戦略や行動

です。

これらを「7つの要因(factor)」といいます。他社を4分類にマッピングするためには、

関係する重要な相手先をすべてリスト化し、A社は競合関係、B社は協調、C社は創造、D社は競合、E社は補完、F社は…と現状の関係を定義したうえで、それぞれ7ファクターの分析を行います。

4分類のどこかに位置付けられている相手先をじっくり観察すると、例えば何かの事情により現状は競合になっているけれど、7ファクター分析をしてみると実はB4Cにおける現時点の分類は、別の関係に移行できるのではないかと気付くことがあります。

 

今は競合であっても協調できるし、補完できる。また創造にも取り組むことができる、という仮説です。

 

属性や哲学、思想や思考がどうしても相いれないということ以外は、自社と他社との状況により、この領域では協調できる、この商品では補完できる、このサービスでは創造者としての関係をつくれるということが見えてくるのです。

 

振り返ると、何かのタイミングで競合だった会社が業務提携や資本提携を行うことは日常茶飯事です。自社を知り、他社を知り何らかの取組みを各社が行うところから新しい価値が生まれていることを再認識しなければなりません。

 

このような動きは大きな会社だけの出来事ではありません。

 

私たちは回りを見渡し、現状考えている他社との関係が適切なのかを常に検討し、そうではないポイントに大きな誘因があれば、積極的に活動して良い関係をつくり、新しい価値を生み出していくことが求められています。

 

とりわけ同じ方向に進みながら自社には不十分だが他社には十分であるファクターと、逆に他社には不十分で自社には十分なファクターがあり、双方にメリットがあるケースにおいては補完を行う必要があります。補完関係を探索することが成長への大きな命題の一つだし、両社に受け入れやすいと考えているのです。

 

なお、前述したように人においてもほぼ同様のことがいえます。

 

自分の周りにいる社内外の相手をB4Cで(要因を人仕様に多少変更した)7ファクター分析を行い、彼らとはどのような関係にあるのか、どのような価値を生む関係づくりを行えばよいのかについて検討を行うことが重要です。

 

競争相手(競合)がいたときに、胸襟を開いて本来のあるべき関係をつくるために相手に対し協調者、補完者、創造者としてのポジショニングを行うことができれば、そこから様々なことが見えてきます。

 

それぞれの相手とのあるべき人間関係をつくれるよう、仕事に対する姿勢や態度を見直し日々経験を積み、力をつけ、彼らから求められる自分づくりに励むことが必要と気付くのです。

 

B4C分類及び7ファクター分析を行い、会社においても自分においても従来の仕事から一歩前に踏み出す取り組みができるよう活動していくことで、他者とのよりよい関係をつくり新しい価値を生みだせると考えています。

 

自己を活かし他者と連携して前に進むことの大切さを再認識しなければなりません。

 

 

ジグザグに進むことの効用


どこかに行く時にジグザグに進むことがよいのか直進するのがよいのかと聞かれれば、毎日アプリで最短のルートを検索している身としては、後者であると即答します。いうまでもなく乗り換えが少なく短時間で到着するのは便利で合理的だからです。

 

しかし、仕事となるとそうはいきません。

 

ある日のこと、あれとこれを何時までにかたづけて、次はこの予定といういつものスケジュール管理をしていたところ、クライアントからこの仕事を至急でお願いしますとメールが来て、他の予定していた仕事ができなくなりました。

 

優先順位付けや突然依頼された仕事の段取りがうまくできていなかったこともあり、達成感のない、前に進めない時間になりました。緊急の案件が入ることを想定してスケジュールを組むと頭では分かっているとしても理想通りにはいかないことはよくありますよね。その後雑務をこなし次の仕事にとりかかったのですが、ここでもいくつかの問題が発生し時間が上手く管理できずに疲れて一日が終わり翌日に予定をずらす結果になりました。思い通りに前に進めなかったのです。

 

そもそも横やりが入らなくても、仕事を前に進めようという強い意思が欠落したり、進めるにあたり例えばカネやヒト、時間や情報などいくつかの制約があり壁にぶちあたることは仕事を進めるときの常識です。

 

カネが足りないときには、どうすれば融通できるか、あくまでも調達し購入するのか、リース、割賦、レンタルにするのか、カネのかからない方法は何かといった代替案を検討しながら前に進みます。

 

時間や情報の壁にぶつかったときについても同様です。時間がなければ優先順位の高いものの完成度を60%、残りの時間でいま行うべき他の案件を20%ずつ万遍なく行い、時間が余れば、優先順位の高いものから完成度を高めたりします。

 

さらに情報不足には自分で足を運んだり、スタッフや他の人に依頼してタスクをクリヤーしていくといった対応を行うといった具合です。

 

ところでジグザグに進むというとき一番はじめにイメージするものはなんでしょう。私はアリです。ファイナーマンの研究では、アリがジグザグに進むのは、あるアリがチームで餌を運ぶとき、チームメンバーであるアリのうち指揮係として動くのはわずか10〜15秒ほどの短い時間で、その後指揮係は方向感覚を失って集団の一匹に戻り、今度は他のアリが指揮係になり前に進むと説明されています。

 

リーダーの交代はリーダーがながくリーダーシップを発揮できないという制約をクリヤーする方法なのだと容易に理解できます。

 

ことほどさように、仕事において人は直進できず、立ち止まり、一歩下がったり、横に移動したり、また前に進んだりと不規則にジグザグに進みながら前に進もうと努力するのが常態です。仕事を行う多くの人にとり、一つ一つの仕事をみると自律的、他律的な要因により直進できないことがあるのは当たり前だという結論です。

 

そうであれば「仕事は直進ではなくジグザグに進めるもの」、という仕事に対するイメージを以て事に当たることが適切です。ジグザグする仕事のイメージを念頭に、

  1. どこで止まり何を検討しなければならないのか、
  2. そのときにどのように壁を回避していけばよいのか、
  3. ときにはどうやって乗り越えていくのか

といった想定を事前に行いながら仕事を進めることが有益です。

 

なお、いろいろな方法を繰り返し試みて失敗を重ねながら解決方法を追求することを意味する試行錯誤や、結果は出せたけれども、さまざまな事情によって物事がスムーズに進まないことをいう紆余曲折も、まさに仕事は直進できずジグザグに進んでいくことを示した言葉なのだと認識できます。

 

ジグザグに進むことで多くの失敗や成功を知り、経験を積んで成長できるのであれば、自ら進んで多くのジグザグにチャレンジすることも無駄ではなく、人生の喜びなんだとも再確認できます。

 

仕事の段取りの範疇に含まれるのかもしれませんが、前述の突然の仕事も事前に予測できていれば戸惑わなかったし、余計な労力や時間をロスすることもなかったと思います。仕事の進む経路をイメージして俯瞰し、想定される制約の排除や課題の解決を数多く行える人ほど仕事をうまく進めていけると考えているのです。

 

仕事は直進できずジグザグに進むものであるという前提のもと、多くの経験と学習により得られた知見や知恵をもとに仕事全体のイメージをつくれることが成果を最大化する要諦であると理解し、仕事に取り組んでいければよいですね。

 

そして、ジグザグに進むことが仕事をうまく行うポイントであるとしたうえで、さらに高い視座から鳥瞰図的に自分の人生を振り返ったとき、スタート地点から自分のやりたいこと、やらなければならないことの集大成としてのゴールまで、おおよそ一直線に進んだと感じられる仕事ぶりだったと思えることが必要です。

 

日々はジグザグに進んだとしても、常に自分に向き合い、自分の思いを達成するための方向に真直ぐに生きられた事実を心に刻めるよう精進しなければならない、と改めて思います。

接遇は思いと技術の発露である

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医療では、患者を心から慈しみ、彼らが安心して医療サービスを受けられるよう笑顔、挨拶、礼節、すなわち接遇は不可欠です。

 

しかし「接遇とは患者のニーズに応えること」をいうのであり、いくらよい笑顔をしても適切ではない医療を提供するのであれば、目的を達成することはできません。

 

ある病院で「笑顔で丁寧に対応してくれる看護師さんの注射が下手で痛かった。教育をしっかりして欲しい」とのクレームや、古い話ですが「病棟で、とても愛想のよい看護師さんについてもらい安心していましたが、あるときみると点滴に違う人の名前が書いてありました。気を付けてもらいたい」というアクシデントがありました。従来の接遇の意味が失われた事例です。

 

医療従事者は、挨拶、笑顔、礼節をもて患者に対応するのは当然のこととして、まずは基本的患者対応を行う必要があります。

 

そもそも医療への強い思いがあり、高い質をもつ医療従事者は、自らに誇りをもち自信をもって患者に接することができます。自信が患者への優しさにつながり、思いの表れ(発露)として自然に笑顔、挨拶、礼節が提供される。これが本来の医療の接遇です。

 

ある病院で、「〇〇さんとは、特に言葉は交わしませんでしたが、いつもてきぱきと処置をしていただき、とても安心して入院生活を送れました。ありがとうございました」というアンケートがありましたが、本来の接遇の範となるものです。

 

それでは、医療の質はどのような視点から考えればよいのでしょう。我々は、

  1羞恥心を(なるべく=以下同じ)与えない

  2恐怖心を与えない

  3痛みを与えない(心身共に)

  4納得してもらう

  5不便を与えない

  6不快な思いを与えない

  7不利益を与えない

という7つの要素から医療の質を捉えています。

 

先ほどの事例でいえば「痛みを感じないうちにあっという間に終わる採血」や「正しい処置が迅速に行われる」業務の質が求められます。

 

7つの視点から職員がもつ課題を日々の解決していくことで、医療の質は向上し、自信をもって患者に接することができます。これが医療における本来の接遇です。

 

医療行為における7つの要素のありかたを分析し、どうすれば適切に対応できるのかを考え、医療に対する思いと技術を高め続ける必要があります※。

 

※実際にはマニュアルを7つの要素からスクリーニングし、これらが充足されている手順や留意点、必要な知識が記載されているかを確認する作業を行い、不足するところを追加するとともに職場内教育で個人に徹底するという活動を行います。

 

笑顔、挨拶、礼節は、思いと技術の発露であり内心から自然に行われる、その人の生き方の表れです。

 

思いと技術を持ち、患者の立場に立ち適切な医療技術を提供することが本来の接遇である、という考え方を徹底している組織は、患者から安心され、信頼をうけ、信用される医療機関として認知され発展しています。

 

なお、実際に7つの要素を見てみると、これらの考え方は患者だけではなく、組織内外でも上下無関係(上司、仲間、部下、取引先)に人との関係性をつくりあげる基本的行動であるし、また医療や介護以外のどのような業種にも当てはまる普遍性を持っています。

 

各業種で具体的な落とし込みを行うことが有効ですね。あらゆる業種において、本来の接遇(仕事のあり方)の考え方の徹底や、それらの教育のための職務基準やマニュアルの整備そして評価システムの早急な構築が求められます。

金融機関とどう付き合うか

医療機関は金融機関との取引を避けられません。

いま日本が置かれている現状を鑑みると、金融機関との関係づくりがより重要度を増してくる時代になりました。

 

医療機関は金融機関と密接な関係をつくり、常になんらかの形で彼らの力を借り組織運営を行っていかなければなりません。ただ、業績が良ければ誰でも取引をしてくれますが、業績が悪化すると蜘蛛の巣を散らすようにいなくなる金融機関では困ります。

 

そもそも地域医療を守ることは地域住民の健康を守ること、それは地域経済の発展につながり金融機関の取引を増やします。その為にも金融機関な医療機関を支援する。なので地域医療と地域金融は切ってもきれない関係に置かれているといっても過言ではないのです。

 

随分前に内需拡大の救世主として医療や介護が注目されてから、医療機関に一層興味をもち、多くの金融機関で医療機関を担当する部署が設置されました。当該部署を通じ、融資や運用、リース、年金、保険、口座引き落とし、提携先・M&A先紹介、不動産仲介、業者斡旋等々金融機関からはさまざまなサービスを受けることができます。

 

取引を行い支援を受けるためには、金融機関の担当者に対して、毎月情報提供を行う必要があります。(私も銀行員でしたが)金融機関にはもともと親しい取引先を大切にするという文化があり、親密化すればするほど担当者が親身になって支援してくれる傾向にあります。

 

困ったときだけ連絡をとるといった姿勢では、この関係が構築できず、いざというとき助けてもらえません。財務的背景のコンディション(条件)は必要だとはいうものの取引は結局は人間関係から生まれることは間違いありません(ただ、ご承知のように金融機関では人事異動が頻繁であり人を通じた組織自体との親密な関係を誠意を持って対応する必要はありそうです)。

 

情報提供ですが月次の状況をただ説明するのではなく、患者数の変化やベッドの稼働率や平均在院日数、紹介率の数値を提示し、また患者の動向、他医療機関との比較優位の開示など、現状なぜこの状況であるのかについても理解してもらえるよう心がける必要があります。

 

なお、月次試算表や決算書だけ見ていても、現在は判るけれども将来がみえないと担当者が思うことがあります。医療制度改革や医療圏における他病院の動向、医師の去就、看護師定着率、新患率、実患者数、稼働率、平均在院日数、オペ数などの情報(動態情報)を織り込んだ事業計画を立案することで、金融機関を安心させることも一法です。

 

金融機関はそれらを閲覧、状況を聴取し納得することで、有利なサービス提供や、問題がない範囲で他病院の情報等を伝えてくれるなど、良い関係ができあがります。過去にない姿勢を以て金融機関との付き合いを強化しなければなりません。

 

ただし、金融機関と親しく仮に有利に取り計らってもらえるからといって、過大投資や冗費を発生させるののはナンセンスであり、借入は安易に増やしてはなりません。

 

BEP(損益分岐点)分析に基づく短期利益計画、投資経済計算による回収検討(投資経済計算)などによる投資を行うこと、結果として自己資本比率を30%、できれば40%以上とすることなど、財務的な要請を守らなければなりません。

 

もちろん、待つ医療から出向く医療を行うためには、医療のすそ野を広げるための、健診や在宅医療、サテライト展開、他事業とのコラボライトなどを視野に入れる必要があり、投資をしないという選択肢はありません。

 

しかし、少子高齢化のなか患者や働き手が少なくなるなかでの新病院建設などについて保守的な考えの元での投資が必要になることを忘れないことが大切です。

 

常に自院の財政状態を考え、それ以前に営業(医業)利益や営業キャッシュフロー確保のための政策を採用し、堅実な経営を行えるよう主体的な行動が求められます。

 

自己資本で全てを賄えるとしても金融機関との何らかの取引を行わないで組織運営を行わないわけには行きません。

金融機関を有効活用するためには、

・情報提供を怠らない

・静態情報だけだはなく動態情報を提供する

・未来を見据えたうえで保守的な運営を行う 

ことが大切です。なによりも常にマーケティングを怠らず何を行うのかを決め、決めたことを確実に行う、必ず成果を挙げるという姿勢でのマネジメントが必要ですね。

診療所繁栄のための基本行動

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最近、診療所の開業や承継がブームです。

 

診療所繁栄の基本は集患です。患者がどれだけ来院してくれるのかに全てが依存しています。パーパスを明確に打ち出すなかで来院を促す戦略を明確にするとともに、スタッフの質を高め、多くの新規患者やリピーター患者を確保しなければなりません。診療内容、プライマリー医療の質の担保、広報活動(プロモーション)、連携が基本となります。

 

外来診療所であれば開業時に、あらゆる組織に対し、挨拶や連携の申し込みができます。銀行、生命保険会社、商店会、老人会、自治会、レストラン、警察、施設、ケアマネ、訪看、病院等々枚挙にいとまがありません。

 

在宅療養診療所の開設であれば、さらに多様な営業活動を行う機会をもてます。上記に加え地域の急性期、回復期、地域包括ケア病床、療養病床をもつ病院、診療所や訪看、ケアマネ、施設が対象になります。

 

パンフレットや連絡先が書いてあるシールをつくり、往診時に何かあったときには相談にのります、と告知できます。シールを電話の傍に貼っておいてくださいと一言そえることが有効です。なお、いつ競合が同じエリアに進出してくるかもしれません。盛業中であったとして将来のためにネットワークづくりをしておかなければならない理由です。

 

開業して時間が経過している外来診療所であれば、まず現状分析を行い、診診連携や病診連携、施設との連携など自院がどのようなネットワークをもっているのか確認することからはじめます。

 

ネットワークに含めたい組織や団体のリストをつくり、関係者がすでに既知となっているか、また患者として来院しているのか、していないのか、紹介があるかないかを分析します。

 

うまく連携できていない先にチェックを行い、課題を発見します。先方のメリット、自院のできていないこと、何よりも患者のための連携ができているかどうかを議論し自院とのネットワーク化をどのように進めればよいのかを検討することが有効です。

 

結論として、診療所繁栄の基本は、地域で評価され評判となる診療を行うことですが、地域や患者、多くの組織とのコミュニケーション、そして信頼関係づくりを行うことが求められます。どうすれば相手が満足してくれるのかをしっかりと考え、こちら側からの様々なアプローチを行います。

 

なお、業務標準化や業務改善、評価・教育による診療の質を高めるとともにAI問診、顔認証による受付、遠隔診療、クラウドによる診診連携の強化若しくはユニット化の推進、スマホによる会計対応、異業種との融合による事業創造といったことがこれから取り組むべき課題だといわれています。

 

集患、単価アップ、医療の質向上による生産性向上、オンオフでのプロモーションを、明確なガバナンス体系を以て計画的に行っていかなければなりません。

CT空いています

「CT空いています」

先日ある病院の健診センター前で見かけたこの表示は今までにないとても斬新なものです。「心配であればいつでも撮影するので来てね」という医療側の思いを利用者に伝えるものだからです。

 

病院は従来待つ医療を行ってきました。「患者が来院したら診察や治療を行う場」というスタンスです。

 

しかし、メタボリックシンドロームのための特定健診やドクターズカフェで健康管理を誘導し、地域包括ケアシステムのなかで病院から在宅へというながれが生まれるなど、医療を取り巻く環境変化のなかで、幅広の保険予防活動の強化や医療の機能分化の取組みづくりが行われるようになりました。

 

積極的に患者や利用者に来院を促しまた外に出て、できるだけながく健康でいられるよう、またできるだけ安楽な社会生活を送れるよう地域住民に提案をする医療機関が増えてきたのです。

 

これはただ座して患者を待つだけではなく医療機関という社会資源を有効に活用し、どれだけ地域貢献できるかを試みる、一歩前に出た出向く医療の取組みが行われ始めたことを意味しています。待つ医療から出向く医療への転換です。「CT空いています」の投げかけもその一部であると理解しています。

 

なお、この病院は日本でも有数の法人に属する病院の一つであり、環境変化に対応できる組織運営の見直しを行うため積極的に業務改善活動を行っています。

 

総務や経理、医事や用度、営繕や地域連携室、秘書課などの事務部は、各部署が業務フローを見直し無駄な業務を廃止するとともに生産性を上げることを目標としKPIを設定してそれぞれの工夫により成果を挙げているのです。

 

例えばあるリーダーはスタッフを集め、

「目的が不明なもの、他部署に提出している書類の見直しを行い、作成しても利用しないもの、利用の意味がないもの、他部署に訪問して過去からの慣習で作成しているが今は利用していないもの、意味が薄いものを廃止しよう。無駄な書類はつくらない、止める、時間を短縮する、手間を省いていこう」と話し、自らが動いて背中を見せています。

 

どこでもある問題で薄々分かっていながら面倒くさいし事を荒立てたくないので皆が手を付けていない領域に、リーダーが具体的に手を入れ率先して活動している凄さがあります。

 

この病院では今までも看護部や診療支援部でのコスト削減活動が活発に行われていましたが、どちらかというと〇〇を使わない、購入しない、スペックを落とすといったコスト絶対額の削減でした。

 

一方、今回の事務部の活動は単位当たりコスト削減すなわち仕事の仕組みを変え、また職員の教育を行うことで仕事の質を上げ、同一資源での成果を向上させること、時間当たりの人の生産性を高めて付加価値業務に時間を割いたり人員削減を行うという本質的なコスト削減を行うものです。

 

もちろん、その背景には病院のDX化があり、定型業務におけるRPA(ロボテックプロセスオートメーション)やグループウェアの活用が行わています。

 

事務部のこうした動きは他の部門における紙媒体での業務や無駄な作業の廃止へと続くことが予想され、他の医療機関でも徐々に浸透してきたタブレットによる患者とのやりとりについても計画しているという話がありました。

 

「CT空いています」の表示は先駆けて健診センターが医療機器の稼働率を上げ、生産性を高め健診センターの持てる役割や機能を果たしたいという思いから生まれた改善行動であるとも考えられます。

 

医療機関の改革やDX化は一般企業と比して遅れてはいると言われていますが、このような職員の能動的な活動こそが病院のリーン(無駄を省く)な運営を後押しします。

 

医療環境がどのように変化しても柔軟に対応して長く地域に残り、地域住民に高い効用を提供し続けられる病院が一つでも増えることを心から期待しています。